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Phase.369 『帰路 その1』



「あれ? 椎名さん?」

「もしかして、大石さん?」


 名前を呼ばれたので振り向くと、そこには知っている顔があった。うちの拠点にも来てくれた事があった大石さん。クラン『アイアンヘルム』のリーダー。彼と一緒にいる他の4人も、前に大石さんと一緒にいた見た顔だった。


「こんな所で奇遇だね。まさかリバーサイドで、椎名さん達に会うなんて」

「いや、でもこれから帰る所なんだ」

「帰る? 帰るって、これから椎名さん達の拠点に戻るってことかい?」


 大石さんはちょっと心配する様子で、自分の腕時計を見た。知っているよ、もう直ぐ20時だもんな。これから外に出るなんて、かなり危険だという事は、俺も当然ながら解っている。


「リバーサイドには、有料だけど宿泊できる場所もある。今晩はそこで休んで、明日の朝に戻ればいいんじゃないか」

「いや、どうしても今晩は戻りたいんだ」

「そうか。でもこの辺りの事、知っているよな?」


 知っている。最近、このリバーサイドもそうだし、ジニー村だってそう……そして俺達の拠点も含めて、辺り一帯には特に危険な魔物が徘徊しているのだ。討伐すれば、運営側から報酬がもらえる懸賞金のかかった魔物。そう、倒せば金が稼げる位に、危険な魔物なのだ。


 佐竹さん達の命を奪った、あの軽自動車並みにでかいブルボアや、陣内達を襲ったゾンビも徘徊しているかもしれない。


 『異世界(アストリア)』のゾンビは、何が原因で現れているのかは謎だ。だけど映画とかでよく見る、噛まれれば噛まれた者も次第に弱っていって死んで、ゾンビになってしまう。そのルールは同じようだし、外の世界を出歩くには、十分な注意が必要だと解っている。なんせ、噛まれたら終わりだから。


「大石さんも、皆も心配してくれてありがとう。でも、もう決めたんだ。そうだよな」


 仲間の方を振り返って同意を求めると、全員が頷いてくれた。そう、やっぱり自分達の拠点が一番落ち着くし、頼りになる仲間もいる。


「ここは俺達の拠点から、それ程離れてもいないしな。また後日にお邪魔するって小雪姫にも、伝えているし」


 大石さんにそう言いながらも、俺達は自分達の居場所に帰る準備を終えた。さて、とりあえずの目標は達成した。ジニー村で尾形さん、リバーサイドで小雪姫と2人のリーダーと会って、今後は協力関係を結びたいという話ができたし、うち以外の拠点も見て知る事ができた。


「それじゃ、大石さん。『アイアンヘルム』の皆さん、また何処かで」


 頭を下げると、翔太や北上さん達皆も揃って頭を下げた。


 大石さん達は、最後の最後まで俺達を心配してくれている様子だった。だって外はもう真っ暗だし……この中を何時間もかけて歩いていくのは、確かにリスクはあるだろう。まあ、もう決めたんだ。あれこれと考えていても仕方がない。それに早く行動をしないと、もっと夜は更けていくんだ。


 大石さん達に別れを告げて、リバーサイドから自分達の拠点を目指して、外の世界へ出ようとした。その時に、ある事に気づく。


「北上さん、トモマサ、小貫さん、郡司さん……あれ? あの2人は?」


 あの2人……っていうのは、言わずと知れた事。翔太と、ジニー村で俺達のクランの仲間に新しくなったラーメン戦士こと、竜志の事だった。2人の姿が、何処にもない。ちょっと目を離した隙に、いったいどこへ……


 北上さんにちょっとあの2人を探しに行ってくるから、ここで待っていてくれと言おうとした時、これから探そうとしていた翔太と竜志の声が聞こえた。


「おおーーーい! ユキ――!!」

「やーー、話がまとまって良かったよな」


 軽い感じの2人の声。これから、暗くなった外の世界を歩いて、俺達の拠点に戻らなくてはならない。それなのに、いったいこの2人は何処をほっつき歩いていたのだろうか。そう思って、ちょっと睨んでやるつもりだった。


 でも睨もうと目をやると、驚くべき光景が目に入って来た。


 ゴロゴロゴロゴロ……


 なんと2人は、幌馬車に乗っていた。二頭の牛に荷た生物が、それを引っ張っている。


 荷台の方に竜志が乗り込んでいて、そこから楽しそうに顔を出し、御者席には翔太ともう一人……御者をする男が座っていた。しかも知っている奴だった。さっき小雪姫に会いに市場に向かった時に、武器などを露店で売りさばいていた男。


 翔太は、幌馬車の御者席から勢いよく飛び降りると、隣にいた男を俺に紹介してきた。


「っとう!! 着地! っと……いやー、もう気づいているかもだけど、こちら安藤明(あんどうあきら)君。さっき市場で露店をやっていっるのを見かけたろ?」

「それは覚えている。覚えているけど、どうしたんだ?」

「アンドーちゃん、どうぞ」

「どうも、おいらは安藤明というものです。さっき、そっちの2人に声をかけられてね、やってきました」


 声をかけられた? 話がぜんぜん見えない。だけど、この幌馬車……もしかして、この流れは……


 翔太が、なははと笑う。


「いやー、今からこっから俺達の拠点まで戻るの、どんどん暗くなるし危険だし、あの距離をまた歩くって疲れんじゃん。それで、なんかいい方法ないかなー、ないだろーなーって竜志と話していたら、竜志が幌馬車を見つけてな。それで、辺りの奴らに声をかけまくって、持ち主を探し出したって訳」


 どういう事だ? まだ話が見えない。今度は、竜志がより簡潔に何があったのかを話した。


「要はアレよ。幌馬車を見つけたから、これに乗って拠点まで帰る事ができればと思って、持ち主を見つけて声をかけた訳だ。返事は見ての通り、オーケー。でもその代わりに条件ってのがあって……まあそれは帰路に就いてからでもいいか。さあ、皆帰ろうぜ!」


 仲間に入ったばかりなのに……竜志のセリフが面白くて、笑ってしまった。


 なるほど、確かにこれに乗って移動するのなら、歩くよりも断然安全に拠点へ戻る事ができるだろう。

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