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Phase.385 『迫る不安 その1』



 ガルウウウウウ……

 

 ウウウウウウ……


 拠点の外をうろつく何十匹ものウルフ。目で確認できるだけでも、かなりの数の群れ。しかも今は夜。見えないだけで、闇の中にはもっと潜んでいるかもしれない。


 拠点は、有刺鉄線やワイヤー、板や馬防柵のようなバリケードなどに囲まれていて、そう簡単には入ってこれない。とは解っていても、獰猛なあの姿を見ると戦慄が走る。


 もしもここに拠点を守るバリケードなどがなかったとしたら……この『異世界(アストリア)』にやってきた当初の頃を思い出す。俺はウルフの群れに追いかけられて、一つ間違っていれば、噛み付かれ殺されて肉塊にされて、あのウルフ達の餌になっていただろう。恐怖する――


「幸廣さん。これ結構、周囲にいるッスよ。なんか見てたら心配になってきた。これ、何処からか、拠点の中へ入ってきたりしないでしょうね」


 ゴブリンやコボルト相手にはかなり強気な堅吾も、不安や怖れを見せている。


「今頃、成田さんや松倉君にも、この拠点にウルフが寄ってきているって話が伝わっていると思うから、そういうのもちゃんと解ってくれているし、見て回ってくれると思う」

「そうッスか……でもやっぱ、自分心配ッスよ。ちょっとその辺、あっちの方とか向こうとか見てきていいっスか?」

「それはいいけど、ちゃんと武器は持て。あと何かあれば、叫べ。拠点内なら、そこらに誰かはいるから、大声で助けを求めろ。いいな」

「押忍。それじゃ、ちょっと行ってきますわ」


 堅吾は、怖がりながらも拠点に異常がないか、何処からか内側にウルフが入ってくる場所がないかを見に行った。翔太と2人、ここに残る。


「おいおいおい、あれ見ろってばよ、ユキー。ヨダレ垂らしてこっち見てんぞ、あの野郎」

「俺達を喰おうとしているんだよ」

「どうして解るんだよ。ただ未確認生物である俺達に対して、威嚇しているだけかもしれないだろ?」

「それはない。見てみろよ、あの顔。狂気丸出しだ。それに話したろ。俺はこの世界へやってきて、ウルフの群れに追われて死にかけたって。食い殺されかけたんだよ。運よく目の前に丸太小屋があって、それが俺を守ってくれたけどな。でも足を食いちぎられかけて、病院行きになったよ」

「あー、そんな事を言ってたな。それじゃ、スタートエリアの丸太小屋の辺りまで、引き下がろうか」

「はあ!? そしたら誰があのヤバいのを喰いとめておくんだ? 俺達がしっかりしないと、奴らは、そのうちきっとここへも侵入してくるぞ。そしたら、未玖達も襲われるんだぞ」

「怒るなって。場を和まそうと言っただけなんだからよ。ユキーは、未玖ちゃんの事になると、こうだからな。まったく困ったもんだよ」

「別に否定はしないけど、お前だってもう未玖の事を妹みたいに思っているだろ?」

「もちろんだとも。俺、妹いないから、あんな未玖ちゃんみたいな可愛い妹がいれば、すげーいいよなー。めちゃくちゃ毎日あまやかした上で、更にあまやかすだろうな」

「なら、あまやかさないといけないな。もう未玖は俺達の妹みたいな存在で、この世界では家族なんだから」

「確かにそうだ。その通りだ。美幸ちゃんだって、海ちゃんだってそう思っているだろうし……」


 ガウガウガウガウガウッ!!


「ぎゃあああ!!」

「しょ、翔太あああ!!」


 大谷君達も経験したって言っていたけど、恐怖に吞まれてはいけない。身体が思うように動かなくなり、思考が停止する。だから翔太と、馬鹿な話で盛り上がって緊張をといていた。その時だった。いきなり拠点の外をうろついていた何匹かのウルフが、バリケードに襲い掛かってきた。


 バリケードは、丸太や材木、トタンにベニヤ板等々を利用して、成田さんが先頭に立って作ってくれた丈夫なものだった。だからこの程度では、破壊されない。でも絶対とも言えず、咄嗟に襲い掛かられ俺達は驚いてしまった。


 しかもバリケードに密着する程の場所にいた翔太は、バリケードを挟んで襲い掛かって来たウルフの衝撃を受けてその場に転がった。すぐさま駆け寄るが、驚いて転んだだけで怪我は特にないようだった。


「こえーー!! ちょーーこえーーよ、ユキ――!!」

「大丈夫だ。ほら見ろ。ウルフも気づけば、一目散に逃げて行きそうな連中がこっちにやって来るぞ」


 北上さん、大井さん、トモマサがこちらに駆けてくる。うちの精鋭部隊だ。


「それでも誰か、足りないと感じるのは俺だけか? ユキー」

「大丈夫だよ。ずっとこの世界を冒険して回っていた、長野さんが一緒なんだからよ。絶対、鈴森はここへ戻ってくるよ。間違いない」

「そ、そうだよな。孫いっちゃん、必ず帰ってくるよな。あんな奴でも、俺の大事な親友だからな。銃だってもっているしな」

「そうだ。鈴森と長野さんなら、無事だ。俺が保証するよ」


 そう、本当なら精鋭部隊っていうのなら、ここへ鈴森や長野さんが加わってくれるはず。だけど今は、不在。翔太に言っただけでなく、自分にも言い聞かす為にそう言ったけれど、本当に無事でいてくれと思う。


 今、思えば止めた方が良かったのかもしれないとも思う。


 俺達は、少しこの世界に慣れてきた。だからこそ、今この拠点に迫ってきているウルフの群れなど目にすると、一番用心しなければ危ないんじゃないかって思ってしまう。ゲームじゃ雑魚敵でも、現実ならとても危険な相手だ。


 …………


 長野さん……絶対行かなきゃならなかったのだろうか? 旅立って、まだぜんぜん時も経ってもいないのに、既に鈴森のあの口の悪さが恋しく思う。


 なんでもいい。なんでもいいから、早く!! 早くここへ戻ってきてくれ、鈴森も長野さんも! 心の中で、強くそう叫んだ。

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