表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
348/471

Phase.348 『今日の予定』



 草原エリア。


 濃霧の中を、メリーと歩いていると見慣れたテントを見つけた。そしてそのテントの前では、大きな人影。あのガタイ、長野さんだな。


 俺は小走りで、そのテントの方へと近づいた。後ろからメリーが慌ててついてくる。


「おはようございます、長野さん!!」

「おや、椎名君か。おはよう! 今日も随分と早いのお」

「ええ、まあ。それはそうと、ちょっといいですか?」

「ああ、こっちへ来て座るといい。そっちの……メリーじゃったな。お前さんもこっちへ来て座るといい」


 メエ!


 焚火を挟んで、長野さんと向かい合う俺とメリー。長野さんは、俺達に珈琲を淹れてくれた。本日2杯目だけど、珈琲は大好きだから飲める。メリーもすっかり気に入ったのか、早速長野さんに砂糖とコーヒーミルクをもらって、ノリノリで入れている。


「おい、メリー。甘いのが好きなのは解るけど、あんまり甘いのばかり飲んでいると、そのうち糖尿病になるぞ」


 メ?


 長野さんが大笑いする。相手は魔物だし、糖尿病になるのかどうかも解らない上に、20代じゃ言わなかったセリフだなーっと、少し嫌になって苦笑してしまった。


 俺も長野さんの淹れてくれた珈琲を飲む。美味い。落ち着いた所で、長野さんが切り出した。


「それで、椎名君。話というのは、なにかな?」

「ええ、そうでした。実はですね――」


 他のクランが作っている拠点に、1度行ってみようと思っている事から話した。理由は、他のクランとの協力。しかも俺達のような拠点を持った大きなクランとのだ。


 来るべき日というか、1週間後にやってくる転移サービスの休止。その期間中に、どんなトラブルがあっても凌げるように、それまでにできる事は、色々とやっておきたかった。その一つがそれだった。


 もしなんらかのアクシデントがあって、仲間やこの拠点に何かあったとしても、他のクランと協力関係にあれば、助力を頼んだりできる。そうすれば、万が一の時にも生き延びる選択肢が増えるかもしれない。


 だから今日、早速会いに行きたいという話。そして、その際には是非とも長野さんに同行して欲しいという事だった。


 強制とかそういうのは、このクランにはない。だからお願いだった。長野さんは俺よりも、人生においてもこの『異世界(アストリア)』に置いても大先輩だった。


 それにとても頼りになるし、銃など強力な武器を俺達が手に入れる事ができたのも、長野さんが、三鷹の方でその手の店を開いている九条さんという知り合いを紹介してくれたからだった。


 兎に角、長野さんがいるととても心強いのだ。この人が一緒にいてくれるだけで、大きな安心感がある。人見知りしまくりの未玖も、長野さんに対しては心を開いているようだし。


「なるほどのう。それで最初に向かう拠点……というか、早速今日これから向かう拠点は、何処にするかもう決めておるのかね?」

「はい。とりあえずクラン『魔人の拳』の拠点からにしようかと」

「ああ、尾形君の所か。ここから北の廃村じゃな」

「そうです。ついでに、そこに流れている河というのも見ておきたいですし。うちの川エリアの水は、そこへ流れ込んでいるんでしょうし、どんな感じか気にもなるので。長野さんは、知っているんですよね」


 長野さんは、頷いた。そして珈琲を一口飲むと、煙草を取り出して一本口にくわえた。火を点ける。


「知っておるわい。大きな河でな、流れもまあまああるぞい」

「大きいのですか」

「そうじゃな。大きい。とりあえず、そう簡単には橋などかけられんし、あそこを渡るとなれば船でもないと無理じゃな。もしくは、もーーっと上流に向かっていけば、河端ももっと縮まっている箇所が見つかるかもしれんが」

「でもそれは危険ですね。なら、船か」


 別に船が必要だからといって、ファンタジー世界だから木でできた船とか、もしくはもとの世界にもあるクルーザーのようなものである必要もない。要は乗って渡ればいい訳だから、ゴムボートでもあれば十分かもしれない。


 でも、流れが結構きつい河に見えたからの。そこをどうするか……


 ゴムボートにエンジンをつける。ゴムボートやエンジン程度なら、いくらするのかは解らないけれど、もとの世界から転移アプリでこっちへ持ち込む事も可能なはず。


 あれこれ考えていると、長野さんが言った。


「そうじゃ、これを先に言っておかねばの。残念じゃが、今日は椎名君に一緒について行ってはやれん」

「そうなんですか……って、えええ!? な、なぜです? 長野さんなら、その廃村に行った事があるでしょうし、他の拠点の場所も知っているみたいだから、案内も兼ねてお願いしようかと思っていたんですけど」


 長野さんが同行しない? これは計算外だった。


 長野さんは、最初は俺達の仲間になってくれなかった。でも今は、仲間になってくれた。それからは、いつも協力的で俺達の事全員を、自分の身内として考えてくれている。だから、まあこういえば確実についてきてくれると思っていた……だけに、驚きを隠せない。


 長野さんは、煙草をまたひと吸いすると、俺やメリーのいる逆方向を向いて、フウウウーーーっと煙を吐き出した。


 どうしてなんだ? どうして長野さんは、一緒に来てくれない。


 でも直ぐに冷静になる。理由は、今この場で聞けばいいだけの事。俺は長野さんに、俺と一緒に来てくれない訳を聞いてみた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ