Phase.328 『掴み取り その2』
「未玖――、そっち行ったぞ!! 捕まえろ!!」
「は、はい!!」
ザパーーーーン!!
「アイちゃん、今度はそっちだ!! 足元にいる!!」
「え? 嘘!? ちょ、ちょっと待ってよ!!」
ザパパーーーン!!
雨の降る中、最上さんと小貫さんが作った生け簀で、大暴れする未玖とアイちゃん。2人供、必死になって魚を追いかけて捕まえようとしている。
「ほら、頑張ってーー!!」
「2人供、頑張れーー!!」
最上さんと小貫さんの、笑い声交じりの声援も聞こえてきた。
俺は2人が頑張って魚と死闘を繰り広げている生け簀の横に、魚を入れておく用のバケツを置くと、小貫さんの方へと歩いた。そして隣に並ぶ。
「椎名さんは、今日は完全にオフか」
「ああ、そのつもりだ。今日はこの通り雨だし、また懸賞金のかかった魔物を討伐しに行くにも、どれにしようか狙いも定まっていないし」
「そうか。でも行くなら、声をかけてくれ。俺も出かけて、魔物を仕留めたい」
「小貫さんが来てくれると、心強いからなー」
「その代わりって言ったらなんだけど、例のブルボアなんだがな……」
小貫さんがそこまで言った所で、彼の肩をポンと叩いて笑った。
「解っているって。俺や翔太だって、佐竹さん達の仇は討ちたい。それにあんな化物級の猪の魔物、放っておくわけにはいかないしな。見つけたら、一緒に狩りに行こう」
「ありがとう」
「いいって。目的は同じ。それに、仲間だろ」
仲間という言葉を出して、陣内と成子の事を思い出した。最初はアレだったけど、2人は俺達の大切な仲間になった。だけど……
だけど、あの2人は俺達のもとへは、もう二度と帰ってこない。それを思うと、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
それ程、あいつらの事を知らなかった。だけど、これから仲良くなれるという確信はあった。大谷君だって、あの陣内と一気に仲良くなっている感じだったし、もう親友みたいなものになっていた。
なのに……
『界』へ来ると選択した時点で、全てを覚悟しなくてはいけない。それができないというのであれば、ここへは来てはいけないのだ。でもやりきれない。こんなの……
「椎名さん……なんか、つらそうな顔だな。ほら、アイちゃんが手を振っているぞ。振り返してやったらどうなんだ?」
「アイちゃんは、小貫さんにも手を振っているんだよ。そういうなら、小貫さんも振り替してあげればいいんじゃないかな?」
「……そうか」
アイちゃんと未玖に目を向けると、笑ってみせた。そして代わりに小貫さんが、大きく手を振ってくれた。
「なんか、暗いな。どうしたんだ? 椎名さんは俺達のリーダーだろ。しっかりしてくれよな」
「そのつもりなんだけどな。陣内と成子……高校生が2人も亡くなって、まだそれ程経ってもいないのに、こんなに浮かれていてもいいのかなってな」
「いいんじゃないか」
「え? 浮かれていても?」
「浮かれていてもだ。浮かれる時は浮かれて、悲しむ時は悲しむ。それでいいと思う。俺もそうだった」
「そうかな」
「そうだ。佐竹、戸村、須田。皆、俺にとって最高の仲間だった。リアルでもこの『異世界』でもな。それに俺達のクラン『竜殺旅団』は、最高最強だったと今も思っている。もちろん、今は椎名さんやこの拠点の皆が俺の大切な仲間で、『勇者連合』こそが俺のクランだ」
「俺も同じだな」
「兎に角、椎名さんの事は皆よく解っているっていいたい。いいリーダーだよ。少なくとも俺達にとってはね。佐竹達が死んで、俺は絶望した。もとの世界へも戻れなくなってしまったし、もうどうでもよくなった。でもリーダーが追いかけてきてくれて、救ってくれたんだ」
「俺は救ってない。小貫さんが自分で助かったんだよ」
「ははは、それ、何かのセリフだなー」
小貫さんと笑い合う。
「ちょっと、ユキ君!!」
アイちゃんの声にビクっとして振り向く。
アイちゃんと未玖は、なんと何匹もの魚をバケツに捕まえていた。
「おおーー!! 沢山捕まえたな!! さっすが!!」
「えへへー、頑張ったんだよー。ねー、未玖!」
「え? あ、はい!」
「そうか、2人供ビショビショになって、頑張って魚を獲ったんだなー」
「あはは、それを言うならユキ君もそうだし、小貫さんだってそうでしょー」
「確かにそうだ」
雨はまだやまない。それどころか、徐々に強くなってきている感じがした。
俺は小貫さんと最上さんに、魚の御礼を言った。
「ありがとう。それじゃ、遠慮なく魚をもらっていくよ」
「どうぞ」
「それと、アレだ。良かったら、小貫さんと最上さんも、一緒に朝ご飯食べる?」
2人は顔を見合わせると、顔を横に振った。
「ぼくたちは、もう少し釣りを楽しみたいんだ。それに朝ご飯は、簡単に済ませるつもりだから」
「そうか、それじゃ俺達は自分のテントの方へ戻るとするわ」
未玖とアイちゃんを連れて、テントを張った場所へと戻る。
まあ何かあれば、最上さんと小貫さんも凄く近い場所にいる訳だしな。ここは拠点内だし、まあ何も心配はいらないだろう。
それよりも……
「うううーー、ビショビショだーー!! ちょっと、一度さっぱりしたいよね、未玖」
「え? は、はい、そうですね」
2人に目を移すと、雨に濡れて服が透けて下着が見えているのに気付いた。俺は慌てて2人から目線を反らした。




