Phase.306 『帰宅』
「それじゃ、小早川君、カイ! 後でまた向こうで会おう!」
「承知!! それでは、また後で会おうぞ!」
「了解でござる。それじゃ、後ほど!」
学校が終わり、帰路につく。
僕は仲の良い二人と別れると、市原達に出くわさないようにキョロキョロとしながら家路を急いだ。すると唐突に、誰かの気配を感じた。そこにいた単なる通行人とか、そういうのじゃない。こちらを見られている気配。
もしかして市原か。それとも池田か山尻か――僕は恐怖して、自然と早歩きになる。すると後ろから、激しい足音が聞こえてきた。
「ひ、ひいいい!!」
慌てて走り去ろうと試みるも、肩を掴まれる。どうしよう!! きっと教室での仕返しだ。そう思って振り返る。
「よお、大谷」
振り返るとそこにいたのは、市原達でなく陣内君だった。
「あれ? 陣内君」
「どうして逃げようとしたんだよ」
「え? あ、その……」
「はっはー。さては、俺の事を市原と思ったなー」
「え? ううん。そ、そんな事……」
陣内君は、ニカっと笑って僕の肩に腕を回してきた。
「大丈夫だって! 市原なんてあんな奴、本当は気の小さな奴だし、大した事ねえ。弱い犬程って言葉があんだろ」
「いや、でも……」
「おい、ビビんなよ。俺達、もう仲間だろ? 今までの事を考えたら、俺達がお前らにビビられる理由も解る。けど、もう謝ったろ? それに俺達は、本当にお前らを仲間だと思っているんだ。これまでの事は悪かったよ。だから許してよ、そして心を開いてくれよー。なあ」
「そ、そんな……僕達だって、陣内君達の事はもう親友だと思っているよ。椎名さんもそうだし、美幸さん達だってそうだけど、僕らは仲間だよ」
「そ、そうか。そう思ってくれているなら嬉しいけどなー。こっちの世界じゃ、俺達だってそれなりに力あるからよ。市原達に何かされそうになったら、俺達のもとへ逃げて来いよ。絶対、助けてやる」
「ぼ、僕も戦う。そうなったら、陣内君達と一緒に戦う」
陣内君は、驚いた顔をした。そして僕の頭を優しく叩いた。
「なんだよ、さっき俺を市原だと思って逃げようとした癖によー!!」
「そ、そんな……だって!」
戸惑っちゃ駄目だと思うと、余計に慌ててしまう。すると陣内君は余計に僕をからかった。でもなんていうのか、嫌じゃない。陣内君達は、僕の事を本心から仲間だと思ってくれているから。
二人だけになっても、陣内君は僕に対して好意的に接してくれる。それどころか、きっと彼は、僕が家へ帰る途中に市原達に待ち伏せされてからまれるんじゃないかって心配して追いかけてきてくれたんだ。
だって陣内君の家はこっちじゃないと思うし……
「じ、陣内君も今日はこの後『異世界』に来るよね」
「もちろん、行くぜ。あんな経験、他じゃできないしな。すっかり、ドハマってんぜ」
「そう言えば椎名さんと話をして、メリー達の住処を作ったんだけど」
「知っているよ。昨日、行ったからな」
「スタートエリアの西側、羊たちの住処エリアって名付けた区域なんだけど、とても広いんだ」
「草原エリアと南のエリアは、かなり広めみたいだけど、メリー達のエリアもでかいんだな」
「うん。それで、暫く僕と小早川とカイ、あと和希でそこに住んで色々とやろうかなって」
キョトンとする陣内君。
「色々とやるって、何を色々するんだ?」
「まだ決めてないけれど、拠点の中に僕らの拠点を作るっていうか……僕達の居場所っていうか、そういう場所を作ろうかなって。既にそれも、椎名さんにも承諾してもらっているし」
「いいじゃねーか。面白そうだし」
「それで、良かったらなんだけど、陣内君達も僕らと一緒に、羊の住処エリアでテントとか荷物を移動させて、一緒に暮らさないかな? 陣内君達が傍にいてくれたら、凄く頼りになるし……一応拠点内ではあるけれど、羊の住処エリアはまだできたばかりだし、周囲を囲っているのもバリケードとかではなく有刺鉄線とかワイヤーだけだし……僕らだけじゃ不安だし、皆一緒なら凄く楽しいかなって」
陣内君はまたキョトンとした。そして今度は加減をせずに、僕の背中をバンバンと数回叩いた。い、痛い!!
「おおおお!! いいじゃねーか、それすげーいいじゃねーかよ!! もちろんだ、俺達もそっちへ移動するよ!! そうだな、モンタ達全員また今日も行くって言っていたし、今日これからあっちへ行ったら、全員で移動するわ。それでもいいだろ?」
「やった、待ってるよ!」
「よーし、そうと決まれば、今日はこのままお前んちにお邪魔するわ!」
「え⁉」
「時間がもったえないからよ。このまま一緒にお前んちに帰宅して、そのまま一緒に『異世界』へ転移しよーぜ。それならもしもこの後帰宅するまでに市原が待ち伏せていても、俺が逆にやっつけてやれるしな」
「え? 陣内君ってそんなに強いの?」
「バカ、皆それなりに強いって。市原は逆にイキってるだけだからよ。たまにプチンってキレてなにすっか解らん時があるけど、それ以外は怖かねーよ」
「そ、そうなんだ」
陣内君の事は、信頼し始めていた。それに僕の事を、本気で助けてくれようとしているのも解っている。だけど、小早川やカイ……いや、今まで友達なんていなかったから、誰かを家に連れてくる事なんてなかったのに……
どうしようと戸惑っていると、家についてしまった。
「それじゃ、お邪魔しまーっす!」
「あら、お帰りなさ……」
陣内君は、もう僕の大切な仲間。だけどその見た目は、何処から見ても不良そのものだった。髪型も髪色も――
僕と一緒に家に入り、靴を脱いで僕の部屋のある二階へ。その前に玄関で出くわした母さんは、今まで一人も友達を連れてきた事がない僕の友人、陣内君を見て固まってしまったのは言うまでもない。
「ちゅっす、陣内ッス! 大谷君とはマブダチッス! それじゃ、お邪魔シマーーッス! 大谷、お前の部屋は二階か?」
「え? あ、うん、そうだよ」
陣内君は靴を脱いだ。案内するまでもなく、ズカズカと自分の家のように二階へ上がっていく。
「よ、良継!! あ、あの陣内君って……」
「大丈夫だよ、母さん。陣内君は、あんな感じだけど、とても優しくて友達思いなんだよ。僕の親友なんだ」
「し、親友……」
驚く母さんを横目にしながら二階にあがって、陣内君を僕の部屋へと案内した。




