Phase.368 『小雪姫 その2』
大きなタープテント。周囲には、ランタンが吊っていて、河の近くという事もあってか凄く雰囲気がある場所だった。小雪姫は、そこへ俺達を案内してくれた。
丸太を使った手作りっぽい椅子。それが人数分あって、各々座る。すると俺達と向かい合う形で、目の前に小雪姫が同じように座った。
「そうね。まずはあなた方が、このリバーサイドに来ていただいた事に歓迎の念を示したいと共に、この拠点を取り仕切るクラン『スノウ』のリーダーとして改めてご挨拶致します」
小雪姫が頭を下げると、俺達も頭を下げる。でも本当に、コスプレイヤーみたい……っていうか、ファンタジー世界の住人みたいな人だな。リーダーだし、しっかりしている感じもする所から、成人はしているとは思うけれど……パッと見は、少女にしか見えない。
翔太を見ると、物凄い鼻の下を伸ばしている。こいつ……てっきり北上さんとか大井さんみたいな、綺麗で少し大人な感じの女の子が好みだと思っていたけど……もしかして、女なら誰でもいいのか……
「ユキくん」
「え?」
「ほら」
北上さんに言われて、小雪姫が待ってくれている事に気づいた。しまった。俺も挨拶を返さないと。
「こ、こちらこそ、この度はお招きいただきまして、ありがとうございます」
「誰も招いてねーだろーがよ、ワッハッハッハ。勝手にやってきといて、まったく俺達のリーダーはおもしれええよなあ。ワッハッハッハ」
トモマサの大笑いで、顔が真っ赤になってしまった。くっそーー、やっぱリーダーなんて俺には向いてないんじゃないか。でも、今ので小雪姫も含めて全員が大笑いして場が和んだ。
「遠慮せずに、いつもの通りでどうぞ」
「あ、ありがとう。それじゃ、お言葉にあまえて……もう知っているだろうけど……俺は、このリバーサイドから、南西にある拠点のリーダーをやらせてもらっている、椎名幸廣というものだ」
「因みに俺は秋山翔太ね」
「誰も聞いてねーって」
アハハハハ。
翔太にトモマサがツッコミを入れると、また笑いが起きた。周囲を見ると、いつの間にか知らない人達が集まって来ていて、こちらに注目をしている。『スノウ』のメンツだろうか。だとしたら、あまり翔太もトモマサも調子に乗らないでくれ。俺達のクランが、お笑いクランだと思われる。
気を取り直して、続きを話す。
「俺達のクランの名前は、もうこれも知っていると思うけど、『勇者連合』という。今回、ここに来た理由は、このリバーサイドを仕切っている『スノウ』と友好関係を結びたくてやってきた」
「それは、此方としても是非ともなお話ね。でも、どうしてかしら? 一週間後にやってくる転移サービス休止、その事態に備えようというのは解るけど、本当に理由はそれだけなの?」
「それだけというのは?」
「噂に聞いたのだけど……と、その前になんてお呼びしましょう。椎名幸廣……」
「なんでもどうぞ」
「では、幸廣と呼びます」
なぜか、一瞬殺気を感じた。この殺気は、翔太から……っていうのは解るけど、北上さんもちょっと怒っている感じがする。な、なぜ?
「それでは……続きになりますが、噂では『勇者連合』の拠点には、豊富な野菜や果実があるとか」
翔太や北上さんと顔を合わせる。確かにある。俺と未玖で栽培みたいな事を初めて、今は未玖や最上さんが率先して作物を育ててくれている。皆、土いじりは嫌いじゃないみたいだし、他にも何人も手伝っていると思うし。
「ジャガイモ、ニンジン、ピーマン、西瓜、苺……確かに色々育てているし、それらはもとの世界から種を持ち込んで育てているものだけど、ログアップの実やレッドベリーや水キノコといった、この『異世界』にある食用にできる植物や、薬草なんかも数種類育てている」
「まあ、凄い。それです、それなんです!」
「それというのは?」
「このリバーサイドでは、見ての通り河が近く、魚などの豊富に獲れるわ。この世界の武器とか防具も見つけて売っている。対して幸廣達は、野菜や果実を育てている。これは、お互いにとってとても有益な事にならないかしら」
「つまり、交易をしたいと」
「そうよ。駄目?」
交易……ここへ来た目的は、本当に一週間後にやってくる事態の備えて、他の拠点と協力関係になれないかって思いだけで来ていた。もちろんこれまでの俺は、うちの拠点からぜんぜん離れて行動をしていなかったから、他に拠点があるなんて知らなかったし、あるならどんな感じか見てみたかったっていうのもある。
だけど、この話は実に面白そうだと思った。野菜や果実、魚だけじゃない。当然ながら売り買いや交換できる物は、他にもあるだろうし。それに交易をするとなると、この互いの結びつきはより強固になるし、何かあった場合には、互いに助けも求めやすい。
「いや、それは素晴らしい提案だと思う」
「良かった。それじゃ、早速話を詰めていかないかしら?」
「いや、待ってくれ。今日はとりあえず、挨拶だけって思っていたから」
不思議そうな顔をする小雪姫。
俺は、できる事なら今日中に自分達の拠点に戻りたいと思っている事を話した。それにうちとここは、それ程遠くもない。ジニー村を経由しなければ、徒歩で2時間位だろうと思う。だから焦らず、おいおい進めていけばいい話。
小雪姫は、俺達と交易をするという話をもう少し具体的に進めていきたかったみたいだけど、俺もここにいない仲間とも相談したいし、一旦考える時間も欲しい。
とりあえずそういう事で話はまとまり、小雪姫が俺以外のうちのメンツの名前も知りたいというので、ちょっと時間が押しているので申し訳ないけれど、短めで翔太から順番に自己紹介をしてもらった。




