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Phase.386 『迫る不安 その2』



 北上さんと大井さんが、バリケード越しに拠点の外を背景しているウルフに向かってコンパウンドボウを構えた。すると狙いをつけられたウルフどもは、ササっと移動して暗闇に消えたり西側の森に入ったり、草むらに身を隠したりと姿を消した。


「ちょっと、拠点の外をうろついているウルフ達だけど、物凄く頭がいいんだけど」


 大井さんがこちらに振り返って、困った顔で言った。


 今、重要な事は、外をうろつくウルフをどうにかしないといけない事だった。気軽く出歩く事もできない。退治可能ならば、来るべき日までにレベルが足りてない者の経験値の足しに、あのウルフをどうにか使えないかって事も考えていた。


 それと、こんな時にどうかしていると思うかもだけど、俺は……大井さんの困った顔がなぜか魅力的に見えて……それでいてどうしようも綺麗で、うっとりしていた。美人だとは、思うけど何気ない表情というのは、とても魅力的に見える。


「ちょっと、ユキ君?」

「え? あ、はい! いや、別に大丈夫です!」


 北上さんに何かを気づかれて、正気を取り戻す。


 別に大井さんの事を、異性として好きとか……そういうんじゃない……はず。いや、大井さんみたいな綺麗な人が、俺みたいなのを恋愛対象にすること自体がありえないことなんだけど……それでも俺だってこれでも一応は男だし、綺麗な人とか可愛いと思った人には目は奪われる訳で。


 …………。


 なんか自分でも今、なぜこんな事を考えているのか解らなくなってきていたし、なんとなく思っている事も、とても言い訳っぽい感じがしてきたので、意識を強引にウルフへと向けた。


 するとある事に気づく。


「さっきより、数が増えている感じがするな」


 それを聞いた皆も、バリケードの外に目をやって驚いた表情をした。大井さんが言った。


「ウルフは、昼に狩りをするタイプもいれば、夜に狩りをする夜行性もいるわ」

「っていう事は、今俺達の目の前にいる奴らは、夜行性って事か」

「多分ね」

「多分?」

「リーダーがいるでしょ」


 拠点の外。更に向こうに見える丘。そこに大きな狼のシルエットがある。皆は、一斉にそれに目をやった。


「ウルフは1匹2匹じゃ、それほど脅威じゃないけれど、群れになるととても危険になるの。ユキ君は既に経験済みだろうし、皆もそれは知っているでしょ」

「ああ」

「更に群れにはリーダーがいて、群れ全体を仕切っているの。そのリーダーの力が強ければ、群れ全体の力が上昇する。厳密に言えばそれだけではないんだけれど、簡単にいうとリーダー次第でウルフの群れ自体が、とても賢くなるし手ごわくなるわ」


 大井さんの言葉を聞いて、北上さんは何度も頷いていた。これは、大井さん自身の経験からも言える事なのかもしれない。だけど共感している者は、北上さんや俺の他にもいる。ウルフの群れは、リーダーがいればとても手ごわくなるし、逆に考えればそのリーダーを見つけて先に仕留めてしまえば、他のウルフ達は、明らかに弱くなるか四散してしまう。だが、そうは簡単にはいかないだろう。


 今、俺達の拠点の周囲をうろついて何か仕掛けてこようとしているウルフ達。そのリーダーは、あれほどの巨体を持つ奴だ。この群れは、もしかしたらとても手強くて危険な奴かもしれない。っというか、俺自身もその可能性を否定できない。懸賞金が500万もかかっているのが、裏付けにもなる。


 トモマサが、大井さんに言った。


「そんじゃどうするんだ? 夜行性ってんなら、放っておけば朝にはいなくなるだろ? それまで待つのか、それとも打ってでるか。俺は正直このまま思い切って表に出て、ちゃっちゃとあの犬っころを片付けた方が、話が早いんじゃねーのかって思っているけどな」

「フフ、トモマサ君なら簡単かもしれないけれど、もしもの事も考えないといけないわ」

「もしもの時ってなんだ?」

「外をうろついているウルフ、夜行性かもしれないし……そうじゃないかもしれない。頭もいいし、既に私達がこの拠点から外へ出るように、何か策を練って仕掛けているのかもしれない」

「なんだよそりゃー。めんどくせーー!! そのまま行って、ドガッとやって帰って来ちゃ駄目なのか? 今までゴブリンやコボルト、ハンターバグとかそういうの相手だってそんな感じでやっつけてきただろ? 襲ってくる奴がいれば、こちらからで出向いてやってやっつけてやればいい」

「でも何があるか解らない訳だし……」

「めんどくせーよー。あんなのちゃちゃっと行って、ちゃっとぶっ殺して戻ってきた方が楽で良くないか。それにその方が、逃げていくだろうウルフ共にしても、しっかりと俺達の恐怖が伝わるってもんだ! なあ、ユキ。俺にやらせてくれよ、いいだろ?」


 うーーん、どうしようか。


 大井さんの顔を見ると、明らかに気が進まないようだし、逆に気乗りしているものもいる。明らかにトモマサの案に対して賛成している顔をしている者がいるのだ。誰とか言わないけれど、翔太とかな。


「なあ、ユキ。いいだろー?」

「でもなー」

「頼むよ。ちょっと表に出て、犬っころどもを脅かしてやるだけさ。それで追っ払えれば、一番だろーがよ」


 追っ払う。


 はっきり言ってしまえば、トモマサはウルフどもを追っ払う気はない。強い魔物と戦いたい。文字通り、血沸き肉躍る戦いがしたくて、異世界へやってきたのだと最近改めて思うようになった。もちろん、普段俺達と一緒にいるトモマサも、楽しそうにしている。


 だけどこいつは、戦いたいのだと。

 

 そう、ゲームやアニメ。ファンタジー世界に登場し、魔物と勇敢に戦う戦士。それそのもののように、感じた。トモマサは、俺とは違って絶対的な勇気を持っていた。もちろん、それは彼が普段からプロレスラーという仕事をしていて、強靭な肉体と精神を持っているというのもある。


 だから、持っているのだ。


 決して臆する事がなく、魔物と戦える勇気という常人ではなかなか手に入れられないものを。

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