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Phase.332 『レベルとメンテ その2』



 運営からの、転移アプリ休止のメール。当然、俺にも届いていると思って直ぐに確認した。するとやはり、蟻群に届いたメールと同じ内容の物が届いていた。


 



<当アプリをご使用の皆様へ>


 いつも当アプリをご利用頂きまして、ありがとうございます。


 早速ではありますが、当アプリの転移サービスに関しまして、メンテナンスを行う事となりました。


 よって、来週の月曜日から約三週間から1ヶ月の予定で、転移サービスのご利用はできません。ご了承くださいませ。


 尚、メンテナンスの開始時には、レベル5以下のお客様方に関しましては、強制的にもとの世界へお戻り頂きます。これは、『異世界(アストリア)』での経験の低い転移者様の、無謀な行動を制限させて頂く為の処置でございます。


 またスマホの紛失などによるアプリのご使用をできない、俗に言う【喪失者(ロストパーソン)】と呼ばれる方々には、上記内容には当てはまりません。


 今後、こういったサービスの停止は多々行われる事になりますが、その際はその月の当アプリご利用料金は、完全無料とさせて頂きますので、どうぞご理解くださいませ。


 それでは、心踊る素晴らしい異世界ライフを引き続きお楽しみください。       


 ――アストリア運営委員会――




 

「約……3週間から1ヶ月だと……」


 呟くように言うと、蟻群とトイチはこちらに向き直って言った。


「俺ら、レベル2なんスよ。モンタやモージ、小田もッス。小早川や有明もそうで、大谷がレベル3で……」

「そうなのか」


 俺は自分のスマホに目をやる。


 そう言えば、ここの所はぜんぜん自分のレベルを確認していなかった。


 この『異世界(アストリア)』では、アニメやゲームみたいに、レベルが上がればその分メキメキと強くなる訳でもない。だからレベルなんて、この『異世界(アストリア)』で自分がどれ位の適応力があるのかとか、経験があるっていう目安位にしか思っていなかった。


 実際今もそう思っているけど……まさか、レベル5未満の者は、そのサービスが使えない3週間か1ヶ月の間、ようはこの世界へは入れないという事か。


 俺は前回見た時は4だった。今はどうなっているのかと、確認する。トイチと蟻群が横から覗き込んできた。


「椎名さんは、レベルいくつなんですか?」

「ずっと見てなかった。前回見た時は、4だったが……驚いた。6になっている……」


 っていう事は翔太も4だったから、6位になっているかもしれない。北上さんや大井さんもそうだし、鈴森もそうだったかな。成田さんが確か3って言っていたような気もするけれど……


「あの、それでご相談なんですけど」


 トイチがそう言うと、周りに人が集まってきた。大谷君、有明君、小早川君。更にモンタ、モージ、小田、和希。


「な、なんだよ、皆改まって?」

「俺ら全員、その……一週間後にやってくるサービス休止の期間、こっちの世界に残りたいんス」

「え? の、残るったって……」

「だって、椎名さんもそうでしょ? 未玖ちゃん達、【喪失者(ロストパーソン)】の皆は、そのままこの世界に残らなくちゃいけないんですよ。その間、もしも何かあったら……」


 今度は小田が前に出て言った。


「陣内と成子が死にました。つまりこの世界は、普通じゃない。普通に危険があって人は死ぬ。だけど自分は、『異世界(アストリア)』でもっと冒険をしたいし、この世界から抜け出そうとしても抜けらんない仲間を放ってなんて、いられないんですよ」

「小田……」


 和希に目をやると、彼も頷いた。


「皆、仲間なんです。僕と大谷先輩はレベル3でした。つまりここに集まっている人は、2か3。さっき小田先輩が言いましたけど、僕のレベルも同じです。もうひと頑張りすれば、直ぐにレベル5になれると思うんです」

「つまりアレか。懸賞金のかかった魔物を倒したいっていう理由の第一目的は、その懸賞金ではなくて一週間後にやってくるサービス休止時に、この世界へ残れるようにレベルをあげておきたい訳か」


 全員が頷いた。そして和希が続ける。


「椎名さんも残るんでしょ? なら僕達だって残りたいですよ」


 残りたい……残りたいけど、俺にはあんな嫌な会社でも仕事というものがある。翔太や北上さんや大井さんも同じだろう。もし、俺達もこっちの世界に残るとして、三週間も俺達4人も会社を休んだらどうなるのだろうか。


 ……クビ?


 いや、もはやクビだっていい。だって未玖はどうなる? 俺はこの世界で、未玖を守りたい。他の仲間もそうだ。仲間と拠点を守りたいんだ。ここは、既に俺の居場所なんだ。


「まあ、お前達の本当の気持ちや考えは、今知ったばかりなんだけど……うん、俺はリーダーだし、残るな」


 嬉しそうに顔を見合わせて、声をあげる和希達。


「まあ、皆の気持ちは解ったよ。ここは日本じゃないし、俺達のルールは俺達が作る訳で、それぞれ自分が正しいと思う行動をとればいいと思う。どんな結果になっても、後悔しないならな。だから一週間後に、この『異世界(アストリア)』に残り続けたいのならそのためにレベルを5以上にしておこう」

『おおーーー!!』

「やったーー、残れる!!」

「よろしくお願いします、椎名さん!!」

「リーダー!!」

「とりあえず、俺も今この件に関しては皆の気持ちを知ったばかりだし、これから他の皆とも話をしたい。スマホを持っていない者は、誰からもまだ聞いてなければ、当然この件について何もしらないだろうしな。って事で、今日は雨も降っているし自由に寛いでくれ。明日だ。レベル上げをするのに、魔物を退治するというのなら、明日決行しよう」


 全員、了解してくれた。


 しかし、こんな事があるなんてな。


 まさか、3週間から1ヶ月もの間、この世界に居続ける事になるとは……でも考えてみれば、未玖や【喪失者(ロストパーソン)】の皆は、もうずっとそういう生活を送っているんだ。この『異世界(アストリア)』オンリーの生活を。なら、俺だって3週間や1ヶ月程度なら、できない訳はないんだ。


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