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Phase.38 『長野正業』



 俺と未玖(みく)の拠点。丸太小屋に戻ると、早速マグカップを用意しお湯を沸かしてインスタントコーヒーを入れた。……勿論、3人分。


 俺と未玖、それに川で出合ったおじさんの3人で焚火を囲んで珈琲を飲む。


「危うく君に槍で、突き殺される所だったわい……」

「す、すみません!! 魔物かと思って……人かどうか、ちゃんと確認してから槍を突き出すべきでした。本当にすいませんでした!」

「はっはっは。もういい。この辺にも魔物が沢山生息しているみたいだからの、確かにこの世界じゃ確認してからなんてしてたら身を守れんかもしれんわな」


 豪快に笑う、おじさん。いや、お爺さんか? 身体はごつくて俺なんかより遥かに腕力もありそうなこの男性。髭や髪は既に白く、おじさんというよりはお爺さんに見える。だが失礼かなと思い、おじさんと思う事にしていた。


 今は誤解も解けて3人で焚火を囲んで珈琲を飲んでいるが、未玖はやはりおじさんを怖がって俺の側にいる。


「服装から言って、君らも転移者だな。日本人じゃろ? 儂もそうじゃ。正真正銘の日本人で転移者じゃ」


 おじさんはそう言って、俺と未玖にスマホを見せた。


「はい。俺達も同じです。おじさんは、なぜこの異世界へ転移されたんですか?」

「おいおい、まあ待て。君は、自己紹介もせずにそんな話をするのか?」

「す、すいません」

「はっはっは、そんなに気を落とさんでくれ。ここは君達の住処だし儂は客にすぎん。それに昔からズバズバ言う性格でな、こちらこそ許してくれ」

 

 そう言っておじさんは、被っている帽子を脱いで頭を下げた。俺はこのおじさんが悪い人には見えなかったので、もっと話をしてみる事にした。勿論ここに連れてきているんだから、川で出会った時に既にそう思っていた事は言うまでも無い。


「俺は椎名幸廣(しいなゆきひろ)といいます。こっちの子は、未玖。こっちの世界で知り合った仲間です」

「椎名君に未玖ちゃんだね。儂の名前は、長野正業(ながのまさなり)じゃ。よろしく頼む」


 長野正業さんというのか。


 長野さんはそう言って、右手を差し出してきたので俺はその手を握って握手をした。続けて長野さんは、未玖にも同じように手を差し出す。少し震えて警戒する未玖。


「大丈夫じゃ、儂は君達に危害を加えたりは絶対にしない。単純に仲良くしたいんじゃ。駄目かの?」


 長野さんはそう言って真っ直ぐに未玖の目を見つめる。それでやっと誠意が伝わったのか、未玖は長野さんと握手をした。長野さんは未玖の小さな手を握ると、満面の笑みをして見せた。


「と、所で長野さんはどうやってこの世界へ来たんですか?」

「君らと同じだと思うが……女神像のあった場所だ。ここからもっと離れた遠い所じゃ」


 え? ここよりもっと離れた遠い所?


「儂は、ただただこの夢のような異世界を延々と旅してみたくての。それで、かれこれ1年程彷徨っておる」

「い、1年!!」


「そうじゃよ。まあそう言うても女神像を見つけては、食料品など必要な物を買いにもとの世界へ戻ったりもしておるがな。じゃが、もう儂にはもとの世界には、戻る場所もない。この異世界で骨を(うず)めればと思うておるわ。はっはっはっ」

「思うておるわ、はっはっは……ってこの異世界で1年もいてよく生きていられましたね」

「椎名君や未玖ちゃんは、どれくらいになる?」

「俺は、この異世界へやってきたのは先週が初めてです。未玖とも出会ってまだ間もなくて」

「ほう、そうなのか。未玖ちゃんはどれくらいこの異世界でいた?」

「…………二カ月……です」


 まだ警戒しているのかそれとも照れているのか? 言葉が足りない分、未玖の事を説明した。


「なるほど……それにしても驚きだな。よくもまあこんな小さな女の子が魔物だらけのこの異世界で二カ月もの間、生き延びてこられたもんだ」

「きっと未玖には他の子にないような、優れた機転とそれを実行する勇気があるのだと思います」


 傍でいきなり自分の事をそんな風に評価された未玖は、一気に顔を赤くした。そして、どうしようもなく恥ずかしくなったのか立ち上がって何処かに行こうとした。俺は慌てて声をかける。


「未玖、何処か行くのか?」

「は、はい……ちょっと、その辺……」

「そうか。でも柵の外へは絶対に一人で出ないようにな」

「うん……」


 こくりと頷くと、小屋の裏手の方へ走って行った。長野さんはそんな未玖を優しい眼で和やかに眺めていた。


「しかし、本当に凄いな。奇跡と言ってもいい」

「それなら長野さんも奇跡の人じゃないですか。この魔物だらけの異世界で1年も旅を続けていたなんて」

「はっはっは。まあ、儂の場合はただ単に運も良かっただけじゃ。これまでに恐ろしい魔物にも、何度も襲われた。その度に死ぬかもしれないと思った。実際に死にかけた事も何度かあったがの、その度になぜか運よく近場で女神像を見つけてもとの世界へ戻り病院へ行く事ができた。そう言えば戻るなり、救急車を呼んでもらう事態になった事もあったな。はっはっは」

「きゅ、救急車って……」

「儂がこの異世界で旅を続ける事ができた理由はもう一つある。これじゃ」


 長野さんはそう言って立ち上がると、出会った時に背負っていた大きな荷物の中から飛び出して目立っていた、何か長い物が入っている袋を取り出した。そして、袋を開けて中から棒状のそれを見せてくれた。


「え? これは銃!? ま、まさか……ほ、ほんものじゃないですよね?」

「散弾銃、本物じゃ。それとこれも本物じゃ」


 長野さんは続けて懐から拳銃を取り出して目の前に置いた。


 いきなり目の前に二種類もの銃を見せられ、それが本物だと言われた俺は暫くその銃を凝視して固まってしまっていた。

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