Phase.314 『泣き叫んだ夜 その2』
「うわあああああああ!!!!」
大谷君の泣き叫ぶ声。彼は、陣内のもとへ寄りそうと張り裂けそうな位に泣いた。
「椎名さん!!」
振り返ると、和希と成子がやってきていた。
「和希、直ぐに翔太を呼んできてくれ! 成子はこっちにきて、十河を見てやってくれ」
「解りました!」
「う、うっす!」
メリー達のいる場所に翔太はいる。和希は、そこへ一直線に入って行った。成子も、十河に駆け寄る。俺は大谷君のもとへ近寄ると、彼の腕を掴んだ。
「うわあああああ!! 陣内君!! 陣内君!!」
「もうよせ、大谷君!!」
「だって、だって……陣内君とは、折角友達になれたのに……そんな、こんな事なんて……」
「大谷君、ここは危ない。一旦、拠点の中へ入ろう」
「陣内君は、うちへ遊びにも来てくれた。友達だって、母さんにも紹介したのに……僕は次に母さんに陣内君の事を聞かれたら、なんて答えればいいんだ……うっ、うっ、こんな事……酷い……」
「駄目だ、大谷君。しっかりしろ!!」
「こんな時にしっかりなんてしていられない!! 友達が死んだんだあああ!!」
「落ち着け!! 俺だってつらい。陣内はもう俺達の仲間だった。クランメンバー、この『異世界』では家族みたいなものだ。だけど、落ち着いてくれ!!」
「そんなの無理ですよ……うう……」
「無理でも落ち着け。あまり声を荒げていると、余計に呼び寄せるぞ」
そういうと大谷君は、はっとした。キョロキョロと森の中――周囲を見回す。懐中電灯で照らすと、暗闇の中から何人も……いや、何体ものゾンビが姿を現した。
「ウ……オオオオオオ……」
「ひ、ひいい!!」
「一旦拠点へ入れ、大谷君!!」
「で、でもこのままじゃ、陣内君が食べられちゃう!!」
「解った! 十河、成子、大丈夫か⁉」
頷く二人。でも十河は腕を抑えている。血。出血しているのか?
「大谷君と十河は、陣内を拠点内へ急いで運び込め!! 成子は、俺についてこい!! ゾンビどもを食い止める!!」
『はいっ!!』
全員の返事が揃った。
大谷君は勢いよく立ち上がると、十河と一緒に陣内の両足を掴んで、拠点の方へ引きずった。
俺は成子に剣を手渡すと、銃を抜いてゾンビに向けて発砲した。この数だ。もう呼び寄せるなんて言ってられない。
狙う場所は、解っている。頭だ。頭を潰さない限り、こいつらはずっと襲ってくる。
ダンダンダンッ!!
ウガアアアアアア!!
「だああああ!!」
成子が、迫ってくるゾンビに斬りかかった。
「成子! 頭だ!! 頭を狙え!!」
頷く成子。目の前のゾンビの頭に剣を振り下ろす。血。倒れるゾンビ。その後ろから、更に2体。このまま任せていいのだろうか。
一瞬戸惑ったけれど、俺は俺の方へ向かってくるゾンビに向けて発砲を繰り返した。
ウガアアアアアア!!
ゾンビの動きは遅い。でも力は強そうだ。組み付かれないように、距離を保ちながら落ち着いて1体1体片付けていけば、大丈夫。拠点を背に戦えば、周囲を囲まれる心配もない。
暫く戦っていると、よく知っている声が聞こえた。
「ユキーーーー!!!! 大丈夫かああああ!!!!」
「翔太!!!! ゾンビだ!! あの、佐竹さん達の……あの時と同じだ!! 助けてくれ!!」
「よっしゃ、任せろ!!」
やっぱり、こんなおちゃらけた奴でも頼もしい。遅れてやってきたヒーローでも見るかのように翔太に目をやると、驚くべき光景が目に入った。
なんと翔太の後方には、槍を持ったメリー達ストレイシープの軍団が!!
メエエエエエエ!!
「かかれ、者供!! ゾンビを殲滅しろおおお!!」
翔太が率いる、メリー以下28匹のストレイシープ。まさにモコモコ軍団。それがゾンビ共に一斉に襲い掛かった。俺は同士討ちにならないように銃をしまうと、ナイフを抜いた。
残りのゾンビも圧倒し、10体以上いたゾンビを全て倒した。
メエエ!
「おお、よくやったなメリー。流石、俺の相棒だぜー。モコモコしてっし、お前は最高だなー」
メエ!
成子から剣を返してもらうと、翔太とメリーに駆けつけてくれたお礼を言った。更に何が起きたのかも、説明する。それから翔太と成子、更に駆けつけてくれたメリー達全員で倒したゾンビを調べた。翔太が首を傾げる。
「なんだこいつら。全員転移者なのか? それにしても不思議なのは、成子。お前らと同じ学生服を着ている奴が何人か混じっている。しかも見覚えのある顔だ。いったいどういう事だ?」
やはり翔太も気づいた。全員じゃないが、この学生服を着ている奴らは、成子達の知り合い。俺達もあった事がある。こいつらは、市原が連れてきた奴らでコボルト討伐の時に死んだ奴らだった。
成子が言った。
「陣内に噛みついた奴は、樫田って野郎ッス。そしてもう気づいているかもですけど、学生服の奴らは、市原に誘われてこの『異世界』へやってきた奴らで、コボルト討伐に椎名さん達と一緒に同行して、死んだ奴らッス」
「なるほど、よめてきた。つまり陣内は、バリケードの外にその樫田を見つけて外へ出た。彼が生還したと思って。それで襲われた訳か」
翔太がまた首を傾げた。
「しかし、見覚えのない奴らはなんだ? なんで皆ゾンビになっているんだ? しかも揃ってここへ集まってくるなんて……奇妙だな……」
「兎に角、一旦拠点の中へ入ろう。それから、今起きている事を整理してみよう」
「解った。よし、メリーさん達、全員中へ入るぞ!! ほら、成子お前もだ、急げー!!」
外は危険。拠点の中へと戻ろうとすると、いくつかの灯りが見えた。
鈴森か北上さん、それか長野さんやトモマサ。誰かが騒ぎを知って、応援に駆けつけてくれたのだと思った。




