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Phase.343 『宴の合間 その2』



 トイレから出ると、鈴森が言った。


「椎名、まだ話があるんだがいいか」

「ああ、俺もだ。だけど、トイレの前でっていうのもちょっとアレだしな。かと言って雨の中で突っ立ってっていうのもなー」


 皆が待っている。歩きながら話でも良かった。でも何処か、話せる場所を探した。少し向こうに、大きな岩が見える。川の近くにあって、岩の窪みが深くてちょっとした洞穴のようになっていた。俺はその場所を、手に持っていた懐中電灯で指した。


「あそこがいい。あそこで一休みしよう」

「洞穴みたいになってやがんな。いいじゃねーか、よし行こう」


 鈴森と2人、川辺の方へと降りていく。坂。そして岩の前まで来ると、その大きな窪みの中に入った。


 ザーーーーーッ


「あああーー、凄い雨だな。ずっと振っている。でもここは、かなりいいな。絶好の雨宿り場だよ」

「そうだな。だがこういう場所は、俺達以外の何かが、同じように雨宿りしているかもしれない。一応見ておこうぜ」


 鈴森の言葉にギョっとする。確かにここは、『異世界(アストリア)』。今鈴森が言ったような事は普通にありそうだし、ここは拠点の内側だから、危険な何かはいないと決めつけるのもよくない。現に未玖が見つけたピンク色の兎、ラビはこの拠点に人知れずに入り込んでいた。


「もしかしたら、スライムとか鼠のような魔物が入り込んでやがるかもしれないと思ったが、大丈夫そうだな」


 鈴森はそう言って、近くにあった手頃な石に腰を掛ける。俺も同じように石を見つけて、その上に座った。


「鈴森。それで話というのは?」

「お前から話せよ」

「なんでー。鈴森から話せばいいだろ?」

「は? それは、リーダー命令かよ」

「いや、そういう訳じゃないけどよ」

「なら、椎名。お前から話せよ」


 鈴森孫一。こいつはいつもこんなツンツンした感じで、歯に衣着せぬ言い方をしやがる。だけどこいつは、翔太の親友であり、今は俺も親友だ。なんといっても頼りになるし、俺が仕事などで不在にしている時は、こいつは、命がけで未玖とこの拠点を守ってくれている。


 なによりこう見えて、信頼できる男なのだ。口や感じの悪さは、こいつの信頼できる部分と比べたら極めて小さなものに過ぎない。


「転移サービス休止の件だ」

「ああ、それで」

「なんとなくな。ちょっと最近、様子がおかしいんだけど、鈴森はそう思わないか?」

「何がだ? 解らん。もしかして、またゴブリンがここへ攻めてくるみたいな、予感がするとかそういう事を言いたいのか?」

「はっきりとは説明できないんだが、こうなんていうか胸騒ぎがするんだよ。ゾンビがやってきた事もそうだし、陣内や成子がそれで襲われて死んでしまった事もだ」


 鈴森は、視線を落とした。こいつは、市原が連れてきた不良達を全員を嫌っていた。もちろん、陣内や成子の事も好きではない。そんな雰囲気をかもしだしていた。


 だけど味方は味方。陣内と成子は、心を入れ替えて俺達の仲間になってくれた。鈴森もそれは解っているから、嫌いな奴らが死んだっていうのにつらい顔をする。本当は残念でならないのだろう。


「更に気になっている事。パブリックエリアにいる他の転移者の事だ」

「最近は沢山見るが……もしかしてアレか。妙な殺気に満ちている……」

「全員が全員じゃないんだけどな。そういう奴らがいる。今、この拠点の近くには懸賞金のかかった魔物が集まってきているみたいなんだけど、上手くも説明できないし脈略があるという訳ではないんだけど、何か関係性があるような気もしているんだよな」

「なるほどな。つまりパブリックエリアを利用している奴らの中に、懸賞金のかかった魔物がなぜ、何匹もこの拠点の周辺に集まってきているか……知っている奴がいると」

「正しくは、知っているかもしれない……だ。そういう気がした。単なる憶測だ。そういうのも含めて、凄く不安なんだよ。転移サービスが休止した時に、何か良からぬ事態にならないかってね」


 何か考えている鈴森。もっとうまく言ってやれたらいいが、これは単なるそういう気がするって次元の話なのだ。そしてそれを口にするなら、鈴森や翔太が一番話しやすい。


 そしてここからが、話したかった本題。


「それでちょっと他のグループ……クランとかと、会って情報を集めておこうと思う」

「いい考えだな。確か他に3カ所、こういう拠点があるらしいがな」

「正確には4カ所だ」

「4カ所?」

「パブリックエリアに来ていた尾形さんだ。クラン『魔人の拳』のリーダーで、この拠点から北に廃村を見つけたらしく、そこを拠点にしたらしい。市原、池田、山尻も尾形さんの仲間になってついていったから、そこにいるはずだ」

「なるほど。だが、市原達は勝手にくたばろーが俺には関係ねえ。どうにでもなっちまえばいい。それで……じゃあ、そこも見に行くのか?」

「ああ、善は急げ。早速明日、行って見ようと思う。それで頼みなんだけど、お前に同行して欲しい」


 鈴森はニヤリと笑った。


「つまりボディーガードって訳か」

「そんな大層なもんじゃなくて……ただ1人で行くとなると、寂しいから何人か……」

「いいじゃねーか。リーダーの護衛ミッション、見事達成してやるよ。まあこちらには、銃っていう超強力な武器もある」

「やめろよ、わざわざトラブルを起こすようなことは」

「当たり前だ。もちろん、問題はおこさねーよ。トモマサとかと、俺を一緒にすんなよな」


 え? 明日、トモマサも俺が誘おうと思っていたリストに入っていたんだけど……参ったな、どうしようか。いや、それはそうと――


「まあ、そういう訳で可能な限り、サービス停止までの間に、他の拠点とコンタクトをとって互いに助け合える関係を築けそうならそうしようと思う。それで、鈴森の方の話したかった事っていうのは、なんだ?」

「ああ、前に見つけたダンジョンの事を覚えているか?」

 

 覚えている。佐竹さん達を埋葬しに行ったあの時、その途中で大きな濁った湖を見つけた。そこで如何にもというダンジョンを見つけた。明らかに人工物で、入口が石を積み上げて作られていたようだった。


「あのダンジョン、このまま放っておくのは、どうかと思ってよ。ここは、異世界だろ? 俺達の大好きなファンタジー世界だ。魔法はまだ見ちゃいないが、剣と魔物。そういう世界だ」

「もしかして、探索に行きたいとか言い出すのか?」

「椎名。お前だって、この世界の謎を解き明かしたいだろう」


 鈴森は、満面の笑みでそう言った。対して俺は、凄く複雑な心境になった。


 もちろん鈴森と同じ気持ち。だけどどうしても、佐竹さん達や陣内、成子、それにコボルトの討伐で死んでいった、市原の連れてきた不良共の事を思い出す。


 遠目に見ただけだったけれど、あのダンジョンの奥は暗闇が広がっていた。あんな場所に挑むなんて、自殺行為のように思えたのだ。


 だけどここは異世界。異世界の冒険者は、ああいうダンジョンへも足を踏み入れる――

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