Phase.316 『定番オムライスカフェ』
――――お昼休み。
お決まりの美味しいオムライスと、珈琲もゆっくりと落ち着いて飲めるお店に来ていた。そういつもの通り、目の前には北上さんと大井さんが座り、テーブルを挟んで俺と翔太が並んで座る。
いつもなら陽気な話から斬り込んでくる翔太や北上さんも、肩を落として元気がない。理由も解る。
……陣内が死んだからだ。
それぞれが注文した色とりどりのオムライス。それがテーブルの上に運ばれてくると、俺から話した。
「やっぱりここのオムライスは、とても美味しそうだ。さあ、食べよう」
翔太が言った。
「ユキー。陣内の事なんだけどな……色々と考えてみたんだけど、やっぱり俺のせいなんだよ。俺のせいで、アイツは、死んだんだ」
「はあ? お前、何言ってんだ?」
「だってよ、あの陣内があそこでゾンビに襲われてやられちまった時、俺は近くにいたんだぜ。メリーん所で、メリー達とじゃれあって遊んでたんだよ。そこから陣内の襲われた場所は、とても近かった。俺が気づいてやるべきだったんだ」
「それは違うぞ、翔太。そんな事を言えば俺達全員に責任がある」
北上さんが続ける。
「そうだよ。皆、『異世界』にいる時点で、あの世界が危険である事は解っているはずだよ。だからと言って、誰も死なんて認めないし、死にたくもない。だけど覚悟はしていたはず……なんて言うにも、やっぱり酷だよね。陣内君は私達よりも若くて、まだ高校生だったんだから」
沈黙。
「と、兎に角、今俺達が考えなくてはならない事。もちろん陣内に対して、悲しみは当然の感情だと思う。だけど、まずもっとも重要な事は、ゾンビについてだと思う。佐竹さんのもとへ行ったあの時、佐竹さんの仲間の戸村さんはゾンビになっていて襲ってきた。陣内が襲われた時もそうだ。陣内達と同じ高校の奴らもいたけど、他の転移者もいた。おそらくゾンビは、これだけじゃないはずだ。きっとまた俺達の拠点にやってきて、人を襲う」
「うん、実は私もそう思う。でも今の所、目にしているゾンビは、私達の知っていた人を含めて皆転移者だったもんね。どうやって転移者がゾンビになったのか、それと私達がゾンビになる可能性もあるのだとしたら、どうやってなるのかって所も知りたいわね」
「ふーむ。確かに美幸ちゃんの言う通りだぜー。因みに映画とかじゃ、謎の研究所からウイルスがってパターンで、噛まれたりしたらなったよな。ファンタジーゲームじゃ、そういうのはなくて、その辺に敵として徘徊していて、ゾンビっていうアンデッド系の魔物だけど」
「噛まれるねえ……そう言えば、あの時は十河が腕を怪我していたっけ。噛まれたとか言っていたような気もするけど……まさかな……」
……また沈黙。俺と翔太と北上さんのゾンビについての話に、大井さんが我慢できないと言った感じで間に入る。
「ちょっと、ゾンビ話はここまで!! ランチの時にそういう話しをしていたら、美味しいものも美味しくなくなっちゃうでしょ。それに折角のオムライスが冷めちゃうよ。この辺で食べましょ」
大井さんに叱られて、俺達3人は申し訳ないと俯いた。確かに食事中というか、これからオムライスを食べる直前だった。食事の時に、ゾンビ話はよくないな。
「それじゃ、頂きまーす!」
『いただきまーーっす!!』
4人揃って手を合わせる。そして皆それぞれが注文したオムライスに、スプーンを入れて食べ始める。
ムグムグムグ……はあーー、やっぱ美味い!! ここのオムライスはやっぱ絶品だな。珈琲も美味いし――この店は、オムライスメインでやっている感じだけど、一応喫茶店なんだよなー。
店内の至る箇所に、表記されてある店名。そこにちゃんと入れられている、カフェという文字。
北上さんが、モグモグと美味しそうにオムライスを食べながらも話し始めた。
「そう言えば、海がね。この間、この高円寺でいいお店見つけたんだよ。イタリアンなんだけどね、美味しくて。今度、そこに行かない。明日とか」
北上さんのセリフに、翔太が笑う。
「アヒャヒャヒャ!! 美幸ちゃん、やっぱ可愛いだけじゃなくて面白いわ。今度そこ行こうっつって、それ間違いなく明日だもんな。ヒャヒャ」
翔太の口のまわりに白いものが……クリームオムライスを頼んだだろうけど、それをつけたまま笑うもんだから、余計にマヌケに見える。
「なーによー。今度って言った後に、明日行こうって言ってもよくなーい? そんな事言うなら、秋山君は今度ね。明日のランチは、海とユキ君誘って3人で行こうーーっと!」
「ちょ待てよ! ちょ待てよーー!! 俺も誘ってあげておくれよーーーう!! 悪かったからさーー!!」
北上さんに泣きつく翔太。それを見て俺と大井さんは、爆笑した。
食事が終わり、マスターの奥さんが「失礼します」と言って、オムライスのお皿を下げてくれた。ドリンクが目の前に置かれる。
「それじゃ、これからの事をちょっと話しておこうか」
3人とも頷く。
「とりあえず、ゾンビの話の続きで申し訳ないんだけど……きっとこの先また俺達の拠点に近づいてきたり、俺達に襲い掛かってくると思う。そうなると、ゴブリンやコボルトやウルフのように、これから対応策も考えておかないといけないと思う」
「じゃあ、拠点の防備だな。バリケードの強化とか」
翔太の意見に大井さんが続けた。
「まだ原因は解らないけど、あの突然草木が急成長して、拠点やその周辺も草木でおおわれてしまった件についても、早急に改善しないといけないよね。せめて拠点内やその周辺位は、それなりに見晴らしがよくないと、ゾンビや危険な魔物なんかが迫ってきていても、直ぐに気付けないものね」
「うん、その通りだね。でもそれについては成田さんや松倉君が、草木を除去してくれているし、バリケードも強化していってくれているから大丈夫だと思う」
翔太が思い出したように、ポンと手を叩いた。
「あれ、そう言えばゴブリンの巣に突入した時。良継がゴブリンに攫われて、その時にメリー達と一緒に助けた連中」
「それがどうした?」
「今、俺達の仲間になって拠点にいるんだよな。今、どうしているんだ?」
あれ? そう言えばそうだった。
仲間になって同じクランメンバーとするなら、何か協力してもらいたいし、そう言えばその後何をしているのか解らない。
拠点内にいるのは、間違いないと思うけど……
ふむ。ゾンビの事やゴブリンの事。色々とあるし、今日は『異世界』へ戻ったら一度全員を集めて、これからの事とか話しておいた方が良さそうだ。




