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Phase.351 『成田の提案』



 長野さん、鈴森と別れる。草原エリアの端の方で、成田さんを見つけた。


 成田さんは松倉君と一緒に、拠点を囲っているバリケードの補強を行っていた。これなら、普通のブルボア位の体当たり程度なら、防げそうだ。俺は陽気な感じで声をかける。


「よお、精が出るな!」


 2人共、こちらを振り向いた。そう言えば、2人はいつも一緒にいる事が多いな。成田さんと最初に出会った時から、そうだったような気がする。


 俺と翔太や、北上さんと大井さん、小貫さんと佐竹さん達みたいな関係……とは少し違う感じ。


 だけどお互いに信頼していて、頼れる関係といったふうに傍からは見えた。相棒。それというのも、成田さんはこの拠点のバリケードから、小屋などまであらゆる造作物を作ったり、補強したりしてくれているんだけど、その助手というか……そういうのを松倉君は上手くやっている。息もあっている感じだった。


「あー、椎名さん!! どうしたの? もしかして、一週間後の」

「ああ、そうなんだ」


 俺は2人のもとへ行くと、一週間後にやってくる転移サービス休止の話をした。成田さんも松倉君も、心は同じだった。2人は【喪失者(ロストパーソン)】ではない。俺と同じで、女神像の近くでスマホを使えばいつでももとの世界へ戻る事ができる。 


 だけど転移サービスが休止するというその約三週間は、俺達と同じくこの世界『異世界(アストリア)』に残るのだという。これは、とても心強い。


「でも怖くない?」

「意外だね。椎名さんがそんな事を言うなんて」

「意外……かな?」


 成田さんは、隣にいる松倉君と顔を見合わせて笑った。


「俺は喧嘩も得意じゃないし、腕力もない。度胸だってないし、怖がりだ。怖くない訳なんてないよ」

「そうなんだ。でも僕らにとっては、少なくとも立派なリーダーだよ」

「そう言ってくれるのは、嬉しいんだけど……」


 そのうち、期待を裏切ってしまいそうで怖い。正直、俺なんかよりも、長野さんとか成田さん、北上さんや大井さんもそうだけど、リーダーに相応しい人が他に何人もいる。俺がリーダーになった理由なんて、この場所に一番最初にいたから。それだけだ。


 だけど皆がこんな俺の事をリーダーだと言ってくれているのなら、力及ばずしても俺にできる事を精一杯頑張ってやるしかない。


「それはそうと、椎名さん」

「なんだ?」

「一週間後、来るべき日の為に色々考えてはいるんだけど、ちょっといいかな?」


 成田さんはそう言って、向こうを指さしてついてきてくれと言った。従う。


 草原エリアだから、何処までも広大に拓けてはいる。そのある一帯までやってくると、その場所を成田さんは指した。


「ここがなんなんだ?」

「いや。実はここに、プレハブを建てようと思って」

「プ、プレハブ!?」


 正直驚いた。プレハブだって!? プレハブって小屋のこと?


「今、椎名さんは例えば工事現場なんかで目にする詰所とか、物置とかに利用できるプレハブの事を思い浮かべていると思うけど」

「ああ、思い浮かべている。それの事を言っているんだよな」


 にっと笑って頷く、成田さん。


 プレハブだと……


「そ、そんなもの……」

「実はちょっと試してみたんだけど、家とかそういう大型のものは、こっちの世界へ転送できない。だけど例えば身に着けている服や背負っているザック、手にもっている荷物位は一緒に転移してもってこれる。そしてこれは、椎名さんは既に検証済みだろうけど台車もいける。自転車もね」

「そ、それはそうだけど家は無理なんだろ?」

「家は無理。だけど、パーツならいける」


 パーツ……はっ!! まさか!!


「材料を安く手に入れられるツテというか、そういうのがあってね。それでプレハブをいくつか手に入れられそうだから、それを購入してこっちの世界へパーツで一つ一つ運んで、組み立てようかなって思って。ここの拠点には女神像があるし、別にパーツを運んでくるのは大した事じゃなないし」

「確かにそれなら、プレハブを建てられる……凄いな」


 今度は松倉君が言った。


「この場所は、朝は濃霧が出たり風の強い日があったり、大雨が降ったりする日がある。だけどプレハブ小屋なら、そういうのから守ってくれる」


 プレハブ小屋は、言ってみれば軽量鉄骨やコンクリで作られていたりする。木や藁などで作った小屋とは、その強度や居住性は段違いだというのは言うまでもないだろう。


 これは、凄い発想かもしれない。少なくとも、パーツで持ち運んでこっちで組み立てるなんて発想は、ぜんぜん俺にはなかったな。


「まあ、そう言っても松倉君と2人でえっちらおっちらと一つずつパーツを運んできて、見よう見まねで組むからね。僕は大工とか工務店関係の仕事をしている訳じゃないし、時間はかかると思う。それでも一週間以内に、3つ位は建てようかなって思って。だから許可が欲しいんだけど」

「もちろん!! 是非、お願いします!! 費用はクランから出すようにするから、かかった金額は後で請求してくれ」

「本当に? それはありがたいな。それで、プレハブを建てる場所だけど、この場所でいいかな?」

「ああ。スタートエリアにも欲しいけど、この草原エリア位が俺もいいと思う」


 成田さんと松倉君からの提案。

 

 こうして俺達の拠点にプレハブ小屋建設の計画が立った。って言っても、頑張ってくれるのはこの2人だけど。


 やっぱり皆、一週間後に何が起きてもいいように備えようとしているんだ。俺もできる事をしなければ。その為にもまずは、これから俺達以外のクランが作っている拠点を見に行ってみる。


 決めたら早速行動開始。さて、誰に一緒についてきてもらうかだけど……長野さんと鈴森は、連れて行けないからな。なら、翔太か北上さん辺りが適任かな……

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