Phase.364 『竜志』
「私は別にユキ君がいいなら、いいと思う。人手が足りていないっていうのは、確かだし。でもこの人が、いい人かどうかは解らないけれど」
「確かにな。でもそんな事を言っていると、この先仲間を増やす事はできない。俺は椎名さんの判断に従うよ」
北上さんと小貫さん。2人の意見を聞く限りでは、仲間に入れてもいい的な感じかな。さて、どうしようか。
「頼むよー、仲間に入れてくれって。絶対に役に立つからよー。いいだろー? あんたらのリーダーに俺の事を売り込んでくれねーか。絶対に借りは返すからよ」
あんたらのリーダーに俺の事を売り込んで……って、そうか。この男は俺がクランのリーダーだって事をまだ知らないんだ。
「じゃあ、いくつか質問をしたいんだけど」
「いいとも、いいとも、なんでも聞いてくれ」
「まず、名前は?」
「津田竜志だ、26歳。竜志って呼んでくれていいぜ。趣味は、ラーメン。好きな食べものもラーメン。ラーメン作りなら、俺に任せてくれよ」
「ああ、解った。じゃあ、竜志。お前はルールを守れるか?」
「ルール?」
「簡単なようで難しい」
難しいと聞いて、不安な顔をする竜志。でもこれは先に伝えておきたかった。理由は簡単。もう市原みたいな奴らを、うちの拠点の中へ入れたくないから。
「なんなんだ、そのルールっていうのは?」
「ああ、それはだな。仲間同士でもめないようにする。仲間に対して、暴力を振るわない。お互いに協力をする。そういう常識的な事だ」
ホッとした顔を見せる竜志。これだけでも、ちょっと彼の事が解った気がする。こんなルールを馬鹿らしいと思っているなら、聞くなり鼻で笑う奴もいるから。市原達がそうだった。
「後は、拠点から勝手には外へ出ないでほしい。出る場合は、必ず誰かに言ってからにして欲しいかな。これは、安全の為だ。その代わりと言ってはなんだが、拠点内は自由にしてもらってもかまわない」
「それなら、守れる。解った!」
「あと、うちの拠点にはゴブリンなど魔物が攻めてきたこともある」
これに対しては、竜志は特に動揺を見せなかった。この『異世界』では、そんなこと日常茶飯事だからだ。このジニー村も、初めてやってきてみればいきなりゴブリンに襲撃されている所だった。この世界のあらゆる所で、魔物は徘徊している。
「必要なら一緒に戦ってもらう。これは、最初に言った協力してくれって事かな」
「もちろんだ、任せろ。約束する。それじゃ、仲間に入れてもらえるようにリーダーに言ってくれるのか?」
北上さんと小貫さん、2人と顔を見る。すると2人共、フフっと笑った。
「な、なんだよ。なに笑ってんだ? 何かおかしな事でも言ったか?」
彼の事は、まだ出会ったばかりでよく解らない。だけど、こっちは人手不足で仲間を必要としている上に、彼は悪い人には見えない。
あくまで今のところはだけど……まあ、それは俺達が完全にこの男を信用してもいいのかどうか、これから見極めればいいか。
「解った、それじゃ仲間に受け入れよう」
「え? え? いいのか? それじゃ、リーダーに俺の事を話してクランに入れるように言ってくれるんだな?」
竜志のセリフに、俺達は笑った。キョトンとする竜志。そろそろ教えてやらないと、可哀そうかな。
「それじゃ、これからよろしく竜志。俺の名前は、椎名幸廣。お前が今仲間入りしたクラン、『勇者連合』のリーダーをやらせてもらっている者だ」
「え? え? えええええ!!」
驚く竜志。北上さんが爆笑する。
「あはは、じゃあ私も竜志って呼ばせてもらうね。私は北上美幸。」
「俺は小貫久志だ。よろしく」
「うおーー!! まさか、リーダーと話していたなんて……驚きだ。椎名さんに北上さんに小貫さんね」
「あはは、もう私達、仲間でしょ。美幸でもいいよ」
「おう、そうだな。美幸」
ゲシッ!
北上さんに軽く頭を叩かれる竜志。これは、結構楽しい奴かもしれない。
「そう言えば、竜志。早速で悪いが、このまま俺達に今日はついてきてほしい。駄目なら無理にとは言わない。ジニー村で待っていてもらってもいいが……」
「いや、ついていく!! もう仲間になったんだよな、俺。それで、何か用があるのかい?」
「実は、このジニー村には、他に3人の仲間がいるんだ。今は別行動中で15時に村の出口で待ち合わせをしていてな。それから、もう一ヵ所、ここから一番近い位置にある拠点を見に行こうと思っているんだ。実は、俺はこの世界へ来てからというもの、拠点からほとんど出た事がないんだ。このジニー村もそうだけど、初めて見る拠点になる」
「なるほど。っていう事はリバーサイドだな」
リバーサイド。確かこのままジニー村から河に沿って下流の方へ下っていくとある拠点。口ぶりから竜志は、その拠点を知っているのか。
「リバーサイドを知っているのか?」
「ああ、そっち方面から俺は来たから。リバーサイドには、女神像もあるしオマケに開放的な拠点だからな。人が集まっているんだ。だから、案内なら任せてくれ」
「本当か。案内してくれるなら助かるな」
小貫さんが、俺に腕時計を見せてきた。
「椎名さん。そろそろ15時だ」
早い。でも、このジニー村は俺達の拠点からも近い場所にあるし、いつでもこれる。
だからとりあえず今は、次の拠点だ。翔太達ももう待ち合わせの場所に集合している。
いきなり新しく加わった仲間、津田竜志。俺達は彼も連れて、村の出口へと向かった。




