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Phase.361 『廃村 その7』



 ラーメンは、とても美味しかった。そのうち今度は、つけ麺も始めるという。異世界つけ麺。その時はまた食べに来てくれって言われたけれど、スープが魚介系だったのでまた必ずきて食べたいと思った。


 魚介系のつけ麺、結構好きなんだよなー。


 全員、ラーメンを食べ終わった所で、隣に客が入ってきた。


「いらっしゃい」

「ラーメン大盛、味濃いめで」

「ライスは?」

「大盛で」


 手慣れた感じの注文の受け答え。一目で店に入ってきた男は、ラーメン好きだと解った。そんなどうでもいい事に気をとられていると、小貫さんが店主に突っ込んだ。


「それで、話の続きを聞きたいんだが」

「ああー、バイクとか自転車の話ね」

「実際にこの世界へ持ち込む事ができるのか?」

「それなら、自分で試してみたら早いだろうし納得もするだろう」


 正論だった。確かにそうすればいい。だけど小貫さんの言葉には、他に理由があった。それについて、何か他に見落としがないかどうか。


 見落としってなんだよ? って言われればそれまでだけど、この『異世界(アストリア)』では、常識は通じない。何かあると疑ってかかるのは、いい事かもしれないし俺も小貫さんと同じ事を考えていた。


「この村でも自転車を持ってきて、乗り回している奴らはいるからな。そいつらを捕まえて話してみてもいいかもな。まあ、思うに自転車は確実にこっちへ持ってこれる。バイクも同様だと思っていたけど、どうだったかな」

「どうだったかなっていうのは、どういう意味だ」

「ここから、南西に拠点があるんだ。確か、『勇者連合(ブレイブアライアンス)』って名前の連中の拠点だったかな。拠点の名前はまだ決まってないみたいだけどな」


 小貫さん、北上さんと顔を見合わせて笑う。


「なんだよ、気持ち悪いな。まてよ、まさか……」


 北上さんがにっこりと笑って答えた。


「そこ、私達の拠点なんだー」

「なんだー、そうだったのか。まあ、俺も別にフリーの転移者で、ここには尾形さんと仲良くなって店をやらせてもらっているに過ぎないからアレなんだけどなー」

 

 そうだったんだ。じゃあ、やっぱり尾形さんのクランの人達は、それ程大人数じゃなくて、このジニー村にいる人達の大部分が、フリーの転移者というところか。


 確かにうちの拠点のパブリックエリアと同じと考えると、別に不思議な事でもないし、尾形さんは俺達の拠点を見てからここに拠点を作った。それも真似ていると言えば、つじつまも合う。


 店主が、さっき入ってきた客にラーメン大盛とライス大盛を作って出した所で、今度は俺が中断した話を続けた。


「それで」

「それで……とは? いや、待ってくれ。さっきの話の続きだな」

「そうだ。俺達の拠点からの話」

「そうだ、そこから更に東の方へ突き進んだ先、歩きなら結構遠いぞ。そこには別のクランの拠点があるんだ」

「へえー、そうなんだ」


 重要な情報。どれ程離れているかは、もっと突っ込んで聞いてみないと解らないけれど、少なくとも俺が接触したいと思っている俺達以外の3つの拠点、それとも違う新しい拠点の情報だ。


 『異世界(アストリア)』にやって来た転移者達。佐竹さん達や、クラン『アイアンヘルム』の大石さん達のように、拠点を持たずにひたすら冒険やキャンプをする人達もいるように、俺のような落ち着ける拠点を作る者もいる。


 これだけ世界が広ければ、もっと拠点が点在していた方が自然かもしれない。


「フフフ、これ聞いたら驚くぞ。その拠点ではな、車があるそうだぞ」

「く、車!? 車ってあの車!?」


 これには、小貫さんだけでなく北上さんも流石に驚いた。その証拠に北上さんが、身を乗り出して店主に聞く。


「嘘よ。車は流石に転移できないはずだわ。だって……」


 だって?


 店主はにたりと笑う。


「だって……なんだ? さては、試したのか?」


 俯く北上さん。どうやら図星だったみたいだ。そうか、北上さんは、この世界へ車を持ち込もうとしていたのか。でもその事をあまり言いたくないような、この雰囲気。


 きっと以前にいた『幻想旅団』というクランにいた時に、試した事だから言い出しづらかったのかなと思った。北上さんと大井さんは、以前はそこのクランに入っていてうちに来た。


 2人は、もう完全に俺達と同じ『勇者連合(ブレイブアライアンス)』の者だと言っているし、俺達もそう思っている。だけど、きっと以前いたクランには、まだ辞めると言っていない気がする。


 どうしてなのか、はっきりとした理由は不明だけど、活発な北上さんやいつも沈着冷静な大井さんが何も言えずにここまで引きずってきているのだとすれば……考えられるのは、『幻想旅団』というクランが2人にとって良くない印象のクランだということだ。


「まあ、驚かない。俺も実は試したんだ。車ごとこっちにこれるとしたら、トラクターにいっぱい麺やらスープの材料やらのっけてこっちに来て、そのまま店をやりたい場所へ移動もできるしな。そう考えてやってみたけど、車は転移できなかった」

「でもこの『異世界(アストリア)』で車を乗り回している連中がいると――」


 店主はニヤリと笑って頷いた。


「バイクを持ち込んだ奴の中に、バイクをバラバラに分解して、パーツにしてからこの世界へ持ち込んだってツワモノがいてね」

「バラバラに分解!?」

「そう。つまり車はそのままは、持ち込めない。でもバラバラに持ち運べる位のパーツにすれば持ち込めるという訳だ。俺はそれを試してはないが、例えばタイヤ。あれを持ち込もうとすれば、きっと持ち込めるってあんたらも確信しているだろ。それだ。それと、他にもそのまま車をこの世界へ持ち込める方法があるらしい」


 そんな方法が……


 でも、もしもこの『異世界(アストリア)』へ車を持ち込めるとしたら、それはとても物凄い事になると思った。いや、実際にその遥か東にある拠点の奴らは、車に乗っているらしい。


 徒歩では大変な道を、短時間で移動できるし、何よりウルフやスライムなどのレベルの魔物に対してなら、特にそれ程気にする事もなく安全に移動する事もできるのだから。


 俺達は、そのもう一つの方法というのを聞き出そうと更に店主に迫った。

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