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Phase.346 『霧と雨 その2』



 俺とメリー、2人分の珈琲を淹れる。メリーは、珈琲に砂糖とコーヒーミルクを2つ入れると、それを美味しそうに飲んだ。


 メエ!


「そうか、美味いか。そりゃ良かった。やっぱ、朝は起きたら珈琲だよな。これを飲まないと、気合が入らない」


 メエ。


 焚火の前に座り込んで、可愛らしい両手でマグカップを大事そうに抱えて飲む。


 やっぱり何度見ても、メリー達が俺達の仲間になってくれたのが信じられない。まさか、魔物と人間……しかも、別の世界からやってきた俺達みたいな人間と、手をとって協力する事ができるなんてな。


 …………もしかしたら、他にもいるかもしれない。メリー以外の、友好的で尚且つ知能の高い意思疏通のできる魔物が……


 大谷君や小早川君も言っていけど、この『異世界(アストリア)』へ来た当初は、エルフや獣人、ドワーフとか異世界人に会えると思ってワクワクしていた。


 だけど一向にそんな異世界人には会えないし、拠点にパブリックエリアというものも作って、俺達以外の転移者も招き込んで色々と情報を聞いたりしているけど、他でもそんな情報はない。


 異世界人……この世界にいるのは、間違いがないと思っている。でないと、丸太小屋や井戸の説明がつかないからだ。女神像だってそうだ。あれを魔物が作ったとは、思えない。


 いや、メリーみたいな極めて頭のいい人型の魔物がいれば作れるかもしれない。でも尾形さんが今自分達の拠点にしている、ここから北にある河近くの廃村。まだ俺はそれを目にしてはいないけど、村があったのならきっと人間がいるはずなんだ。


 メエ?


「え? ああ、ちょっと考え事。それはそうと、メリー達って他に仲間はいるのか?」


 メエエ。


 メリーは、目の前に珈琲の入ったマグカップを置くと、両手を高らかにあげて何か言った。


 ふむ、きっと沢山いると言っているのだろう。でもその後に悲しそうな顔をする。つまり……他にもストレイシープは存在するけれど、何処にいるのかまでは解らない。そう言っているのだと思った。


 珈琲を飲み終えた所で、少し強い風が吹いた。冷たい雨水と重なって、耐えられない。


 ビユウウウウウウウ!!


 メエエエ!!


「ひいいい!! つ、冷たい!! こりゃ駄目だ!! ここで焚火なんてあたっていられないぞ、これ」


 メエ。


「どうする? 風が結構強いから、タープが飛んでいきそうだな。それに屋根があっても風が強いから、雨に濡れる。これは、壁が必要だな!!」


 メエエ! メメ!


「いや、これは、俺にはどうする事もできないよ。こういう時は、成田さんだな。ちょっと成田さんを呼びに行ってくる。メリーは、ここで留守番していてくれ」


 メ?


「仕方ないだろう。皆まだテントの中で眠っているし、このまま雨風が強くなって皆が入っているテントが飛ばされたら大変だろ。だからメリーは、皆が起きてくるまでここに居て欲しい」


 メーー!!


「大丈夫だって。翔太や北上さんが起きたら、きっとなんとかしてくれる。俺はちょっと成田さんに、どうにかできないか相談に行ってくるよ。朝の散歩がてらな」


 メエエ!!


「え? ついてくるのかよ。濃霧に加えてこの雨風だぞ。やめておいた方がいいと思うけど。陽が昇れば、もっと穏やかになるからそれまでここで大人しくしておいた方がいい。それにメリーまで一緒に行ったら、誰がここを見張るんだ?」


 メエ。


 メリーは、そう言って後ろを振り返り指をさした。向こうのテントがモゾモゾと動く。中から、2匹のストレイシープが姿を現した。


「なるほど。彼らにこの場は任せるって事か。うーーん、でもなーー。いくらここが拠点内だって言ってもなー」


 メメメメー!!


 メリーは、必死になって俺の足に纏わりついてきた。


「解った解った!! 解ったから!!」


 メエエ!


 早く離れろ!! っていう雰囲気を出しはしたけれど、足に纏わりついてきたメリーに触れると、モコモコしてとても気持ち良かった。でもちょっと湿っていたかも。この霧と雨だしな。


「それじゃ、お前達に、この場は任す」


 メリーは、起きてきた2匹のストレイシープのもとへ行き、何か話した。すると2匹は、大きく頷く。


 ふむ、きっとアレだな。ちょっと出てくるから、テントでまだ眠っている皆を守ってくれ! っとか言っているんだろうな。


 勝手に想像していると、メリーが戻ってきた。手には、長めの棒。反対の手には、折り畳み傘。


「よし、準備できたか。それじゃ、成田さんを探しに行こうか。この時間だから起きているか解らないが、あの人も結構早起きだしな。とりあえず、草原エリアに行ってみよう」


 考えがあった。成田さんは、起きているかもしれない。でも草原エリアにいつもいる長野さんは、絶対に起きている。なら長野さんに聞けば、成田さんのいる場所を知っているかもしれないと思った。


 それともう一つ。また長野さんに相談しておきたい事もあった。1週間後にやってくる転移サービス休止の件。


 それまでのこの1週間、できれば今日……早速、俺達以外の拠点に行ってみたいと思っていた。それでもし俺達以外の拠点を持っている転移者……クランと、協力し合える事ができれば、転移サービス休止の期間の安心感は高まるから。


 長野さんは、尾形さんのいる廃村以外の拠点を、いくつか知っているようだったし、頼めば案内してもらえると思った。 


 俺は自分で言うのもなんだけど、用心深い方だと思う。今のうちにできる事は、全てやっておきたい。


「メリー。この風だから、もしかしたら傘は使わない方がいいぞ」


 メ?


「あまり風が強いと、傘が負けて折れちゃうんだよ」


 メエエエ!!


 慌ててメリーは、さしていた傘を閉じる。そして折りたたむと、大事そうに腰に差した。


 草原エリアは、今いる川エリアの隣。俺とメリーは、この場に未玖達を残して濃霧と雨風吹き付ける中を歩いて、成田さんと長野さんに会いに向かった。

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