Phase.342 『宴の合間 その1』
『異世界』での楽しい焼肉パーティー。何処から匂いを嗅ぎつけてきたのか、いつの間にか鈴森やトモマサ、児玉さんに郡司さんも加わっていた。
あれ? このメンツなら、不死宮さんや堅吾も現れそうだけど……でも現れないって事は、彼らは彼らで拠点内の何処かで楽しんでいるのだろうか。
さっき翔太が言っていたけど、どうやらここに来る前に小早川君に会ったみたいで、あっちの羊の住処エリアの皆も誘ったそうだ。でも彼らも今日は、同じ年頃の仲間達で大盛り上がりするのだと言っていたらしい。
うーーん、同じ年頃とは言っていたけど、同じエリア内だしもしかしたら、メリー達もそっちに行っているのかもしれない。メリーだけでもこっちに来ればなあ、未玖が喜ぶんだけど……
そう思っていると、北上さんの大きな声が辺りに響いた。
「ちょっと……メリー―!!」
メエエエ!!
振り返るとそこには、メリーと他にストレイシープが2匹。しかも3匹で寄り添って入っているから、完全に入り切れていないけどメリーの手には小さな折り畳み傘。
俺達の様子を見に来たのか、メリー達はここへやってきたのだった。
北上さんと未玖は、メリーを目にするなり駆け寄る。そして雨でビショビショに濡れてしまった3匹をタオルで拭いてあげた。大井さんは、そんなメリー達を横目に、メリー達の為に野菜を網に乗せて焼いてあげる。
トモマサの笑い声。
「ワッハッハッハ!! 気が付けば、大人数になってきているじゃないか。なあ」
「そうだな。宴を開くと、トモマサは必ず現れるよな」
「確かにーー」
翔太も頷く。すると、トモマサはまた上機嫌に笑いだした。
ふう、あれからずっと飲んでいるから、ちょっと酔っ払ったかも。俺はよろよろと立ち上がると、傘をさした。一緒に飲んでいた小貫さんも、いい感じに酔っていて少しボーーっとしている様子。
歩き始めると、翔太が気づいて声をかけてきた。
「おい、ユキーー。どっかいくのか? 宴はまだまだ始まったばかりで、これから大盛り上がりするんだぞ」
「ああ、そうだな。まだまだ盛り上がる。だけど、ちょっとトイレだ」
「なーーんだ、じゃあ、直ぐ戻ってこいよ。それまでこの場は、この俺っちと美幸ちゃんで盛り上げておくからよ。なー、美幸ちゃん」
「う、うん。でもちょっと暑苦しいから、もうちょい離れてくれるー」
「えーー、急に冷たくなったじゃーーん!!」
笑い声。俺も笑った。俺は軽く手を振って、トイレの方へと向かった。すると後ろから、誰かが俺の後を追いかけてくる音が聞こえた。鈴森。
「待てよ椎名、おい」
「ああ、なんだ?」
「俺も行く」
「一緒にか? まあ、いいか」
いくらここが拠点の中だと言っても、辺りはもう真っ暗で、雨がずーーっと振っている。その中を歩くのに、傍に誰か1人いるだけで、気持ちが大きく違った。
鈴森も傘をさしている。そのまま歩く速度をあげて、俺の横に並んだ。俺も鈴森も右手は傘、左手は懐中電灯を握っている。
「椎名」
「なに?」
「皆に聞かれていると思うけどな、明日からどーすんだ? 翔太に聞いたが、仕事をやめるんだな。じゃあ、俺と一緒に、ニートだな」
「一緒にすんなよ。これからは、こっちでガッポガッポ稼いでいく計画なんだから」
鈴森はニヤリと笑った。
「それならやっぱり、俺と同じじゃねーか」
「それで……他にも話したい事あったんだろ? 丁度いい、俺もお前に話したい事があったんだよ」
「なんだ?」
「鈴森、お前が先に話せ。こういうのは、順番だもんな」
「そうか? いや、まあそうか。さっき仕事を辞めると言ったが、それは翔太や北上、大井も同じなんだろ? それを確認したかった」
「そうなるな。でないと、無理だろ」
一週間後にやってくるという転移サービスの休止。その間は、転移は一切できないという。そしてその期間に突入すると、転移アプリを使用できる、レベル5以下の転移者は、もとの世界へ強制送還されて約3週間から1ヶ月、『異世界』へは戻ってこれないという。
つまり逆にこっちの世界に残るという事は、その期間中はこっちの世界に居続けなくてはならないという事になるのだ。
未玖達……小貫さんだってそうだし、アイちゃんだって……転移アプリの入ったスマホを紛失してしまい、今やもとの世界へ戻れなくなってしまった。そんな【喪失者】の皆だけをこの世界へおいてなんていうのは、俺達にはできない。
俺達は同じクランであり、同じ仲間なんだから、その期間中……この世界で乗り切らなければならないというのなら、一緒に乗り切りたいのだ。
「とりあえず、明後日。月曜日に会社に出勤したら、上司に休ましてくれって言おうと思う。でもどうせ、3週間程有給使って休ませてくれって言ってもまず無理って言われるだろうし、うちの会社はブラックだからそうでなくても有休もろくに使わせてくれないしな。結局、クビになるだろう。でもいいんだ。俺も翔太も今の会社には、何のやりがいも未練もないから」
「そうか。ならいいか」
シトシトと雨の降る森の中。そこを歩いて、俺と鈴森は川エリアで宴をしていた場所から一番近いトイレに到着した。拠点内には、今はいくつものトイレが設置されている。
成田さんと松倉君、団頃坂さんなどが中心となって作ってくれたトイレだ。作りは簡単な小屋のようだけど、一応外からは見られないようになっているし、屋根もあるので用を足すのに雨に濡れる心配もなかった。




