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Phase.33 『未玖のスマホ』



「未玖、ちょっとこっちに来てくれるか」


 小屋の中に呼ぶ。持ってきた大量の荷物――大きなザックを漁って中から予備のザックとベルトを取り出した。それを未玖に手渡した。


「これは?」

「森に調査に行くからな。またゴブリンと遭遇するかもしれないし、他の危険な魔物が出るかもしれないしな。逃げるが一番だけど、そうできない時の為の護身用だ」


 俺のベルトに装備している4本のサバイバルナイフと鉈と、この小屋で見つけた剣。そこから1本のサバイバルナイフと鉈を外すと未玖に手渡したベルトに装着し、未玖の腰に巻き付けた。未玖の体格だと鉈まで持たせると、ちょっと重いかもとも思ったけど、とりあえず持たせてみる。そしてザックも背負わせて、その中に350ミリのお茶の入ったペットボトルとタオルを入れて準備完了。


「どうだ? 重くないか?」

「え、え? これ?」

「うん、持っていた方がいいだろ。未玖の言う木の実や果実なんかも見つけたら採取したいから、ザックもあった方がいいしな。薪集めにも利用できるし便利だよ。鉈はまた貸してもらうかもだけど、全部未玖にあげるから使ってくれ」


 そう言うと未玖は信じられないという顔をし、とても嬉しそうにしてみせた。ナイフや鉈を抜いてみては、ちょっと振ったりして試している。


「あ、ありがとうございます! 凄く嬉しいです!」

「ははは。ナイフも鉈もよく切れる奴だから、気を付けて使ってくれ。それじゃ探索に出発しようか」

「は、はい」


 俺もザックを背負い、お手製の槍を手に持った。さて、それじゃ行こう。小屋を出ると、柵を動かして外へ出た。


 森を見渡すと、のどかなものだった。だけど、ここは異世界だ。森には魔物も生息しているし、ゴブリンだって徘徊している。十分に警戒はしなければならない。


「森に入る前に言っておくことがある。俺は未玖と会う前に3匹のゴブリンに遭遇した。未玖を追いかけていた奴があの3匹のうちの1匹かも解らないけど、例えそうだったとしても俺がやっつけたのは1匹だ。最低でも2匹はこの辺を徘徊している可能性はある」


 心配そうな顔で俺を見る未玖。


「だから、もし遭遇して追ってくるような事があれば逃げる事を優先する。それでもしも追いつかれたら俺が時間を稼ぐから、そうなったら未玖は全速力で俺に構わず逃げろ。そして、この小屋へ戻るんだ」

「で、でも」

「もしもの話だよ。もしも、遭遇したらそうして欲しいって話だ。未玖と俺じゃ流石に俺の方が走りは早いからな。同時に逃げても、未玖を置いて逃げる事になってしまう。体力も身体も大きい俺が時間を稼ぐっていうのは、当然な話だよ。俺もできるだけ無茶はしないつもりだし、それだけは約束してくれ」

「…………」

「約束してくれないと、一緒に森へは行けない」

「……はい、約束します」

「そうか、ありがとう。それじゃ、安心だ。よし、森へ入ろう」


 どうしてもこれだけは、話しておきたかった。何かあった時に、ちゃんと決めておかないと。


 一緒に行くのが翔太なら一緒に逃げてどちらかがやばかったら、一緒に戦ってって考えるけど未玖は子供だ。先に逃がしてからでないと、俺は何もする事ができないだろう。


 未玖の肩をポンと叩くと微笑む。すると、未玖もにこりと笑ったので納得したと思った。


 森に入る。森の中は、木漏れ日が至る所に差し込んでいて鳥の囀りがしていた。本当にのどかな森。夜にここを通る時はかなり不気味だったのに……こうも朝と夜で変わるのか。


「それじゃ未玖、そのこの辺りある未玖がいた洞窟へ案内してくれ」

「……はい。向こうです」

「よし、あっちか」


 暫く森の中を歩いていると、あの川に出た。


「おおーー。川に出た! 知っているか未玖! この川、魚がいるんだぞ!」


 言って自分がはしゃいでしまっている事に気づいた。だってしょうがない。こんな自然溢れる森の中、川を見つけてそこに魚や貝、蟹なんかの生物もいるのだ。テンションがあがらない訳がない。


「ほら、未玖! 見てみろってあそこ! いっぱいいるぞ!」


 川辺まで降りて魚のいる所を、指をさす。すると未玖もこっちへ来てその場所を覗き込む。


「さ、魚がいます! 本当ですね、お魚がいっぱい泳いでいます! わたし、気づかなかった……」

「ははは。魔物に襲われないように、警戒していたから川の中までちゃんと見てなかったんだな」


 その時、未玖の言っていたアプリの【鑑定】という機能の事を思い出した。


「未玖」

「はい」

「昨日寝る前に話してくれた【鑑定】っていうアプリの機能の話。あれ、今使えるかな? それ使えばあの魚がなんていう魚なのか解るし、ここにいる貝が食えるものか解るんじゃないかな」


 我ながら早速いい事に気づいたと思った。だけど、未玖の表情は暗くなる。


「未玖?」

「【鑑定】を使えばゆきひろさんが、言うように色々解ると思います。でも……」

「でも?」

「もう一か月位前になります。魔物に襲われて逃げている時だと思うんですけど、スマホを何処かに落としてしまって……」


 スマホを落とした? 落としたって?


「そ、それって……じゃあ、どうやってもとの世界へ戻るんだ? 転移する為にはスマホにインストールしている『アストリア』のアプリを起動しないと戻れないんじゃ……」

「はい……だからもとの世界へは戻れません。でも、もともとわたしは、もとの世界へ戻りたいとも思わないので……」


 『アストリア』の事とは関係がない。だから、踏み込んでいいのかどうか解らなかった。未玖には未玖の何か事情があるのだと思った。

 

 だけど、いくらもとの世界へ戻りたくないと言ってもこんな小さい女の子がこの『異世界(アストリア)』で一人で生きていくのは過酷すぎる。魔物にも襲われ二カ月も生きていたのが奇跡だ。


 未玖が『異世界(アストリア)』で生きていくにしても、俺がなんとか守らなければと思った。

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