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Phase.326 『ほんぶり』



 ザーーーーーーッ


 本格的に雨が降り始めた。


 俺は未玖とアイちゃんと共に、テントを畳み荷物を持つと川エリアへと移動をした。


 なぜ川エリアに移動をしたのかというと、理由はいくつかある。川エリア、森路エリアは特に木々が多かった。だから雨を凌ぐのには、いいと思った。


 そして色々と考え事をしたい時など、俺はここの川に好んでくる。川のせせらぎなど、水の音はとても癒しになっていい考えが浮かんだり、まとまったりするような気がした。


 あとはそうだな。ここなら、いつも誰かいるからかな。最上さんは、ほぼここにいるし、未玖やアイちゃんを連れているなら、常に誰かいる場所の方がより安全だと思ったから。


「ユキ君」


 雨が降る、森の中。アイちゃんが不安そうに俺の名を呼んだ。未玖もきょろきょろと周囲を見回している。


「ああ、木が沢山生い茂っているここなら、過ごしやすいかなと思ってきてみたんだけど……なかなか雨が強くなってきたな。どうしようか……もしあれなら、スタートエリアに戻るか?」

「ユキ君はどうするんですか? 一緒にスタートエリアに行きますか?」

「いや、俺は今日は、もうちょっとここに居ようかなって思って」


 理解してもらえるか解らなかったから、これは言わなかったけど、俺はちょっとずつでも『異世界(アストリア)』の環境にも慣れようとしていた。


 この先、ずっと拠点周辺と拠点内にいる訳にもいかない。懸賞金のかかった魔物をまた仕留めにいって金を稼がないといけないし、この世界がどうなっているのか冒険……というか調査にもまた出たい。


 考えてみれば、外の世界へ繰り出して何処かに向かった事なんか、2回位しかなかった気がする。


 一つは未玖と一緒に、未玖が以前住んでいたという洞穴に行った時。あの時、サーベルタイガーに出くわして、外の恐怖を知ったんだよな。あんなのに外で襲われたら、いっかんの終わりだろう。まあ今は、銃なども持っているし、武装をしているから身を守れるかもしれないが。


 そしてもう一回は、佐竹さん達を埋葬した時。あの時、初めてゾンビを目にした。他にもあの恐ろしい魚の魔物とかいた湖。いや、あれは大きな池か? 近くに洞窟のようなものもあったけど、それもろくに調査もできていない。


 やる事はいっぱいだ。


「ユキ君がここにいるなら、私もここにいる!」

「そうか。じゃあ、早速居場所を決めてそこに、テントとタープを張ろう。でもできる事なら、川の近くがいいなー。あっ、あそこにするか。未玖もこっちに来てくれ」


 川エリア。ここに来れば、外との境界線の辺りと、最上さんがいる辺り、あと初めて未玖と魚を獲った場所ばかりに来ている。だけどこのエリアも実は、とても広い。


「さて、何処にテントを張ろうかな」


 未玖は、あそこがいいんじゃないかと向こうを指さした。その指先から、雨露が滴っている。まずいな、さっさと居場所を決めないと、未玖やアイちゃんが風邪をひいてしまう。


「ゆきひろさん。あっちにテントが見えます。最上さんのテントですね」

「ああ、そうだな。じゃあ、少し離れた所に設置しようか。折角広いんだしな」

『はい!』


 川は、雨のせいで水かさが増えていた。流れの勢いも強い。


 まあでも氾濫する事はないだろう。川辺に近い場所、そして木々が集まっている所にタープを広く張った。雨がピンと張ったタープに辺り、ボボボボボっと激しい音が鳴りやまない。


「よし、これでタープの下は雨に濡れない。テントも張ってしまおうか。未玖、アイちゃん、手伝ってくれ」

『はい!』


 2人はまだそれ程、仲がいい風には見えなかった。だが不思議な事に、息は合っている感じ。互いに協力してテントも、サッと設置し終えた。


「ふう、ありがとう二人供」

「はい、これ位楽勝です!」

「ゆきひろさん、次はどうしますか?」

「そうだなー。とりあえず、3人共結構雨に濡れてしまったからなー。焚火を熾して、服を乾かそうか」

「はい、それじゃ最上さんに薪をもらいに行ってきます」

「大丈夫、それなら俺が行ってくるから。未玖とアイちゃんは、今日はここで1日ゆっくりできるように、俺達のテーブルや椅子代わりになる石とかそういうのを見つけてくれ。その辺に落ちている雨に濡れた薪も、集めてタープの下に置いておけば夕方位には、乾くかもしれないし」

「はい、集めておきます」

「はーい、未玖ちゃんと頑張って集めまーす」


 未玖とアイちゃん、二人に任せて俺はまた雨の中、最上さんのテントへと歩いた。


 ううーー、もうこりゃビショビショだな。一緒にいるのが女の子二人でなく、翔太とかトモマサだったら、もう上半身は裸になって自由にやっていたかもしれないな。


「最上さーーん、いるーーー?」


 最上さんのテントまで来ると、彼の名を呼んだ。


「最上さーーん!! 薪をもらいに来たんだけどーー!!」


 テントの前に来ると、中を覗き込んだ。いないみたい……


 キョロキョロと周囲を見る。するとここから下に降りた所、川辺でまた釣りをしている最上さんの姿があった。しかもレインコートを着ている。あれ? その隣にも誰かいるな。


 あれは……


 誰がいるのかと思いながらも、最上さん達のいる川辺に近づいていく。すると向こうもこちらに気づいた。その顔を見ると、もうひとりは小貫さんだった。


 手を振ると、最上さんと小貫さんもこちらに手を振り返してくれた。


 まさか、雨の日にも釣りをしているなんて。流石は、自己紹介の時に趣味は釣りだってわざわざ名乗っただけの事はあるなと改めて思った。

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