Phase.362 『廃村 その8』
もう一つの方法。それは――
「その拠点に行って、聞いてくるしかねーなー」
ずるっと、ずっこける。どうやら、ここまでか。「おあいそ」「まいど、ありがとうございました」という一連のやりとりを終えて、俺達は店を出ようとした。すると店主が言った。
「あっ、そうそう! 車が走っているを見たのは、何人もいる。本当の事だし、東にあるその拠点にいる奴らの中で、車をこの世界へ持ち込んだ奴は、そのバラバラにしてっていう方法ではなく、もう一つの方法で持ち込んだのは、確実だ。そうだと言っている奴が、何人もいるしな」
「それだけ聞いたら、その方法も誰か言っていなかったのか?」
「聞いたような気もするが……いや、聞いたが教えてくれなかったかもしれん。忘れちまった。すまん」
「なんだそりゃ。でも有力な情報をありがとう」
「あとあとあと、そうだ。東の拠点、行くなら気をつけろ」
「なぜ? 距離があるからか?」
「それもある。位置だって、方角だけで詳しくは知らんだろ? でもそれだけじゃない。そこには、危ない奴らが集まっている」
「危ない奴らだと?」
「そういう事だ。いくなら、それをちゃんと肝に銘じておくこった」
「拠点の名前は?」
「『ウィルダネス』と呼ばれているな」
「ウィルダネス……」
危ない奴らがいるのだから、荒くれ村とかもしくは無法者達の拠点……そんな名前がついていると思った。ウィルダネス……ちょっとかっこいいな。意味は解らないけれど。
「ウィルダネスって、どういう意味なんだろう。こういう時に、スマホがあって使えればな」
「ウィルダネス。荒野とかそういう意味じゃなかったかな?」
小貫さんがボヤいた後、北上さんがそう言った。言葉の意味を知らない俺と小貫さんは、その意味が知って驚く。
「え? そうなの?」
「うーん、多分。ゲーム好きな人って、そういう名前をつけたがったりしない? 私も海も隠れオタクだからね、フフフ。そういう単語に詳しかったりするの。でもは、海の方が詳しいかな」
「そうなんだ。なるほどなー、荒野か。つまり、その危険な奴らがいる東の拠点『ウィルダネス』は、荒野にあるのかもしれないとも考えられるな」
頷く北上さんと小貫さん。
まさかここへ来て、こんな貴重な情報を早速手に入れられるとは……あと、美味しいラーメンを食べられるとは思わなかった。
そのうちつけ麺もやるみたいだし、また来ないといけないな。色々と気になる情報も得る事ができたし、腹も満たされたしジニー村へ来たのは大正解だった。
小貫さんが言った。
「さて、これからどうする? 15時まではまだ時間があるようだし」
「そうだな、どうしようか? できればもう一つ、拠点を回りたいんだよな」
「そうだったな。でも近いのか? そこは。暗くなってから、外を出歩くのは危険じゃないか」
うーーん、確かに小貫さんの言う通りかもしれない。だけど確か、このジニー村から河沿いに下流の方へ向かった先、徒歩で2時間近くかかるけど、そこに別の拠点があると長野さんは言っていた。
「もう1つ拠点を行っても多分、歩いて2時間程度だ。マックスそれだけかかっても、15時にここを出られれば17時にはそこへ着く」
北上さんが溜息をついた。
「でもそれなら帰りはきっと、暗くなっちゃうね。その拠点を見て回って、リーダーにも会えたら会うんでしょ? ならそこを出るのはもっと遅くなるし、そこからまた2時間かけてここへ戻ってくるとなると……」
「そうだよな。さて、どうしようか」
本来なら今日はここまでにして、用心して自分達の拠点に引き返すだろう。でも今日、拠点を出発した長野さんと鈴森の事が頭にあった。
あの2人は、昼も夜も目的地を目指す為に今も外の世界を移動し続けていて、目的を果たしてまた俺達の拠点に戻ってくるまでずっと外の世界にいる。そう、確か早くても戻るまで5日間はかかるって言っていた。
あの二人がそれだけの事をしているのだから、いくら臆病な俺でももう少し前に出てみるべきかもしれないと思った。
用心する事は大切だ。その考えは、今も変わらない。だけど時には大きく踏み出してみる事も、必要な事かもしれないし、またそれが大きな経験になるかもしれない。
この『異世界』は、常識では考えられない世界だ。何が起こるかなんて解らない。だから、色々な経験を積める余裕のある時は、積んでおくことが逆に用心になると思った。
北上さんが、少し心配した顔で俺の顔を覗き込んできた。
「まあ、行ってみて帰れなくなったら、そこで泊まっちゃえばよくない?」
「ああ、そうか。そういう手もあるな。それで早朝に直ぐ戻ればいいって訳か。同じ暗くても、早朝はあまり魔物達も活発な感じがしないしな」
「でもその拠点……なんて言ったっけ?」
「ああ、そのまんまで笑っちゃうけど、長野さんが『リバーサイド』って言ってた」
「なんかいい感じの名前。そう、だけどそこに辿り着いても、もし拠点の中へ入れてもらえなかったらどうしよう」
「ああ、それなら多分大丈夫。わりかし開放的で、友好的な人達のいる拠点って長野さんが言っていた。あともしも中へ入れてもらえなくても、到着は17時予定だ。引き返してくれば、なんとか19時にはこのジニー村へ戻ってこれそうだし」
小貫さんが、クスリと笑った。
「何もなければだけどな」
「ああ、確かにそうだ」
「それじゃあ、話はまとまった所で……まだ小一時間程あるけど、どうしようか? ユキ君も久志君も、まだこの村の何処か気になっている場所とかあるんじゃない?」
「そうだなー……」
考えてみる。すると、後ろから俺達を呼ぶ誰かの声がした。
「おーーーい、ちょっといいか?」
振り向くと、そこには男が1人。明らかにこっちへ近づいてきて、俺達に対して言っている。
ああ、思い出したぞ。この男はさっきラーメン屋で、俺達の後に店に入ってきて、隣に座って黙々とラーメンを食べていた男だ。




