Phase.388 『レベル上げ その2』
遠目に見ても解った。
トモマサ達がぞろぞろとウルフの方へと向かって前進していくと、近くに潜んでいたウルフがトモマサ達に襲い掛かった。4匹は、いる。
最初に襲われたのは、モンタと小田。だけど近くにいた翔太や、大谷君達など周囲にいる者がすぐさま助けに入る。武器を振り回す。
トモマサは、まるでランボーのように雄たけびをあげて両手に持っている斧を振り回した。他にもウルフは、沢山徘徊しているしこちらの隙を狙って、襲って来ようとしている。そいつらの注意を、できるだけ自分一人に集中させようとしているのだろう。
実にトモマサらしいと言えばそうかもしれないけれど、あの性格には大きな危うさも感じる。
「かかってこい、犬ころ共があああ!! 俺様が相手だあああ!!」
トモマサの両隣には、翔太と堅吾が立ちその後ろに皆が続く。
ガルウウウウ!!
何匹ものウルフの鳴き声に、トモマサ達の雄叫び。知らず知らずのうちに、皆の戦っている光景を目にしている俺は、目の前のバリケードを思い切り掴んでいた。力が入る。心配してくれているのか、北上さんが声をかけてくれた。
「ユキ君」
「え? ああ、大丈夫。今のところは大丈夫だろう。ほら見て、トモマサが早速襲ってきたウルフを斧で叩き切った」
「うん。トモマサは兎も角、皆最初は怖がっていたけど、今はこんなにも戦えるようになったよね。まるで本当にファンタジー世界に登場する戦士とかみたいだよね」
「ああ。でも油断はできない。ゴブリンがそうだったように、ウルフも群れのボス次第で行動も変わってくると思う。何かあったら直ぐに俺達が出て行って、皆を援護し拠点に逃げ込ませないと」
頷く北上さんと、大井さん。俺は、じっとそのままトモマサ達をハラハラしながら見守っていた。
皆、戦っている。思ったよりも連携が取れているし、跳びつかれたりはしていても、大怪我を負ったものはいない。逆に揃ってくるウルフを上手に避けては、何匹も倒している。
それから20分程度経った時、丘の方にいる大型のウルフに動きがあった。緊張が走る。
「トモマサーーー!!!!」
叫んだ。思い切り叫べば、聞こえるギリギリの距離。トモマサや翔太は、俺の声に反応したので、俺は大きくリアクションをとって丘の方を直ぐ見ろと腕を振って伝えた。
ウルフの群れのリーダー。
アオオオオーーーーーーーン!!
天に向かって吠える。それにはトモマサ達も、何事かと一瞬固まる。するとトモマサ達を囲んでいたウルフの群れは、一斉に丘や西にある森の方へと駆けて行き、姿を消した。
俺はまた大きく手を振って、トモマサ達に今すぐ拠点に戻るように指示を出した。トモマサは、仲間に掛け声をかけるとこちらに向かって駆け始めた。良かった、ここから見る限りでは誰もやられていない。それに大谷君達も、必死になって戦っていた。全員が何匹もウルフを仕留めた。
倒したウルフは、なんと全部で30を超えていた。拠点の付近でもあるし、死骸をそのままにはしていられないので、トモマサ達は穴を掘るとそこへ倒したウルフ達を埋めた。もちろん、埋める前に北上さんと大井さんに頼まれて、死んでいるウルフの身体から黒い石を取り出した。数が数なので、粒は小さいけれどそれなりに集まる。その全てをとりあえず、北上さんに預ける。
もう今晩は襲ってこないだろうと思い、俺も拠点の外へ出た。そしてスコップ片手に、トモマサ達の作業に加わる。翔太が隣に来て言った。
「肉にした方が良かったかな?」
「いや、ちょっと俺はノーサンキューかな。もしも飢えていたら、食べるかもしれないけれど、どうしても犬に見えるからな」
「そりゃそうか。ウルフ。魔物だけど、読んで字の如く、狼だもんな」
「椎名さん、秋山さん! 作業、終わりました」
小田とモージが、揃って俺達に報告しに来た。
「そうか、それじゃ皆に伝えてくれ。今日はこの辺にして、拠点内に戻ろう。それでスマホを持っている者は、自分のレベルを確認し、レベル5に達していなければまた明日トライするって」
「うっす! 解りました!」
2人は他の皆のもとへ駆けて行き、俺が頼んだ事を他の者へ伝えてくれた。大谷君達だけじゃない。小田やモージも頑張ってくれている。そう思うと、ふいにいなくなってしまった陣内や成子の事を思い出してしまった。いい奴らだった。
作業が終わると皆拠点の中へと引き返す。だけどトモマサだけが、まだ拠点の外に出たままで、両手には斧を握って丘の方を眺めていた。さっき、大型のウルフがいた丘。
「おい、トモマサ」
「ああ?」
「拠点の中へ戻れ。気になるのは解るけど、バリケード越しにでも丘の方を見れるだろ?」
「ああ」
なんか気の抜けた返事。隣に行く。
「おい、どうしたんだよ。ウルフの群れを蹴散らしただろ? 大手柄じゃないか」
「ああ。でもあのデカいのを取り逃がした」
「そうだな。でも良かったのかもしれない。あれはウルフというにはデカすぎる」
「俺じゃ、勝てない。そう思っているのか?」
「トモマサはプロレスラーなんだろ? しかも現役の。それだったら俺なんかより、何百倍も強いよ。でもあの大型のウルフは、何か怖いものを感じた。お前なら、対抗できるかもしれないけれど……やっぱりもしもを考えるし、四方八方から他のウルフと一緒に飛び掛かられたら流石のお前だって」
「いや、俺は勝つぜ! 喧嘩なら、絶対負けねえ」
「解ってるけど、頼むから拠点の中へ入ってくれ」
トモマサの肩を掴んだけれど、動こうとしない。
「頼む。それとも何か? このまま一晩中、ウルフがまたやってくるまでここで待っているつもりか? お前はいいかもしれないが、お前の事を心配する奴は、ここには大勢いるぞ。知っているだろ。そいつらがお前を心配して、一緒にバリケードの外に出て、もしウルフや他の魔物にやられでもしたらどうするんだ?」
そこまで言うと、トモマサは俺の方をやっと振り返り、鼻をかいてニヤリと笑った。そして俺と一緒に拠点の中へと入った。




