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Phase.34 『食べられる実』



 槍を投げた。


 しかし、魚には当たらない。靴を脱ぐと、川にザバザバと入っていって槍を拾いまた投げる。くそっ、当たらない。


「くっそー! やっぱり釣り竿を持ってくるんだったな……っと見せかけて!」


 諦めた素振りからの、いきなり振り返って槍を発射。槍はやっぱり外れ、その拍子に川底のヌルっとした石で足を滑らして盛大にすっころんでしまった。直ぐに立ち上がったがズボンは、ビッショビショ。


 くそがーー!! 魚の分際で!! 頭に血が昇ったと思った刹那、未玖(みく)の笑い声が聞こえた。


 振り向くと彼女は、可愛らしい小さな手で口を押えて笑いをこらえている。……ふむ。魚は仕留められなったけど、無駄な事ではなかったらしい。


「未玖もやってみるか? なんならこの俺お手製の槍を貸すぞ」

「え? わたしが……ですか?」

「そうだ。だって今、笑ってたろ? 魚を獲るってめちゃくちゃ難しいんだからな。ちょっとやってみ?」

「でも……洞窟へ行くって……」


 俺は未玖に腕時計の時刻をこれ見よがしに見せた。9時前。


「時間はたっぷりあるぞ。別にその洞窟は、それ程遠くない場所にあるんだろ?」

 

 頷く未玖。俺は、槍を手渡した。


「あの深い場所にいっぱいいるんだよな。水の色が濃い緑になっている所があるだろ。……そうだ! 俺があそこにたむろっている魚を脅かすよ。それで、こっちへ魚が逃げてきたら未玖が仕留めろ。できるか?」

「は、はい。そ、それじゃやってみます」


 不安げな未玖に、にこりと笑いかけると俺は川辺にあった大きな石を拾上げる。未玖も観念したのか、靴を脱ぐとジャバジャバと川に入り、水に向かって槍を構えた。


「それじゃ行くぞ!」

「あっ。ちょっと待って……」


 ザバーーーンッ!!


 石を投げる。水飛沫。未玖は、慌てて槍を投げたが体勢を大きく崩してそのまま川の中へ倒れ込んでしまった。慌てて顔を出す。俺はさっきのお返しとばかりにそんな未玖を見て笑い転げた。すると、未玖はいきなり悲鳴をあげて川から飛び出し自分の着ている服をめくり上げた。


「ひ、ひゃあああ!!」

「ど、どうした未玖⁉」


 バシャバシャッ!


 すると未玖がめくり上げた服の中から魚が4匹も飛び出して来た。


「うおおお! 未玖、凄いぞ!! 4匹も魚を獲ったな!」

「え? ええ⁉」


 戸惑う未玖を横に、俺は未玖の服に入り込んでいた魚を手掴みで捕まえた。


「やったな未玖。当たり前だけど、どう見てもこれは川魚だ。この魚、戻ったら塩焼きにして食おう!」


 返事がない。未玖の方を振り返ってみると、彼女の頬っぺたがぷくっと膨らんでいた。


「ごめんごめん! でも、ほら見ろ! 未玖が獲った食糧だぞ。これからはあれだな、未玖がいれば魚料理には困らなそうだな、ははは」


 ナイフを取り出して、魚のエラに突き刺す。息の根を止めて、血抜きをするとザックに常時忍ばせているビニール袋を取り出して4匹の魚を入れた。


「未玖のお蔭で早速食糧を調達できたな。食い物はある程度、持ってきているけどこの異世界のものも食べてみたいしな」


 ポンポンと未玖の頭を撫でるように優しく叩いた。未玖の機嫌はなおったようで、魚を4匹も獲れた事を誉めているとまんざらでもない顔をしていた。俺の妹とは違って未玖は、可愛い。


 会ってまだ間もないけど未玖と一緒にいる事が楽しいと感じていた。これであと、翔太もいればもっと賑やかになってもっと楽しいかもしれない。何より、あいつがいれば心強い。


 川遊びも終わり森の中をまた歩く。歩いている途中、木の上を何かが動き回っているのが解った。猿か栗鼠か……それとも魔物……どちらにしても、油断はしない。


「ゆきひろさん、あれ」


 未玖が木を指さした。何かが実っている。拳の半分位の大きさ、黄色い果実。


「これは……枇杷(びわ)?」


 枇杷に似ているけど、少し違うような感じもする。葉っぱもそうだった。枇杷に似ているけど、同じではない。もしかして、異世界の枇杷なのか? だったら食べられるのか。


「これ……食べられます」

「へえ、そうなんだ。これは凄いな。丁度手に届く所にも実っているし、じゃあ1個採って食べてみようかな」


 ブチッ


 ガブッ、モッシャモッシャモッシャ……


「美味い!! 美味いけど、これ枇杷だな!」

「ログアップの実というらしいです」

「ログアップ?」

「【鑑定】で見た時に、そう名前が書いてあって食べられるって説明がありました」

「ふーん。ログアップ、ログアップ……ログイン、ログアウト……そう言えば英語で枇杷ってログアットとログワットとかそんな名前じゃなかったかな。じゃあ、やっぱりこれは異世界の枇杷か」


 見上げると、木には沢山ログアップの実が実っていた。味はやっぱり枇杷に似ている味がする。枇杷ってあまり栄養価がなかったような気もするけど……それでも、さっぱりとして水気もあるし癖になる味と言えばなる。


「それじゃ、折角ザックを持ってきているし、採取して行こう。そうすれば後で小屋に戻った時に好きな時に食べられるしな」

「は、はい」


 こんな感じで未玖と洞窟を目指すのか。これは、かなり楽しいと思った。


 ログアップの実を二人で、採れるだけ採るとそれをザックに詰め込む。


 きりがないので、この辺でいいだろうとまた先を進もうとした。すると、未玖がまた指をさした。今度は木の高い位置に実っているグミのような赤い実。あれも、レッドベリーという名の実で食べられるそうだ。うーーん、これはリアカーでも持ってこればよかったか? 

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