表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
305/470

Phase.305 『仲間 その2』



「おはよーさん、大谷。それに小早川、有明」


 僕は驚いた。彼らがこの場に現れて、僕らの名を優しく呼んでくれるなんて、夢にも思わなかった。仲良くなったとは思っていたけれど、この世界では……正直思ってもいなかった。


「小田君、門田君、十河君、陣内君、茂山君、成子君、蟻群君!!」


 市原と一緒に『異世界』へ転移してきた、市原の仲間だった者達。今は僕らと同じクランのメンバーで、仲間……


 小早川とカイも、小田君達の登場に顔を引きつらせている。


「そこは、皆!! っでいいだろが、大谷。律儀に全員の名前呼ぶなよ、変だぞ!」

「え? ああ、そうだね。ごめん、なんか驚いちゃって」


 小田君が笑いながら言ったので、僕も笑って応えた。


 でも市原は、怒りの形相で小田君達を睨んだ。


「おい、てめーら! どういうつもりだ? もしかして、俺達の邪魔してんじゃねーだろーな? 見て解るよな、取り込み中だ!」


 今度は十河君が前に出る。


「察しがいいじゃねーか、市原。俺達は邪魔してんだよ」

「ああ? なんだと? い、いてええ!!」


 凄んできた山尻の胸を、ドンと蟻群君が押した。そして小田君が睨み返す。


「市原!! 言っておくが、俺達はもうおまえらとつるまねー。これからは、こいつらとつるむんだ。だからこいつらに、手を出すな。どうしても出すんなら、戦争だ!」


 せ、戦争!?


 さっき勇敢にも登場した小早川とカイは、小田君達の迫力と戦争というワードを聞いて、すっかり小さくなってしまっていた。だけどとても強い小田君達の登場と、なんだか安心させてくれる小早川とカイの存在に僕は、凄まじく救われている。


 門田君は僕の肩に手を伸ばすと、市原達の方を向いて言った。


「それで、どうするんスか? このまま戦争するなら、申し訳ないッスけど遠慮なくやるッスよ。そしたら10対3になるッスからね。そうなったら、容赦はしないッス」


 10対3って……門田君達は7人だから、僕らもカウントされている。門田君達は、もう僕達の事を大切な仲間と思ってくれているんだ。なのに僕は……


 門田君達の事を、まだ心のどこかで怖れていた僕は、彼らにとても申し訳ない気持ちになった。昨日、一緒に焚火を囲んで食事をして語らったのに……ごめん、皆。


 僕は今、門田君達にとても申し訳なかった気持ちと、助けてくれた感謝の気持ちで胸が張り裂けそうになっていた。もう市原の事なんて、どうでもいい。


「てめーら、覚えていろよ。裏切り者が」


 市原達はそう言って唾を吐くと、教室から出て言った。陣内君が笑う。


「裏切ものがって、あいつ自分が見限られた事に気づいてねーのか? 悲しい奴だな」

「なんにしても、間に合ってよかった。これからは、休憩時間とか昼飯とか一緒に行動しようぜ。向こうの世界の事も話したいし」


 僕は何度も言った。


「ありがとう、ありがとう!! 皆、ありがとう!!」

「おい、やめろって。他の奴らが見ているし、なんか気持ち悪いだろ。それより懸賞金のかかった魔物の話を後でしようぜ」

「け、懸賞金のかかった魔物の話?」


 カイが僕の肩を肘でつついた。


「バウンティサービスでござるよ。皆、きっと懸賞金を狙っているのでござる」


 この間、椎名さんが仕留めたコボルトのボスは1匹で50万の奴がいた。なるほど、皆お金が欲しいから……


「でも懸賞金で稼いでも、そのお金ってクランに入れないといけないよね。椎名さんが、僕らの会費もクランから払ってくれるって言っているし。それに討伐をするなら、事前に椎名さんに計画を話さないと……」


 門田君が飛び跳ねる。


「そんなの解ってるッス! 要は、俺達それでバンバン金を稼いで、クランに恩返ししたいっていう事ッス」


 門田君の言葉にカイが続けた。


「なるほど。それで、沢山懸賞金を稼いでクランに貢献すれば、そこから少しはご褒美がもらえるかもしれないので、それに期待しようっていう計画でござるね」


 どう見ても、芯を突かれたという顔の門田君。どうやら、図星だったみたい。だけど椎名さんだったら、きっと門田君が思っているようにしてくれるはず。あの人はとてもしっかりしているし、物凄く優しい人だから。


「それじゃ、また休み時間になー」

「じゃーー」


 暫くして先生が教室に入ってきた。だけど市原達は、授業を放り出したまま戻ってはこなかった。






 ――――昼休み。校舎の屋上。


 僕達10人はそこに集まって、お昼ご飯を仲良く食べていた。


 どう見てもオタクに見える僕ら3人と、同じくどう見たって不良に見える小田君達7人。傍から見たら、凄く変な組み合わせに思われるかもしれない。だけど今僕達は、同じクランメンバーで助け合う仲間でもある。


 こういう関係になれたのも、椎名さんのお陰。そして付け加えるなら、『異世界(アストリア)』の力でもあると思っている。


 『異世界(アストリア)』は、見渡す限り大自然が広がっていて様々な動物、そして魔物が徘徊している。危険な場所だって多くある。


 そこでお互いに協力しているからこそ、信頼関係が生まれる仲にもなれたのだろうと思う。


 門田君が僕の食べていたお弁当を、横から覗き込んできた。


「うまそーーッスねえ! これ、大谷の母ちゃんが作ってくれたんスか?」

「う、うん。母さんが作ってくれた」

「美味そうッスー。うちなんか、オニババッスよ。弁当も作ってくれないし、いつもパンッスよー。そのタコさんウインナー、めっちゃ美味そうッスよー」

「そ、そう。じゃあ、一つ食べる?」

「えええ!! いいんスかー!? それじゃ、あーーーん」


 門田君は口を大きく開けて、僕に迫ってきた。それを見ていた小田君と陣内君は、大笑いした。


「キモイって、モンタ!!」

「おめーら、カップルかよ! あはははは」


 笑われているけど、なんていうか嬉しい感じ。


 気が付くと、僕だけでなく小早川もカイも、大笑いしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ