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Phase.324 『最上』



 俺達の拠点を襲ったゾンビ共の死体……ゾンビの死体っていうのもなんか言っていておかしい感じもするけど、倒したゾンビは全て拠点の外へ運んで埋めた。


 森の中だから……そのうち埋めたものは、土や草木などの力で自然に返るだろう。そんな事を思った。


 だけど亡くなった陣内と成子だけは、草原地帯に埋めて墓を作ってやった。そして程なくして、大谷君やモンタ達皆が2人の墓にやってきて泣いた。


 陣内や成子は、俺や翔太、北上さんに大井さん……同じクランなのだから全員にとっても仲間だった。だけど大谷君達にとっては、もっと更に特別な仲間達だったのだろう。


 だけど仲間を失って、本当の意味で小貫さんのあの時の気持ちが解った。佐竹さん達を失って、悲痛に泣き叫び苦しんでいた小貫さんの気持ちが解る。


 だけど、俺はこんなでも一応このクランのリーダーだった。


 皆が、陣内と成子の墓の前に崩れ落ち泣いている間でも、またこの拠点にゾンビがやってくるかもしれないと、各エリアの外との境界線であるバリケードなどを見て回っていた。


 ウルフにゴブリン、コボルト、そしてゾンビ。またそいつらがここへやってくる可能性は、大きい。それにトロルも……


 トロルは俺は見ていないけれど、大谷君や市原達は見たと言っていた。話を聞く限りでは、俺が良く知っているゲームなどで登場するトロルに近い感じだった。


 だが、ゲームと現実(リアル)は違う。実際にあんなトロルみたいなのがいて、襲ってくれば大変な事になる。まず生身の人間じゃ、戦いようもないだろう。


 だからこの場所を守る為に、常時守りをしっかりと固めて、備えを万全にしておかなくてはならないと思った。


 拠点内の南エリアだけは、バリケードのチェックをしなかった。とても広いし、バリケードと言っても有刺鉄線が張っているだけのエリア。それにまだぜんぜん未開拓で、魔物が入り込んでいるかもしれないエリアだから。あそこのエリアは、また改めてメンバーを募ってやろうと思った。


 いや、でも最近あの南エリアで鈴森はいたりするんだっけ? 本当に変わった奴だなと思う。


 川エリアに来た。ここは、以前にゴブリンが攻めてきたり、でっかい蚊の魔物が襲い掛かってきた場所。


 川までやってくると、その川辺で釣りをしている人物がいた。もう真っ暗な夜だというのに、なぜか麦わら帽子をかぶっている。それで最上さんだと直ぐに気づいた。俺は、彼を見つけるなり直ぐにかけよった。


「最上さん!」

「あーー、椎名さん! こんばんは」

「こんばんは。また釣りですか?」

「うん、釣り。ばかあ、釣りが大好きで一番の趣味って言ってもいいからね。しかも異世界で釣りができるなんて、この上ない喜びだよ」

「あはは、確かに」


 最上さんの言葉を聞いて笑うと、彼も笑った。そして最上さんは、川に釣り糸を垂らしながらも声を落として言った。


「陣内君と、成子君は残念だった」

「ああ、残念だった」

「…………二人供、大谷君達とも仲が良かったから、つらいだろうなー」


 あいつらは、ちょくちょくこの川エリアにも着ていた。ここで魚やエビなんかをとったり、水を汲みに来るなんてのは度々だろう。だからここによくいる最上さんとは、よく顔も合わしている。


「きっとつらいよ。あいつらは、もともと市原達の仲間だった。最初はどうしようもない生意気なガキに見えてウザかった。大谷君達を虐めていたと知った上に、あの態度。何処かへさっさと行ってしまえばいいなんても思ったかな。でもあいつらは、とても良いやつらだった。仲間にもなれた」

「陣内君は、ここへ来てぼくに魚はいるかとか、色々顔を合わせる度に話しかけてきて……釣り竿も貸してくれっていうから、絶対壊さないでくれよって言って貸したかな。成子君は、他に小田君とか門田君とかと一緒にここにきて川で無邪気に遊んだり、水を汲んだりもしていたよ」

「…………」

「椎名君……この『異世界(アストリア)』は、いったいなんなんだろうね」

「それは、まだ俺には解らない。これから色々探っていこうと思っている。翔太や長野さん、北上さん達ともそういう話は続けているし」

「普通さあ。こういうぼくたちのイメージの異世界って、もう少し剣とか魔法とかあって、夢いっぱいな感じがするよね」

「まあそうだな。対してここは……俺にとっては夢いっぱいだけど、ちょっと幻想世界という割には、厳しさの方が目立つ世界だよな。上手く言えないけれど」

「うん。それに異世界では定番の魔物はいるけど、エルフやドワーフ、獣人といった定番の異世界人には1度も会っていないよね」


 それは、俺も思っているし、翔太や和希だってそんな事を言っていた。だけどよくよく考えてみれば俺達は、まだそれ程この拠点にすると決めた場所からは動いていない。


 外が危険すぎると知って、守りにばかり重視を置いているから。


「まあ、引き続き調査は続けてみるし、情報ももっと集めるよ」


 最上さんは、何かを思い出したというようにポンと手を叩いた。


「そうだ。パブリックエリアに行ったよ。未玖ちゃん達がお店をやってて、そこで色々注文して食べたんだ」

「そうなんだ、良かっただろ?」

「良かった。珈琲も美味しかったし、この世界でああいう、もとの世界の食べ物が食べられるとは思わなかった。それでね、色々食べて珈琲飲んでってしている時に、別の客が喋っていた話を聞いたんだよ」


 別の客。それが誰だか言わないっていう事は、知らない奴だからだろう。つまり、お客――俺達とは別の転移者の話。


「そうなんだ。それで、なにを喋っていたんだ?」

「この拠点から北へ行ったところに、大きな河が流れているらしい。その手前に、ぼくたちと別の転移者がここみたいな拠点を作っているらしいよ」


 そう言えば、市原達を仲間にして連れて行った尾形さん。あの人が、廃村を見つけて拠点にすると言っていた事を思い出した。


「そこへ行ってみれば、あっと驚く何か情報が手に入るかもしれないね」

「うーーん、確かに。ちょっと考えてみるよ」

「その時は、ぼくも行ってみようかなー」


 最上さんが調査になんて珍しいと思った。だけど、直ぐに気づく。北には大きな河……さては、釣りをしたいんだな。


 最上さんの顔を見ると、彼はニヤりと笑い魚を釣り上げた。

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