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Phase.354 『小さな拠点の候補地』



「なんだよ、こりゃ? おい、トモマサ。こんな時に何、ゴミを拾ってきてんだ?」

「はあ? ゴミじゃねーよ!! よく見ろよ!!」

「よく見ろって、板切れに丸太……あとなんだこれ、杭? やっぱゴミじゃんか」

「ゴミじゃねーってんだろ!! 廃材だよ、廃材!」

「廃材?」


 いきなり何処からか板切れや丸太を見つけて、ここへ運んできたトモマサ。その運んできたものを、翔太はゴミだと言った。それに対してトモマサは、これはゴミではなく廃材だと言って、俺の顔を見た。


 俺はトモマサが運んできた物に近づいて、良く調べてみた。


「どうだよ、ユキ? お前はどう思う?」

「ゴミじゃん!」

「ゴミじゃねーってんだろが!! 今俺は、おめーじゃなくてユキに聞いてるんだよ!! 翔太、おめーは黙ってろ!」

「だってゴミじゃん!」

「だーかーらーー!! 解んねー奴だなー、お前も」


 顔を真っ赤にしてムキなるトモマサと、そんな彼をからかう翔太。


 最初は、こんなやりとりもなかったし、会話だってなんとなくぎこちなかったと思う。だけど一緒のクランとして仲間となって、同じ拠点に住み、危険な魔物を相手に死線もいくつか潜り抜けてきた。


 今では、トモマサも俺と翔太の関係のようになっている。もちろん、小貫さん、堅吾……他の皆もそうだ。お互いに信用できる仲間になったんだって、証拠だと思った。


 廃材を調べる俺にトモマサは、顔を近づけてきて言った。トモマサは、もとの世界ではプロレスラーらしくて身体がでかい。もはやかけがえのない仲間だと言っても、こうやって近くにこられると圧に負けてビクっとしてしまう時がある。太い首に丸太のような腕。あれで本気で殴られたら、首が何処かに飛んでいきそうだ。


「それでどうだ? ユキはこれ、どう思うよ?」

「ああ、廃材だな」


 これは廃材。まるで自分が判事にでもなったかのように、これが何なのか判決を下す。トモマサは、翔太を勝ち誇った顔で見た。翔太は、ムムムと納得のいかない顔をして対抗する。


「これは、廃材だよな」


 トモマサは、ダメ押しとばかりに北上さん達にもそう聞いて確認した。すると、北上さんと小貫さん、郡司さんも頭を縦に振った。


「そうね、確かに廃材。もしかして、近くに廃村があるから、そこから出たものなのかな?」


 北上さんは、そう言った。だけど、もしかしたら、これは……


「トモマサ」

「ん? なんだ?」

「これ、なんで持ってきたんだ?」

「え? 沢山あったからよ。これだけあったら、なんか作れるだろ? バリケードの足しにしてもいいし、小屋だって作れるんじゃないか?」


 そうだ、小屋だ! ある事に気づいて、はっとする。北上さんが言った。


「え? どうしたの、ユキ君?」

「もしかしたら、これ……小屋の廃材なんじゃないか」

「でも小屋って……」

「別に不思議じゃない。俺達の拠点、スタートエリアにある丸太小屋は、俺がこの世界にやってくる前から誰かが建ててあったものだし、今向かっている廃村だってきっとそうだ。ここに小屋があったとしても、別に不思議じゃないだろ?」


 そうだ。この近くに小屋があったのかもしれない。河の近くだから、漁の為に使う道具を収納とかしていた小屋とかそんなかもしれないし、普通に誰かが生活に使っていた小屋かもしれないけど。


「トモマサ、この廃材。何処で見つけたか、連れていってくれ」

「ああ、でも連れて行くって……直ぐそこだぞ」


 トモマサの指した方へと歩く。すると、そこからまた少し離れた場所で、ここに小屋があったのだろうという形跡を見つけた。


 もうボロボロになっていて、屋根なんてないし、壁も申し訳程度にしかない。以前そこにあったのだろうって位に、残っている程度だった。でも誰しもが見て解る。ここにはかつて、小屋があったんだって。


「あっ! いい事、思いついた!」


 翔太が、声をあげた。皆振り返る。


「なんだよ、いい事って」

「ここに俺達の別荘を作らねー? 廃材も見つけたし」

「おいおい、廃材は確かにあるけど、小屋とか作るならぜんぜん足らないぞ」

「え? ああ、確かにそうか。でもこの場所、いいよな。近くに河なんてあるしよ。俺達の拠点の、前線基地って感じにしてもいいだろ?」

「前線基地って……」


 なんだそりゃと、翔太を突っ込もうとしたけれど、確かにこの場所は魅力的に思えた。北上さんも何か思いついたみたいで、周囲をくるりと見渡すと、こちらを向いて言った。


「私も秋山君の言ったこと、賛成かな。別荘とまではいかないだろうけど、ここに小屋……控えめに言って小屋モドキを作る事はできるんじゃないかな。周囲を見てみて。辺りには、小屋の材料になる木々が沢山生えているし、斧や鋸を持って来れば資材にも困らないよ」

「でも、わざわざ拠点を出てこんな所に……それって危険じゃないかな」


 俺達の拠点は、成田さんがメキメキと防備を固めてくれている。広さだって、今やかなり広大だ。あのバリケードの中、今や俺達の拠点内は、間違えなく外の世界より遥かに安全だ。なのに、わざわざ危険な外に出る必要なんてあるのだろうか。


 でも、少し考えてあるのだと思い直した。そう言えば、そもそもの話だった。


 この『異世界(アストリア)』が怖ければ、この世界へ来なければいい。それでもここへ転移する理由。人それぞれあるとは思うけれど、俺はこの世界を色々と見てみたい……そう思った。憧れの幻想世界を冒険し、体験したい。


 その為には、拠点の中にずっと居続けていても、始まらない。いや、ひたすら拠点にいるというのもあるかもしれないけれど、俺だってこの人一倍にビビりな性格じゃなければ、長野さんや佐竹さん達のように色々とこの世界を冒険したい。そう、異世界ものなどの作品でお馴染みに登場する冒険者のように。


 そしてこの世界がどうなっているのか……異世界人も存在するなら会ってみたい。


 つまり何が言いたいのかっていうと、こういう事だ。ちょっとした俺達の拠点以外の場所に作る小さな拠点作りは、その俺の野望というか夢というか、冒険などに必要な訓練にもなると思った。


 更に前哨基地じゃないけど、そういうのがちりじりと俺達の拠点の周囲にあれば、もしもまた俺達の拠点に、ゴブリンの群れなどが強襲してくるような事があっても、未然に防いだりもできるのではと思った。そうでなくても、襲撃を少しでも早く知ることができるかもしれない。


 北上さんがニヤリと笑って言った。


「どうする? ここで小屋作り、始める?」

「とりあえずは、当初の目的を遂行しよう。廃村に向かう。それでまた後々、ここに小屋を作ってみるか考えよう。それもまた楽しそうだしな」


 翔太とトモマサが、興奮して声をあげる。小貫さんは、大きな溜め息を吐いた。危険じゃないかって言いたいのかも。でも顔は笑っている。


 解っている。今、この一帯には危険な魔物が生息している。ここに小さな俺達の拠点を作るなら、そういうのにも気を付けないといけないな。

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