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Phase.322 『トイチと成子 その4』



 羊たちの住処エリア。広く、草木の生い茂る場所。


 俺と不死宮さんは、いつの間にかいなくなったトイチと成子を探す為に、大谷君のいる場所へと向かった。


 大谷君達は、この場所に自分達の落ち着ける場所を作っていた。モンタ達や、和希も最近はここにいるみたいだ。だから、大谷君やモンタ達と仲の良いトイチと成子は、ここに来ているだろうと思ったのだ。


 大谷君達の住処に近づいて行くと、森の中から誰かがこっちへ向かって歩いてきた。懐中電灯でその顔を照らしだす。


「大谷君か!!」

「椎名さん!! 丁度良かったです。今、あなたを呼びに行こうと思って……」


 その言葉でピンときた。


「もしかして、トイチと成子か?」


 大谷君は、驚いた顔をする。当たったか……嫌、そうでもない……そんな表情。


「違うのか? てっきりトイチと成子は、こっちに来ていると思ってけど」

「はい。十河君は、こっちに来ています。今、皆がいる焚火の近くにいます。でも成子君は会っていません」


 なっ!? 成子がいない!?


 不死宮さんと顔を合わせる。


「じゃあ私、成子君を探しにいくわ」

「ちょっと待って。その前にトイチの居場所は突き止めたんだ。一緒にトイチのいる場所へ行こう。そしてあいつを見てくれ」

「私は医者じゃないわ。それ程、力になれるとも思えない」

「ああ、でもこのクランの中では、一番そういうのに長けている。頼む、不死宮さん。トイチを見てやってほしい」

「…………そうね、見る位なら……できる。解ったわ。行きましょう」

「ありがとう。それじゃ、大谷君。トイチのもとへ案内してくれ」

「はい、こっちです」


 大谷君の後をついて行く。すると、森の中にテントがいくつもある場所についた。焚火も三ヵ所位あって、薄暗い中で煌々と暖かい光を放っている。


「トイチ!!」

「し、椎名さん……」


 トイチの姿を見つけた。


 焚火から少し離れた場所。石が積み重なっている横に、焚火用の薪が積み上げられている。トイチはそれを背もたれにして、座っていた。


 焚火の方には、和希やカイ、小早川君にモンタ、小田達みんな揃っている。確かにここは、大谷君達彼らにとってのいい住処のようだ。


 俺と不死宮さんは、直ぐにトイチに歩み寄ると、彼と話をする為に目前に座った。不死宮さんは、トイチの状態を見ている。


「すいません、椎名さん」

「どうして、勝手に……」

「お、俺……怖くなって……このまま自分が自分じゃなくなるのかなって怖くなって……」

「解っている。解っているよ、トイチ」

「椎名さん……」


 不死宮さんは、トイチに近づくと彼の額に触れた。そして脈を計ると、彼の服をまくって腹のあたりや背中を見た。


「どうかな、不死宮さん。トイチは大丈夫なのか?」

「……ええ、大丈夫」

「本当に!! 間違えない?」


 トイチは、俺と不死宮さんの顔を忙しく交互に見る。死宮さんの言葉を聞いて、本当に信じていいのかと困惑している。


「もう十河君がゾンビに襲われて、噛まれて二日程立っている。でも熱ももうないし、身体に変化も見られない。脈も正常。身体の調子はまだ本調子じゃないかもしれないけれど、もう回復はしていっていると思うわ」


 トイチが嬉しそうな顔をする。だけどまだ信じられないと言った。


「で、でも鬼灯さん!! 俺、ゾンビに噛まれたんスよ!! 歯形だって……」


 確かにトイチの身体に、歯形が残っていた。そう、ゾンビに噛まれた痕が……


「噛まれたとしても、噛まれていないと言えるわ。服の上、更にリストバンドの上から噛まれたから大丈夫だったのよ。そうでなければ、もうあなたは死んでしまってゾンビになって、望まない形で蘇っていると思うわ」

「そ、そうか……じゃあ、俺、助かったのか……」


 生きていいという喜び。トイチは、何度もその思いを、噛みしめているようだった。俺も同じ。トイチももう俺達のかけがえのない仲間なのだから。


「それで、成子はどうした? ここにいないとなると……トイチ、お前は見たんだろ?」

「ああ、成子は叫んでいた。一緒に小屋にいたけど、急に叫び出して小屋から出て言ったんだ。本来、それを俺は誰かに知らせなくちゃならないだろうし、追いかけなきゃなんなかったんだろうが……」


 トイチの肩をポンポンと叩く。


「俺も、自分が死ぬかも……ゾンビになって仲間を襲うかもしれないってなったら、心に余裕なんてなかったし、正常にものなど考えていられないと思う。なんにしても、あれからもう二日だ。これで何事も起きなければ、ゾンビには変わらない。大丈夫だ」


 遠巻きに話を聞いていた、大谷君やモンタ達も、トイチはもう大丈夫だと不死宮さんにもお墨付きをもらった事で歓喜の声をあげる。


「あとは、成子だな。不死宮さん、ついてきてくれ」

「ぼ、僕も一緒に行きます!」

「大谷君……」

「こっちのエリアには、成子君はいません。そしてスタートエリアにもいないとなると……未玖ちゃんが心配なので、急いでそっちへ向かって、そこから成子君を探しましょう」

「そうだな。解った。それじゃ、大谷君もついてきてくれ」


 大谷君が一緒についてきてくれるとなると、カイや小田、蟻群なども手をあげて一緒についてこようとした。だけど、向こうには翔太や鈴森、トモマサもいるので大丈夫だと言った。


 陣内は残念だった。トイチや成子も、ゾンビに噛まれているかもしれないし、ゾンビになってしまうかもと思った。仲間を失うのが怖かった。

 

 だけどトイチは、大丈夫。ゾンビにはならないし、これから徐々に元気を取り戻す。だから成子も死なないでくれと思った。

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