Phase.382 『協力関係』
月曜日――夜。『異世界』にある俺達の拠点にて。
草原エリアにある女神像、その前に30人程が集まっていた。その中には、豊橋専務の姿があり、他にも見た顔があった。
未玖や三条さんは、人見知りも激しいので遠目から様子を見ている。だから成田さんやトモマサ、堅吾、アイちゃん達に大谷君達、皆を呼んで豊橋専務とそのクランの仲間を紹介した。
豊橋専務とその仲間の人達は、まだ草原エリアだけだけど俺達の拠点内を見回して驚きの声をあげていた。
「ほー、ほー。椎名君!」
「え? あ、はい!」
「ここはとてもいいじゃないか! 噂以上にいい場所だし、こんな拠点のリーダーを君が務めているのか!」
「ええ、でもここは仲間全員の拠点です。俺……私は、単なるリーダーを任されているだけに過ぎないので……」
「ははは、椎名君。ここは会社でもなければ、日本でもない。そもそも違う世界だ。だからそう、畏まらないでくれ。いつも通りに話してくれればいいよ」
「あ、ありがとうございます」
俺の仲間達と、豊橋専務の仲間達が見守る中、俺は専務と話を続けた。
「それで、今更だけど確認の為――僕達は暫く椎名君の拠点で住まわせてもらっていいという事でいいのかな」
「はい。とりあえずは、一週間後にやってくる転移サービス休止期間。その終了までという事で、よろしいですか?」
豊橋専務は、にこりと笑って頷いた。
「それでさー、早速なんだけど僕達は何処を使わせてもらえるのかな?」
「えっと、そうですね」
考える仕草をすると、豊橋専務は続けて言った。
「ここの草原エリアっていうのかい? この場所とか使わせてもらえれば、とても広くていいなー」
「はい。じゃあ、草原エリアを使ってください。空いているスペースがあればそこにテントや小屋とか、そういうのを建ててもらってもいいですし。あと――」
森路エリアやパブリックエリアでも、住める場所があれば使ってもらっていいと伝えた。そして基本的には、拠点内なら何処へ移動してもらってもいいし、好きにしていいと。
ただ畑や木に実った果実など目にしても、育てている者もいるので勝手に採取や木の伐採などはしない事。勝手に人の持ち物に触れたり、居住している場所に入り込まない事なども伝えた。
そうそう、メリー達の事もちゃんと言っておいた。
この拠点には、メリーとその仲間であるストレイシープという魔物がいる。その者達とは、多少の意思疎通が可能で、現在は俺達の大切な仲間でもあるから、決して傷つけたり酷い事をしないこと。彼らは羊の住処エリアという草原エリアから西に位置するエリアに住処を作っている事も話しておいた。
あとは、未玖が大事にしているコケトリスやピンク色の兎や、ストロングバイソンの事も。
「ストレイシープ!? そんな魔物がいるのか、ここには!? だいいち魔物と共存している転移者がいるなんて話、初耳だ! 今まで聞いたこともないよ」
「え? そうなんですか?」
「そうだよ、これは凄い事だよ! ストロングバイソンやコケトリスは知っているし、家畜にもできる事も解っている。だけどストレイシープって魔物は、存在もしらなかったし、ましてや我々と共存できる魔物がいるなんて思ってもいなかった。いや、既に椎名君も感じているだろうけど、ここが異世界というなら異世界人もいるはずなんだよね。人工物だってある訳だし。だけど……」
「誰一人として、未だ異世界人に会った者はいない」
「そうなんだ。ここは、異世界。異世界に転移したならとうぜん、エルフやドワーフ、獣人、ホビットとかに会いたいと思うよね。だけど僕も仲間もそうだけど、会う人会う人に聞けど探せど実際に会ったという者はいないんだよね。これは、結構な謎だよ」
俺もその事をずっと謎に思っている。この世界に転移してきた時に、初めて見たスタートエリアにある丸太小屋。そこで見つけた剣もそうだけど、それらを作った者がいる。間違いなく異世界人はいるはずなんだ。
「ああ、ごめんごめん。こんな話は、これからいくらでもできるよね。それじゃ結局僕らはどうすればいいかな?」
「そうですね。さっき言った通りでいいですけど、パブリックエリアは他の転移者も使用しますから、ここ草原エリアか森路エリアをお勧めします。あと南エリアもいいですが、あそこはまだ調査をしていない部分ですので別に入ってもいいですが、全て自己責任でお願いします」
「ほう、なるほど。じゃあ、その南エリアというのは、手付かずなのかな?」
「はい。一応、周囲を有刺鉄線やワイヤーで囲って、俺達の拠点という事にはしていますが、地中に巨大なセンチュウの魔物がいたりして……ちょっとまだどう使おうか検討中で」
「へえ、そうなんだね。それじゃ、その南エリアとここ草原エリアを中心に、テントとか僕らのベースを作らせてもらってもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
話がまとまって来た。
豊橋専務は、仲間達にこれから荷物をもって移動してテントを張ったりする手順などを伝えると、俺や他の俺の仲間達に向かって頭をさげた。
「それじゃ、これから暫く御厄介になります。クラン『フラグオブホープ』リーダー、豊橋昴を含む28名。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
成田さんや出羽さん、大谷君の声。俺のクランと、豊橋専務のクランそれぞれが挨拶し合い握手を交わした。これから暫くは、豊橋専務のクランと協力関係になる。
まさか自分の勤めている会社の上司と、こんな事になるなんて思ってもみなかったけれど、やはりこれからの事を考えると凄く心強く感じた。




