Phase.313 『泣き叫んだ夜 その1』
誰かの叫び声が聞こえた。
何かあった!! 俺と大谷君と和希は、そこへ急行する。すると、声のした方に人影を見つけた。
「ひ、ひいいいい!!」
「誰だ!! 誰かいるのか!!」
「し、椎名さん!!」
「成子!!」
駆けると、大谷君と和希も彼に駆け寄った。血。成子の上半身には、べったりと血がついていた。
「どうした? 魔物に襲われたのか? 怪我は何処だ⁉」
「し、椎名さん、俺は大丈夫ッス。それより、十河と陣内が……」
そう言えばあの二人。あの二人は何処にいるんだ。見当たらないぞ。
きょろきょろと辺りを見回す。暗闇が広がっていて、良く解らない。成子が指をさす先を、大谷君が懐中電灯で照らした。すると、向こうで何かが動いていた。
「陣内……それに十河……もう一人いるのか⁉」
陣内達はなんと、有刺鉄線の向こう側――つまり拠点の外に出ていた。いったいなぜ、外に!! いや、それについては後だ。とりあえず、陣内と十河の救出の方が先だ。
怯えている成子を和希に任せると、俺は腰に吊っていた剣を抜いた。右手に剣、左手に懐中電灯。腰に差している銃も、しっかりある事を確認する。
「椎名さん、僕も一緒に」
「大谷君。それじゃ、俺の後ろからついてきてくれ。武器は持っているか?」
大谷君は、首を左右へ振る。俺は剣と同じく腰に吊っていた鉈を手に取ると、それを大谷君に手渡した。
「あ、ありがとうございます」
「無理はするなよ。もしもの時は、誰か呼んできてくれ。とりあえず、メリー達の所へ行けば、翔太もいると思う」
「わ、解りました」
大谷君に鉈を手渡すと、彼の腕が小刻みに震えているのが解った。気持ちはわかるよ。俺だって怖い。それに、大谷君は陣内達と仲良くなったみたいだし……もしも友達の身に何かあったらって思うとそうなる。俺にとっても陣内達は、もう同じクランのメンバー……つまり仲間なんだから。
「よしっ!! 行くぞ!!」
外の世界と拠点の境界、有刺鉄線をくぐって外に出る。大谷君と二人、懐中電灯で辺りを照らす。周囲は木々が生い茂っている。その一か所で、鮮血が飛び散る凄惨な場所があった。
男が一人倒れていて、その男に別の誰かが馬乗りになっている。更にもう一人、その手前で倒れている。
「う、うがああああ!!」
手前で倒れていた男は、自分の腕を抑えて呻いていた。十河だった。そして馬乗りになっている男。解らない。見た事がない男。しかしその目は、狂気を帯びていて黄ばんでいる。口からはダラダラとヨダレ……血だらけになっている。
「ウガガアアアアアア!!」
ムッシャムッシャムッシャ……
喰っている。狂気を帯びた目の男が、馬乗りにしている男を喰っていた。喰われている男の顔は、暗くて良く見えないうえに喰われて半壊していて、誰か解らない。だけど、それが誰なのか手前で倒れていた十河が言った。
「し、椎名さん!! 助けて、助けてくれええ!! じ、陣内が!! 陣内が!!」
こ、これは……これは……馬乗りになっている男、陣内や市原と同じ学生服の男。見た事があるような気がする。そしてその男に喰われている男はもしかして、陣内……?
そう思った次の瞬間、大谷君が叫んだ。
「うわああああ!!!!」
「大谷君!!」
振り返って彼を止めようとした。でもできなかった。大谷君は、俺をすり抜けて鉈を振りかぶると、陣内に馬乗りになっている男に対して突っ込んだ。そして男の肩に、思い切り鉈を振り下ろす。
ザコッ!!
「うわあああああ!!」
叫ぶ、大谷君。鉈は男の肩に深々とささった。けれど男は倒れない。肩に鉈が刺さっているのに、全く気にする様子もなく、両手を前に突き出して大谷君に襲い掛かる。
ちくしょー!! こうなったら、仕方ない!! 俺も突っ込んだ。
「くそう、くそう、くそう!! 陣内君!! 陣内君!!」
「うおあああああ!!」
ザクリッ
今度は大谷君が、男に押し倒された。そして男が大谷君の肩に噛みつこうとしたその瞬間、俺は男の胸に剣を深々と突き刺した。
手には人を刃物で貫いた、嫌な感覚。だけど考えるな。ここは日本じゃない。『異世界』だ。それにこいつは、陣内達と同じ学生服を着ているが人間じゃない。
佐竹さんの時と同じ。戸村さんがそうだった。こいつは、ゾンビ……
「ウガアアアアア!!」
胸を剣で貫かれても、まったく動揺する気配もなく、今度は俺を襲おうとして手を伸ばしてくる。男の歯と爪に目が釘付けになる。もしこいつがゾンビなら、噛みつかれるのは絶対に嫌だし、引っかかれるのも嫌だ。
「うううう……陣内君……陣内君……」
目の前でゾンビに喰われていたのが、陣内だったと知り、泣き叫ぶ大谷君。くそ!!
「ウウウウウウガアア……」
俺は目の前のゾンビに片足をかけると、思い切って剣を引き抜いた。そしてその剣を振りかぶって、ゾンビの首を刎ねた。手にはまた、嫌な感触がした。
ゾンビの頭は何処かに転がっていき、胴体は目の前で崩れた。よく見れば、身体の至る所が腐っている。
なんなんだ……いったいなんなんだ。この陣内や市原達と同じ学生服を着たゾンビが、なぜこんなところにいるんだ。そして、陣内や十河はなぜ拠点の外に出ているんだ。
「うわああああああああ!!!!」
虫の鳴き声が聞こえる、真っ暗な夜の森。大谷君の泣き叫ぶ声が、辺りに響き渡った。




