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Phase.312 『差し入れ』(▼椎名幸廣)



 羊の住処エリアに向かっていた。辺りに拡散する夜の闇。手には、辺りを照らす懐中電灯の他に、コーラやオレンジジュースやらの飲み物とお菓子。それと米とか肉とか野菜とか、食料品を抱え持っていた。


 持ちきれない分はザックに沢山詰め込み背負って、大谷君達のいる場所へと向かっていた。


 まあ、向かうって言ってもさっきまでいたパブリックエリアからは、草原エリアと森路エリアとスタートエリアという3つのエリアを挟むものの、同じ拠点内である訳だし大した事でもない。


 だけどここに自転車とかそういう楽できる移動手段があったら、もっと快適なのになーとも思う。って言っても、何処もかしこも草やら石やらあって悪路だし、舗装しないととても自転車なんかでまともに走れもしないだろうけど。


 スタートエリアの西側。そこにつくと、境界を跨いで、大谷君達が作った羊の住処エリアへと入った。


 また暫く歩いていると、森の中――何か鳴き声みたいなのが聞こえてくる。


 メエエ!


 メエエエエ!


 メエー!


「メリー達か。確か、このエリアの丁度真ん中位の場所に、メリー達ストレイシープの住む場所を作ってあげたんだっけ。って事はこれは、奴らが宴でもしている声か。よし、大谷君達の様子を見たら、メリー達の所もちょっと行って様子を見てやろうかな」

「ワハハハ!! 最高じゃねーか、もっと触らせてくれよ!! うおおお、すげー気持ちいいなああ!! 逃げるなってお前ら、俺にもっと癒しをくれよおおーーん!!」


 嘘だろ。翔太のでかい声が、メリー達の住処がある場所から聞こえてきた。あいつも、ここに来てやがったのかー。あいつめー。


 あいつめって言っても、拠点内の移動は基本的に自由なんだけどな。でもさっき聞こえた鳴き声は、メリー達の悲鳴だった。


 あいつ絶対、メリー達が可愛いし肌触りがいいから、追いかけまわして撫でくり回してはセクハラ大会を開催しているに違いない。


 魔物相手にセクハラ……でもあのメリー達のモコモコ具合を思い出すと、無理もないかとも思う。


 そんなアホな考えを巡らしていると、大谷君達のいる場所に辿り着いた。そこには、大谷君達の他に和希、更にモンタやら不良軍団も集まっていた。


 ……これは意外。本当に、大谷君達とモンタ達は友達になったんだな。いい事だ。


 俺の登場を最初に気づいたモンタが、声をあげる。


「ああ! リーダー!! 来てくれたんスか!!」

「おお、来たぞ。そして差し入れだ。もう手が千切れそうだから、早く受け取ってくれ」

『おおおおおお!!』


 差し入れを皆喜んでくれる。そして蟻群と小早川君が、こっちにきて受け取ってくれた。


「あざっす、椎名さん!!」

「感謝感激、ありがとうございまするうう!!」

「仲良く皆で食べてくれ」


 全員が俺の方を向いて、頭を下げてくれた。するとなんだか急に照れ臭くなってしまって、困ってしまった。


 とりあえず、届けるものも届けたし、メリーの所にいって翔太を回収して、またパブリックエリアの方にでも戻るかな。


 そう思った所で、ある事に気づく。


「あれ? そう言えば全員揃っている訳じゃないんだな? 陣内とか他の者は、何処だ? まだ来てないとか……」


 そうだ。トイレに行っているのかもしれない。だけど、何か気になった。俺のいつもの第六感。それがざわついていた。

 

 焚火の前に座っていた大谷君が、立ち上がって言った。


「陣内君は、ちょっと用を足しに。十河君の話では、その後にちょっと黄昏ているみたいで」

「た、黄昏る……え? 何処で?」

「このエリア内には、いますが……ちょっと帰りが遅いなと思って……それで、その場所を知っている十河君と、成子君が彼を呼びに行っていまして」

「でも、結構時間が経つ……」

「はい、あれから1時間は経っていると思います。拠点内ですし、ミイラ取りがミイラじゃないですけど、呼びに行った十河君と成子君も含めて、3人で盛り上がっているのかなとかも思いました。でもやっぱりちょっと心配になってきたので、これから様子を見に行ってみようかなとか思って」


 やっぱり変な胸騒ぎがする。こういう時の嫌な方の感って、凄くよく当たるんだよな。


「解った。それじゃ、俺がちょっと見に行ってくる」

「それなら、僕も一緒に行きます」

「俺も!!」

「自分も!!」


 全員が声をあげる。心配なのはわかるけど、まだ何か起きた訳でもないし、ぞろぞろと様子を見に行くのもな。これで本当に何もなければ、そんなところに全員で現れれば陣内達の方が、何かあったのかって腰を抜かすぞ。


 それにここはまだ拠点にしたばかりの場所だし、用心をする上でも誰かここにはいて欲しい。


「大丈夫だ。何かあったら呼ぶから、とりあえずは皆ここにいてくれ」

「そんな」

「解った、それじゃ大谷君。君だけついてきてくれ」

「はい、解りました」


 大谷君は振りかえって、有明君と小早川君の顔を見た。二人とも、行ってらっしゃいと軽く手をあげる。


「椎名さん、僕も」

「和希。ここにいてくれた方がいいんだけど」

「でも大谷先輩は、椎名さんにお供するんですよね。僕も一緒に行きますよ。どうせ、拠点内の移動ですし、いいでしょ?」


 確かにここまで言うなら、連れていかない理由もないか。他の皆はここで待っていてもらうし。


 そういう訳で、俺は大谷君と和希を連れて、いつまで経っても戻ってこない陣内達を探しに向かった。

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