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Phase.353 『河』



 大きな河――どれ位大きな河かっていうと……ちょっと、どう例えればいいのかは解らないけれど、東京に住んでいる者になら……荒川とか言った方が伝わるんだろうか。


 まあ荒川って言っても、川幅が狭い場所も広い場所も様々なんだけどな。でも川幅は、荒川が日本一じゃなかったっけ? あれ、どうだっただろう。確かそんな事を以前テレビで言っていて、へえーって思ったんだよな。


 でも今俺達の目前にある河は、間違えなく異世界の河だった。何が潜んでいるかも解らないし、常識では考えられない何かがあるかもしれない。


 河の付近は、草木もそれ程背が高くなくて拓けた場所もあった。そこは木もほとんどないので、気持ちの良い陽が当たる場所だ。翔太、トモマサ、北上さんは嬉しそうにそこへ駆けて行くと、川辺に転がった。


 用心深い俺はその光景を見て、危ないぞと叫びかけたがやめた。だって皆楽しそうだったから。警戒する事は必要だけど、ずっとは気を張っていられないしな。自分達でタイミングを見て、何処かで気持ちを緩めないといけない。


 隣に小貫さんと郡司さんが並んだ。郡司さんは、大谷君がゴブリンに連れ去られて助け出しに行った時に、同じくゴブリンの巣で見つけて助け出した人。スマホも紛失していて、もとの世界にも戻れないから仲間に入れて欲しいと言われて、俺達の仲間になった。そう、アイちゃんや青木さん、児玉さんと同じ。


「2人はこの河の事、知ってた? 俺は、この『異世界(アストリア)』へやってきた時に、ウルフやらゴブリンやらスライムやら、色々遭遇して結構な洗礼を受けたからな。ビビって拠点を作り、それをもっと安全にして住みやすくする言ばかり考えて、拠点からぜんぜん離れようとしなかったから……近くにこんな河があるなんて知らなかった」


 郡司さんも頷く。そして小貫さんが答えた。


「俺もだよ。佐竹達といたのは、もう少し西の方だったから」


 西の方っていうのは、今いるここから……っていうのでも間違いはないけれど、小貫さんが言っているのは俺達の拠点からって意味だった。


 そう言えば確か俺達の拠点から南西、そこに古戦場跡があるんだっけ。佐竹さん達はそこで、剣とか胸当てや盾などの装備を手に入れたとか言っていた。でもそこには、アンデッドがいるとも……


「佐竹達とこの世界を冒険していて、いくつも川を見たし、その中には大きな川もあった。だけど、これほど大きい河は初めて出くわしたよ」

「そうなんだ。小貫さんや佐竹さん達でもか……」

「てっきり椎名さんは、ここを知っていると思っていた。俺達の拠点、川エリアに流れる川はずっと流れて行ってこの河に何処かで合流しているはずだから。あの川が何処へ流れていっているのかとか、調査しているのかなって思って」

「ところが、調査はしていないんだよ。小貫さんももうご存じだと思うけど、俺はビビりだから。ずっと守りにばかり目をやって、小貫さんと佐竹さん達を埋葬しに出た時くらいしか、拠点を大きく離れた事はないから」


 小貫さんは笑った。


「ビビりって。椎名さんは、ビビりだって? だけど俺は、そうは思わない。人によって見方は違うし、少なくとも俺は慎重な人なんだと思っているよ」

「それは、良く評価してくれているって事で喜んでいいのかな」


 にっこりと笑う小貫さん。以前……佐竹さん、戸村さん、須田さんを失った時の彼は絶望に満ちていた。信頼していた仲間を失ったショックで、精神的にまいっていた。だけど今は、俺達が仲間だし小貫さんも元気を完全に取り戻している。


「おおーーーい!! ユキ――!! 3人共、そこで何しているんだよ!! さっさとこっちこいよー!!」


 川辺の拓けた場所で翔太が叫んでいる。隣には北上さん。更にちょっと離れた場所にトモマサは、移動している。何か探しているのか?


「だから何してんだよー!! 早く来いって言っているだろーーが!!」

「わかったーー!! 今そっちいくからーー!!」


 翔太に返事をする。


「じゃあ、行きましょうか小貫さん、郡司さん」


 3人で翔太の方、つまり河の近くへと移動をした。


 河の近くやってきて改めて解ったけれど、水の流れが結構強い。これはもし河へ落ちたら危ないかもしれないと思った。泳いでも、流される。


 そして向こう岸には、新たな陸地。山もいくつか見える。北上さんが囁ように言った。


「河の向こうにも、新しい世界があるね」

「ああ、そうだね。でも船でもないと、向こうには渡れないな。この川幅……橋を架けるにしても、不可能だろうし」

「荒川並の川幅があるものね」


 北上さんはそう言って笑った。やっぱ、これ荒川だよな。うん、そう思うよな。異世界版荒川。


「船があったとしても、ちょっとこの水の流れだと、強すぎて流されるかもしれない。もっと川上から、斜め斜めに下るかたちで漕いで行けば、向こう岸にはつくと思うけど、それなら辿り着くのは、もっと向こうの方だもんな」

「つまり、何があるか解らない」

「正直、向こうの陸地の先に何があるのかは気になる。でもこの河を渡るなら、頑丈で絶対にひっくり返らない船も必要だし、更に向こう側の岸がどうなっているか事前に調査が必要だな」

「ユキ君、そこまで考えているなら、さては向こう側に行こうって考えているね。でもそれならその時は、私も一緒に行きたいな」

「はは、そうだなー。うん、お願いします。なんて言ってもここは、未知なる異世界だからね。サメとか鰐みたいな魔物がいきなり河から飛び出てくるかもしれないし、船に乗っている状態から応戦しなくてはならない状況になったとしたら、北上さんみたいな遠距離攻撃が得意な人がいてくれた方が圧倒的に心強いのは、確かだし」

「むー、そういう意味だけじゃないんだけどなー」


 え? どういう意味? って聞こうとした所で、トモマサが戻ってきた。何処で見つけたのか、大量の板切れや丸太を抱えていて、それを俺達の目前に投げ捨てた。

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