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Phase.355 『廃村 その1』



 河沿いを歩いた。


 河の近くは、砂利などがある場所が多く、そこは草木がそれ程急成長していなかったので、比較的楽に歩くことができた。それでも草むらはある。そういった場所から、危険な魔物が飛び出してきても対処できるように、十分な警戒をしていた。


「ユキ君! あれ見える?」

「あれか」


 北上さんが前に出て、指をさした。その先に見えるもの……いくつかの家……廃村。隣を歩いていた翔太と顔を合わせる。


「翔太、廃村だ!」

「あー、ユキー! 皆も行ってみようぜ!」

「でも注意してくれ。廃村は、今は尾形さん達『魔人の拳』の拠点だ。勝手に入る事は許されないし、中に入るのはちゃんと案内を乞うてからだ。後、皆も既に知っての通り、ここには尾形さん達のクランの仲間になった市原、池田、山尻がいる。挑発されても、それに乗るな。俺達はここでは部外者だからな。特に翔太とトモマサは、大人しくしておいてくれよ」

「あんだとーーー!!」

「なんで、俺に言うんだよーー!!」


 先に釘を刺しといてやった。市原達と出会えば、必ず俺達を挑発してくるのは目に見えていたから。だけど、ここは俺達の拠点じゃない。問題は、起こしちゃならない。


 翔太とトモマサは、とても不服そうな顔をして怒った。でも俺は、特に気にしない。


「それじゃ、先に進もう」

『りょーーかいーー』


 全員、ちゃんと返事をしてくれた。


 廃村に辿り着くまでに、河の様子を何度も翔太とトモマサが見に行く。河は酷く濁っていて、水中がどうなっているのか解らなかった。とうぜん深さも解らないし、鰐などの恐ろしい生き物……というか、魔物が潜んでいて、近づいた瞬間バクっとこられるかもしれないので、2人にはあまり河に近づくなと言っておいた。


 廃村に到着する。俺達は、廃村に入る前に一旦立ち止まって周囲を見回した。


 廃村には、意外にもバリケードというものがなかった。でも代わりに、家々がある。ファンタジーもののゲームとかで、登場する村そのものだった。


 そしてその村には、何人もの人間がいた。胸当てや、中世時代の鎧……この世界の鎧だとは思うけど、そういうのを装備している人達がいる。全部で、何人だろうか。ざっと見て、20人は見えた。きっと皆、尾形さん率いる『魔人の拳』のメンバーなのだろうと思った。


 ボーーと村の手前で立っていると、翔太が言った。


「おい、ユキー。いい加減、中へ入らないのか?」

「いや、待て。できるだけ争い事は起こしたくはない」

「起きねーよ。尾形さんだって、うちへ来ていただろ?」

「でも入る前にちゃんと、俺達の了解をとってただろ。俺達も同じにすべきだ。もう少し待て、今から声をかけるから」


 そう言って、見える場所に尾形さんがいないか見回した。今、見えている村にいる人達も、俺達に気づいている。でも特にこっちへ寄ってもこない。今度は北上さんが言った。


「ここでじっとしててもアレだし、入っちゃう?」

「ちょっと待って。なるだけ慎重にしたい」

「でもユキ君、ここのリーダーの尾形さんっていう人とは仲がいいんだよね。じゃあ、大丈夫じゃない? 隠れてコソコソと入る訳でもないし」

「尾形さんとは、ちょっと喋っただけだ。その時は仲良く会話する事ができたけど、どういう人なのかは、解らない。まだ一度、会話しただけだからな。あっ、誰か近づいてくるぞ」


 1人、こちらに向かって歩いてきた。俺と翔太、北上さんはその人に手を振ると、相手も振り返してくれた。目の前まで、やってくる。


「こんにちは」

「こんにちはー」

「あんたらは、転移者だよな。何処から来た?」

「俺達は『勇者連合(ブレイブアライアンス)』です。ここから南にある拠点の……」


 それだけで男は「あーあー」と言って、理解してくれた。おおー、今や俺達のクランも、その名前は結構知られているのかもしれない。結構広大な土地に拠点を広げて作っているし、他の転移者を相手にビジネスというか商売もしているからな。この辺りにいる転移者の間では、噂になっているのかもしれない。


「なるほど、あんたらは『勇者連合(ブレイブアライアンス)』の者か。それで、ここへは何をしに?」

「ここへ特に用事という用事というか……あの……そういうのはないんですけど、ちょっと覗きに来たというか……」

「覗きに来た?」

「いや、実は俺は『勇者連合(ブレイブアライアンス)』のリーダーの椎名というものです」

「ああ! あんた、リーダーだったのか」

「はい。それで、尾形さんがうちの拠点に来ていた時に、彼と面識があって。それでご近所さん同士、もっと仲良くできないかなーって思って、ここへ寄らせてもらったんだけど……」

「なるほど、そういう事か」

「それで……尾形さん、いるかな?」

「ああ、そういう事なら……」

「ゴブリンだあああ!! ゴブリンが出たぞおおおお!!」


 唐突に向こうから誰かの叫び声がした。


 見ると、廃村――河とは逆にある木々が茂った場所から何人か人が、飛び出してきた。きっとあの人たちは、外でゴブリンと遭遇して、慌ててこの廃村まで逃げてきたのだろう。


「皆! この廃村にゴブリンが迫ってきているみたいだ。手を貸してやろう」

「おう! 早速、恩を売っておくつもりだな。でも名案だ」

「解った! ユキー、任せろ」

「任せて! 見えたら、弓で撃ち抜く」


 皆で武器を構えると、ゴブリンが迫ってきている方へと向かった。


 トモマサがさっき言ったように、ここで『魔人の拳』に加勢して、恩を売っておいても損はないだろう。だからここの人達と共に、この廃村を守る事にした。

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