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Phase.373 『帰路 その5』



 そうだった。この『異世界(アストリア)』には、ゾンビの存在があった。


 ファンタジーにだって、アンデッド系の魔物としてゾンビは登場する。だけど現実世界で本当にゾンビと戦う事になると、これ以上に危険な存在はないと思った。


 既に陣内や成子は、ゾンビによって死んでいる。そう……とても危険な相手なのだ。よくあるゾンビ映画と同じで、ゾンビに噛まれたりしたらそのうち身体は弱っていき、死に至る。そしてその後、暫くしてゾンビとして復活して人を襲うのだ。


「おい、ユキ!! しっかりしろおお!!」


 トモマサが血だらけになった俺を抱えて立ち上がらせてくれた。小貫さんは剣を抜いて、周囲を警戒する。すると馬車の方から悲鳴があがった。


 目をやると、馬車から降りていた安藤さんと翔太が、別のゾンビと格闘している。暗くてよく解らないけれど、既に囲まれている。馬車の周囲には、きっと何十人ものゾンビがいて、俺達を取り囲んでいる。


「ユキ君、トモマサ、小貫さん!! 早く、こっちへ戻ってきてー!!」


 北上さんの声。馬車から竜志と、郡司さんが飛び降りて翔太と安藤さん、それぞれの加勢に向かう。


「トモマサ、小貫さん!! 馬車の方へ逃げるんだ!!」


 ウゴオオオオオ……


 ボコオッ!!


 近くにいたゾンビの頭部側面に、剣を叩き込む。飛び散る血と肉片。馬車の方へ駆けて行くと、トモマサや小貫さんと共に、馬車を引く2頭のストロングバイソンをゾンビから守った。


「安藤さんは、馬車に乗り込んで動かしてくれ。このままここに居て、牛がゾンビに襲われて噛まれたりなんかしたら大変だ!! 北上さんもだ!! 馬車から援護してくれ!! 他の者は、馬車を守りながら進むぞ!!」

『解ったーー!!』


 全員が返事をする。安藤さんが御者席へ戻り、馬車を動かし始めると、その隣に北上さんが乗り込み、隣でコンパウンドボウを構えて近づいてくるゾンビの頭部目がけて矢を放った。


 トモマサは、小貫さんと郡司さんと一緒に馬車の後方へ移動する。俺と翔太と竜志は、前方を守り馬車が行く道を作った。迫ってくるゾンビは、片っ端から斬って叩いて潰した。心の中にある恐怖は、考えないようにして封印した。


 襲ってくるゾンビは、全てが俺達がいたもとの世界にある衣服や口を身に着けていた。帽子、時計、アクセサリーなど身に着けている者もいる事から、明らかに異世界人でない事は解る。襲ってくるゾンビ全てが、俺達のいたもとの世界の人間。


 俺達のように『異世界(アストリア)』に転移してきて、佐竹さん達や陣内、成子、市原達が引き連れてきた不良たちのように命を落として、ゾンビになった者達。こんなにもいるのかと驚く……


 だけど、今はそれを考えるべき時ではないと思った。変な迷いや疑問なんかは、後で拠点に戻ってからでもいくらでも考えられる事だ。今は、なんとしても生き延びて、馬車も含めて全員で無事に拠点まで帰る事。それこそが、全てだ。


「だりゃああああ!! かかってこいやああ!! 片っ端からぶっ殺してやる!!」

「一人で出るな、トモマサ!! 俺や郡司さんとちゃんと連携しろ」

「はっはっは!! ゾンビどもがーー!! 全部、ここで皆殺しだああああ!!」


 ドガアアア!! グチャアア!!


 トモマサが暴れている。突出して小貫さんを困らせているみたいだけど、まあ小貫さんがついているなら大丈夫だろ。郡司さんも一緒にいるし。


 俺は翔太と竜志と共に、馬車が進む道を切り開く。


「ユキー―!!」


 振り向くと、じちじりと迫りくるゾンビと格闘する翔太が、腰にさしている銃に目をやった。


「駄目だ!! 危ないって時以外は、銃は使うな!! 銃声でゾンビが群がってくるし、他の危険な魔物も呼び寄せるかもしれない!! 使わないとどうにもならないって時まで、我慢するんだ!!」

「うええ、ちくしょーー!! きちーな!!」

「気を抜くなよ、翔太!! 噛まれたら終わりだぞ!!」


 俺と翔太は剣を使い、竜志はリーチのある棒で距離をとった所からゾンビの身体を突き刺していた。それで竜志も、こういう戦闘にはそれなりに慣れていると思った。


 安藤さんは、馬車を前進させつつも手綱を片手で持ちつつ、前方で行く手を阻むゾンビと死闘を繰り広げる俺達の方へ、もう片方の手を使って懐中電灯で照らし出してサポートしてくれた。北上さんのコンパウントボウもありがたかった。1体、また1体と確実に射抜いていく。


 俺は共に並んで戦っている翔太や竜志、そして馬車の方やその後方で殿を務めてくれているトモマサ達に対して声を放った。皆、無事かどうかを確かめる為だった。


 1時間半程も、ゾンビに襲撃され続けるという緊張の時間が続いたと思う。


 ある程度突き進んでいると、俺達に襲い掛かってくるゾンビの数は次第に減り、そして尽きたのかいなくなった。俺達は、タイミングを見計らって全員馬車に乗り込むと、安藤さんに速度を上げてもらった。


 なんとか、誰一人怪我をする事も無く突破できたようだ。一難去って、ようやく俺達は自分達の拠点に戻ってくる事ができた。


「ついたーーー!! 拠点に戻ってこれたあああ!!」


 翔太が声をあげる。それに続いて、喜びの声をあげる郡司さん。安藤さんや竜志は、キョロキョロと俺達の拠点を見回している。そう、これからここは彼らのベースにもなる場所なのだ。


 草原エリア。未玖や大井さん、成田さんに松倉君、堅吾などが俺達の帰りを知って出迎えに駆けてきてくれた。そして皆、安藤さんの幌馬車と2頭のストロングバイソンを見て驚きの声をあげる。そりゃ、驚くよな。


 バリケードをあけてもらい、俺達の幌馬車は拠点の中へと入った。

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