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Phase.337 『甘くてほっくほく』



 川エリアのテントを立てた場所へ戻ると、早速翔太と北上さんの賑やかで大きな声が聞こえてきた。


「美幸ちゃん、ここはやっぱ肉っしょー! 肉食わないと、力がでないって!」

「それは、晩御飯! これはオヤツみたいなものだから、いいの!」


 オヤツ?


 ガサガサガサッ


「よお、お待たせー」


 翔太や北上さんや大井さんと目が合う。うん、未玖とアイちゃんもいるな。皆はいったい何をしているんだ?


「おお、ユキー! やーーっときやがったなあ!」

「ユキ君!」

「ゆきひろさん、ビショビショじゃないですか!」

「あはは、結構雨が降っているからなー。まあ、でもこれで暫くは、ここで皆と一緒にゆっくりするつもりだから、気がつけば乾いているだろう」

「でも濡れたままでいたら、風邪を引きます」


 未玖はそう言って、タオルを持ってきてくれた。受け取ろうとすると、そこへアイちゃんもタオルを差し出してくる。北上さんは、それを見て笑った。


「わあーー、ユキ君、モッテモテじゃない! こんな可愛い女の子2人にモッテモテなんて、なんて羨ましい!」

「いや、そういうんじゃなくて、2人は俺が風邪を引かないようにって心配してくれているだけで……」


 翔太が怒りの声をあげる。


「ゆるさーーん!! 断じて許すまじ!!」

「何がだよ!!」

「ユキーばっか、ゆるさーーーん!! 俺だって、可愛い女の子にちやほやされたいのに!! くっそーー!!」

「誤解だよ。言ったろ、未玖とアイちゃんは俺が風邪を引くんじゃないかって心配してくれて……」

「そんなら、俺もビショビショに雨に濡れる。そしたら、心配してくれるって事だよな! なっ、そういう事だろ? 違うか!」


 め、面倒くせえ……


 これ以上、翔太の嫉妬に付き合ってられないので、話をすり替えた。


「ところでさ」

「あーー!! 話は終わってねーんだよ!!」

「違うって。それより、その前になんかお前、北上さんと言い合っていただろ? それはいいのかよ」

「え? 言い合ってた? 俺と美幸ちゃんが?」

「そうだよ」


 キョトンとする翔太。すると北上さんが笑って代わりに答えた。


「これこれ、これの事だよ」


 北上さんが指した先には、焚火があった。その中には、サツマイモとトウモロコシが入っている。


「うおおお!! サツマイモとトウモロコシ!! いいね、これはいいね!」

「でしょー!! これから食べようかなって思って。なのに、秋山君はお肉じゃないとヤダーっていうから、それは夜に食べようって言っていたところなの」

「そうなのか。それじゃ、肉は夜にしよう」

「ええーー、ユキーまでそんな事を言うのかよー。肉食わないと、パワーがでないんだよー。これ楽しみで、こっちの世界へ来てんのによー」

「異世界転移の魅力は、食い気だけかよ。それに、もう準備はできてるんだろ? 焼肉かバーベキューかステーキか知らんけど」


 翔太がテントの近くにあるクーラーボックスに目を移す。


「ああ、肉多めと野菜もね。ちゃんと、準備してきた。酒やつまみだってあるんだからな」

「それなら、絶対夜だろ。とりあえず、芋もモロコシも焼けてきたみたいだし、食べよう」


 北上さんと大井さんが、嬉しそうに手をあげる。それにアイちゃんも続いた。


「賛成ーーー!!」

「焼き芋、美味しそうーー!!」


 北上さんは棒を手に取り、それで焚火の中で焼いているサツマイモとトウモロコシをとりやすい場所へ寄せた。そして軍手をはめた大井さんがそれを取って、未玖やアイちゃんの前に置く。


「あ、ありがとうございます」

「ありがとう!! 凄い美味しそう!!」

「もう焼き上がっていると思うけど、熱いから気を付けて食べてね」


 女神のように2人に微笑みかける大井さん。未玖もアイちゃんもにっこり。続けて、俺と翔太にもまわってきた。全員にサツマイモとトウモロコシがいきわたると、俺達はそれを食べ始めた。


「それじゃ、頂きまーーす!」

『頂きまーーす!!』


 サツマイモは、ほっくほく。トウモロコシも、甘みがあってとても美味しい。やや焦げがあって、その部分はその部分で香ばしくて最高だった。


 そう言えば、まだ俺が幼かった頃に家族で田舎にいった時、祖父母の家でこうやって焼き芋や焼きトウモロコシをやって食べた記憶がある。


 高校位になって大人になって、そういうものを食べる機会もなくなり、長い間この味の素晴らしさを忘れていた。


「むっぐむっぐむっぐ……ごくんっ! 美味い!!」

「美味しいよねー」

「うん、美味い!!」

「ところでこれ、誰が持ってきてくれたの?」


 北上さんがニヤリと笑うと、大井さんと未玖は顔を見合わせた。


「え? もしかして北上さん?」

「種は、私と海が持ってきたの。それを未玖ちゃんが草原エリアに畑を作って、育てたんだよ」

「え? そうだったんだ! 凄いな、未玖!」

「……他にもあるんですよ」


 未玖はそう言って向こうに目を向けた。そこには、籠がいくつか置いてあり、覗き込んで見ると……なんと西瓜とか苺とかトマトとか、野菜やフルーツが沢山入っていた。


 魔物の事とか、ゾンビ、転移者、色々な事でこういう事を忘れていたけれど、そういえば最初に俺と未玖は、こういう作物をこっちの世界で作ったらどうなるんだろうってスタートエリアに畑を作ったりしていた。


 あれから少し経つし、その間に植物が、異常繁殖して成長するという事件も起きた。考えてみれば、その前に育てていた作物も、草木とともに急成長していてもおかしくはない。


「もしかして、あの植物が異常に増えたあの時、作物も成長したり増えていたのか」

「はい。採りきれない位に増えて、このトマトみたいに異常に大きくなったものもあってびっくりしました」


 未玖はそう言って、籠の中からバスケットボール位に大きくなったトマトを取り出して、俺に見せてくれた。なんじゃ、こりゃ……


「た、食べられるのか?」

「はい、大丈夫です。食べてみますか?」

「そうだな。でもとりあえず、今は焼き芋と焼きトオモロコシがあるから、これから食べよう」

「はい、じゃあ、食べたくなったらいつでも……」


 翔太は肉が食べたいって言っているけど、これは色々と食べてみたいといけないものが沢山あるな。


 まあ、今日はこれからここで翔太や未玖、北上さんに大井さん、アイちゃんとゆっくりするんだ。慌てずに行こう。


 焼き芋を齧る。するとほっくほくで、甘くて美味しい味が口の中いっぱいに広がった。

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