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Phase.327 『掴み取り その1』



「あれー、椎名さん!」

「どうもー、最上さん。それに小貫さんも」


 2人供、手には釣り竿。そして笑顔。俺は二人のいる川辺へと移動した。


「どう? 今日はこんな雨だけど、釣れてる?」


 頷く最上さんと、小貫さん。そうなんだ、釣れたんだな。


「海なら雨がふるとアレだけど、川とか池とか、淡水なら逆に釣りやすかったりする場合もあるからね。今日は、それだったって感じかな。ほら、来た!」


 バシャバシャッ!


 最上さんの竿がしなる。竿をあげて糸を引くと、針の部分には魚が喰いついていた。ビチビチと暴れて、なんとも生きが良い。


「凄いなー」

「ほら、椎名さん。こっちきてみて。面白いものを作ったんだ」

「面白いもの? なにそれ?」


 小貫さんが手招きすると、最上さんが嬉しそうに笑う。なるほど、よっぽどいいものだな。小貫さんは、手に持っていた釣り竿を地に置くと、こっちだと言った。


 ついて行くと、釣り場の直ぐ近くになんと堀があった。川の直ぐ横を掘ったんだろうけど、ちょっとした池みたいになっている堀。


「これ、もしかして……」


 ボシャンッ!


「うおっ!!」

『アッハッハッハッハ!!』


 なんと堀には魚がいた。そして水面を跳ねた。俺はびっくりして、思わず声をあげてしまい、それを二人に笑われてしまった。


「ここに堀を作ったんだ。でもなぜここに魚が……」


 小貫さんは、くくくと笑う。


「椎名さん。これは堀じゃないよ」

「え? じゃあ……っあ!! もしかして!!」

「そう、これは生け簀だ。釣った魚をここに入れておけば、いつでも新鮮な魚が食べられるだろ?」

「なるほど、これはいいな。凄い面白い」


 こういうの、なぜか物凄くテンションがあがる。俺は二人が作った生け簀に近づくと、中を覗いた。色々な魚だけでなく、エビやカニもいる。


「これ、カニなんかは逃げられるんじゃないか?」

「アハハ、まあそうだな。そうだとしても、結構エビやカニも釣れるから、とりあえずそこに入れておいた」

「そうなんだ。ふーーん、こうなってくると、釣りもかなり楽しいだろうな」

「楽しいよ。ちょっとここへは、軽く寄ったつもりだったんだけどな。最上さんに誘われて、それからずっとここで釣りをしているよ。朝ご飯もまだ食べていない位に夢中になってな」

「へえ。いいな」

「椎名さんもどう? 雨の中の釣りも、たまにはいいもんだよ」

「いや、俺は――」


 ついうっかり、話に夢中になってしまい、薪をもらいきた事を忘れていた。


 俺は最上さんと小貫さんに、この近くで未玖とアイちゃんとテントを張って、そこで過ごしている事を伝え、焚火をするのに薪が必要だからもらいに来たのだと言った。


 すると最上さんは、自分のテントの近くに薪置き場を作っているらしく、そこからいくらでも持っていってもらってもかまわないと言ってくれた。そしてついでに魚もくれるという。


「魚って最上さん達が作った生け簀から、持って行ってもいいのかな?」


 最上さんは笑った。


「ああ、いいよ。いくらでも取って行って」

「網とかある?」

「あるけど、手づかみの方が面白いんじゃない? どうせ、この雨だ。2人供、もうズブズブに濡れているんだろ?」


 2人? ああ、なるほど。最上さんは、未玖とアイちゃんの事を言っているのだと気づいた。


「なるほど、それはきっと喜ぶ……っていうか、大燥ぎするかな。それじゃ早速、2人を呼んでくる」


 最上さんと小貫さんは、にっこりと笑って返事をした。


 俺は最上さんが言っていた薪置き場を見つけると、そこから持てるだけ薪を拝借して、未玖達が待つ自分のテントへと戻った。


「ゆきひろさん!」

「ユキ君! 遅かったけど、何かあったの?」

「あー、ごめん。こんな雨の日だというのに、最上さんと小貫さんが釣りをしていてさ。それでちょっと話していた」

「そうだったんですか」

「それで、釣った魚を分けてくれるらしくてな。これから皆でもらいに行かない? 朝ご飯にも丁度いいかもしれないし」

「は、はい! お魚いいですね」

「私も行きます!」


 早速、未玖とアイちゃんを連れて、最上さんと小貫さんのいる川辺に戻った。


「おはようございます、最上さん! 小貫さん!」

「お、おはよう、ご、ございます」

「あー、田村さんと未玖ちゃん。おはよう」

「おはよう」


 未玖とアイちゃんを見て、最上さんと小貫さんは俺に挨拶をしてくれた時よりも、眩いばかりの笑顔を見せた。2人供可愛いし、未玖に至っては、皆も妹のように思っているのかもしれない。俺だって、未玖と知り合って気がついたらそう思っていたから。


 2人を生け簀の前に案内すると、最上さんと小貫さんがこの場所を作って魚を入れている事を説明した。そして2人には、魚を掴み取りして欲しいと伝えた。もちろん、2人供驚く。


「え? 魚を掴み取り……私、生きてる魚なんて触れた事もないですよ」

「ははは、そうなんだ。じゃあ、いい経験だな。因みに未玖は、魚を突いた事もあるし、掴んだ事もあるもんな」

「は、はい」


 未玖にそう言って頭を撫でる。するとアイちゃんは、急に袖をまくり上げてやる気を見せた。


「未玖ちゃんができるなら、私もできるんだから。解ったわ。魚を捕まえてみせる!! 私に任せて!!」


 少し離れた所から見ていた最上さんと小貫さんは、アイちゃんの発言を聞いてパチパチと手を叩いた。こんなに乗せてしまって大丈夫なのだろうかと、少し不安になる。だけど俺もいるし、最上さんや小貫さんも近くにいるし……まあ大丈夫だろう。


「未玖ちゃん!」

「は、はい」

「まずは、私が生け簀に入るから。だから、ちょっとそこで見てて!」

「は、はい……」

「2人で協力した方が早いぞー」

「ユキ君!! 見てて、直ぐに捕まえてみせるんだから!!」


 アイちゃんはそう言って生け簀に勢いよく入った。


 バシャアアアンと水しぶきがあがる。アイちゃんは、足を滑らせて頭から生け簀の中に突っ込んで転がってしまった。起き上がり、必死に藻掻くアイちゃん。生け簀の中は、結構深く作ってあるみたいだった。


 未玖は慌ててアイちゃんに駆けて行ったけど、俺と最上さんと小貫さんの3人は大笑いした。


 アイちゃんはそんな大笑いしている俺達に気づくと、頬を目一杯に膨らませた。でも内心は、楽しそうだった。

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