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Phase.370 『帰路 その2』



 リバーサイドから南西にある俺達の拠点を幌馬車に乗って出発。


 翔太、北上さん、トモマサ、小貫さん、郡司さん、竜志の6人は荷台の方へ乗り込み、俺は御者席へ安藤さんと並んで座っていた。


 牛ではない牛のような生き物。『異世界(アストリア)』の牛。2頭のそれに、力強く俺達の乗る幌馬車は引っ張られて、夜道を走りだした。ゴロゴロゴロと車輪の音、牛が先を行く。リズムの良い蹄の音が聞こえる。

  

 後方には、俺達のさっきいた拠点リバーサイドが煌々とした灯りを放っているのが見える。それがどんどん、リバーサイドを離れていくたびに小さくなっていった。


 俺達の乗る幌馬車は、夜道を走っていた。だけど馬車には至る箇所にランタンを吊っていて、馬車の周囲が見えるようになっていた。そして極めつけは、この星空。夜空に雲はなく、月明りでとても明るく思えた。


 荷台の方からは、翔太やトモマサ、皆の笑い声が聞こえてくる。俺は後ろに声をかけた。


「北上さん、ちょっと」


 名前を呼ばれて、後ろからニュっと顔を出してくる北上さん。出してきた場所と俺の顔が近い位置にあったので、思わずドキっとしてしまった。


 美人に弱いのは、何も俺だけではないはず。だけど最近は、一緒にいる事が多いし同じ仲間な訳で、だいぶ慣れてきたと思っていた。なのに、今みたいな感じで急に顔を近づけられえると焦ってしまう。


「はい、なーに?」

「一応、周囲を警戒しておいてくれ」

「はーーい、了解しました」


 北上さんに要件を伝えると、彼女は荷台の方へ身体をひっこめた。すぐさま、トモマサの声が聞こえる。


「ユキのやつ、なんでそれを美幸に頼むんだ?」


 そんなの、決まっている。彼女は目がいいし、以前から夜目も効く方だという印象があったから。それに彼女は、注意深いし装備しているコンパウンドボウは、何かあっても遠距離攻撃ができるから。


 だけど、翔太は俺の思っている事と別の事をトモマサに言い聞かせていた。


「そんなの決まってんじゃん! 美幸ちゃんが、可愛いから声をかけたんだよ。俺はリーダーだけど、美幸ちゃんの事をこんなにも心配してるんだから、なあいいだろ? っていうアピールよ」

「わははは、なあいいだろ? ってなんだよ。まあ、俺達のリーダーがむっつりって事は解ったぜ」


 またも笑い声。竜志の声もでかい。あいつ、仲間に入ったばかりなのに、もう馴染んでいやがる。まったく……


 でもあいつは、俺達の仲間になりたいと言っていた。この異世界でラーメン屋をやりたいとも。俺はそのどちらとも、受け入れた。


 これから拠点に戻り、あいつが俺達の拠点内でラーメンを作るとしたら、もちろん客相手にする訳だから、パブリックエリアに店を構えるだろう。その竜志の店を、未玖達がいつもいる店の近くとかに出してもらえれば、俺ももっと安心できる。


 未玖の店は、モンタがたまに手伝ったりはしているみたいだし、長野さんや成田さん達もちょいちょい顔を出してくれている。だけど基本的には、女の子だけでやっている店だし、近くに竜志とかいてくれるのはありがたいと思った。


 ガラガラガラガラ……


 御者席。安藤さんは、特にどうという事もなく手綱を握って幌馬車を走らせている。そう言えば、この夜道。彼にこのまま任せていてもいいのかと思った。


「ところで安藤さん」

「え?」

「安藤さんは、俺達の拠点の場所を知っているのか?」

「ああ、大丈夫。遠目には見た事あるんだ。それにこの辺りの道は、よくこのおいらの馬車で移動しているから、よく知っているんだ」

「魔物がでたりはしないのか?」

「するね。夜の方が、恐ろしい魔物がでるっていう噂があるけど……あれは、本当の話だな」


 うわー、本当の話なんだ。一応、北上さんだけでなく、俺も周囲には目を配って警戒しておこう。例えばゴブリンなんかは、こういう時に何処からともなく現れて襲い掛かってくる。


「それはそうと、あんたに一つ頼みがある」

「こんな夜分に、幌馬車に乗せてもらって拠点にまで運んでもらっているんだ。俺にできる事なら、なんなりと言ってくれ。失礼でなければ、金も払うし」

「いや、金はいらない。それよりも、さっきおいらの馬車に目をつけて、話かけてきたうちの1人」


 安藤さんの馬車を見つけて話しかけたのは、翔太と竜志だった。


「その1人が言ってたけど、あんたらのクランに入ったって。しかもあんたは、今から行く拠点を仕切っているリーダーだって」

「ああ、竜志から聞いたのか。そうだ。仲間になった。そして俺は一応、そのクランのリーダーをやらせてもらっている椎名だ」

「椎名さん。それで頼み事なんだがね、おいらもあんたの仲間に入れてくれないかなーと思って」

「え? それはいいけれど……」

「拠点には、何処もルールがある。もちろん、それに従う。できなければ、出ていくし」


 俺達の乗る幌馬車を引いて前を走る、2頭の牛のような生き物に目を向ける。


「ストロングバイソンだ。珍しいか?」

「ああ、初めて見る」

「もちろん、この世界の生き物だ。あと心配しなくても、草とか果実とか野菜とか……そういうのは、なんでも食べるからそういうのがあれば、餌は問題ない」


 確かにうちの拠点には、そういうストロングバイソンの餌になるものは豊富にあるし困らない。更に、草原エリアや羊の住処エリアのような放牧できるような場所だってある。


 ストロングバイソンか……


 安藤さんは、この辺りの事にも、さっきリバーサイドで売っていた武器などにも詳しいようだし、彼が俺達の仲間になれば幌馬車も使用させてもらえるのではと思った。


 そうすれば今後は徒歩よりも早く、かつ安全にジニー村やリバーサイドにも行けるだろう。


「解った。受け入れよう。これからよろしく」

「ふう、良かった。送って行ったあと、またリバーサイドに戻る事になったらどうしようかと思っていたんだ」

「ははは、それはない。恩人に対して、そういう事は間違ってもしないよ」


 こうして竜志に続き、安藤さんも俺達の仲間になった。


 移動し続ける馬車の上。御者席に座ったまま、俺は安藤さんと握手を交わした。

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