Phase.305 『仲間 その2』
「おはよーさん、大谷。それに小早川、有明」
僕は驚いた。彼らがこの場に現れて、僕らの名を優しく呼んでくれるなんて、夢にも思わなかった。仲良くなったとは思っていたけれど、この世界では……正直思ってもいなかった。
「小田君、門田君、十河君、陣内君、茂山君、成子君、蟻群君!!」
市原と一緒に『異世界』へ転移してきた、市原の仲間だった者達。今は僕らと同じクランのメンバーで、仲間……
小早川とカイも、小田君達の登場に顔を引きつらせている。
「そこは、皆!! っでいいだろが、大谷。律儀に全員の名前呼ぶなよ、変だぞ!」
「え? ああ、そうだね。ごめん、なんか驚いちゃって」
小田君が笑いながら言ったので、僕も笑って応えた。
でも市原は、怒りの形相で小田君達を睨んだ。
「おい、てめーら! どういうつもりだ? もしかして、俺達の邪魔してんじゃねーだろーな? 見て解るよな、取り込み中だ!」
今度は十河君が前に出る。
「察しがいいじゃねーか、市原。俺達は邪魔してんだよ」
「ああ? なんだと? い、いてええ!!」
凄んできた山尻の胸を、ドンと蟻群君が押した。そして小田君が睨み返す。
「市原!! 言っておくが、俺達はもうおまえらとつるまねー。これからは、こいつらとつるむんだ。だからこいつらに、手を出すな。どうしても出すんなら、戦争だ!」
せ、戦争!?
さっき勇敢にも登場した小早川とカイは、小田君達の迫力と戦争というワードを聞いて、すっかり小さくなってしまっていた。だけどとても強い小田君達の登場と、なんだか安心させてくれる小早川とカイの存在に僕は、凄まじく救われている。
門田君は僕の肩に手を伸ばすと、市原達の方を向いて言った。
「それで、どうするんスか? このまま戦争するなら、申し訳ないッスけど遠慮なくやるッスよ。そしたら10対3になるッスからね。そうなったら、容赦はしないッス」
10対3って……門田君達は7人だから、僕らもカウントされている。門田君達は、もう僕達の事を大切な仲間と思ってくれているんだ。なのに僕は……
門田君達の事を、まだ心のどこかで怖れていた僕は、彼らにとても申し訳ない気持ちになった。昨日、一緒に焚火を囲んで食事をして語らったのに……ごめん、皆。
僕は今、門田君達にとても申し訳なかった気持ちと、助けてくれた感謝の気持ちで胸が張り裂けそうになっていた。もう市原の事なんて、どうでもいい。
「てめーら、覚えていろよ。裏切り者が」
市原達はそう言って唾を吐くと、教室から出て言った。陣内君が笑う。
「裏切ものがって、あいつ自分が見限られた事に気づいてねーのか? 悲しい奴だな」
「なんにしても、間に合ってよかった。これからは、休憩時間とか昼飯とか一緒に行動しようぜ。向こうの世界の事も話したいし」
僕は何度も言った。
「ありがとう、ありがとう!! 皆、ありがとう!!」
「おい、やめろって。他の奴らが見ているし、なんか気持ち悪いだろ。それより懸賞金のかかった魔物の話を後でしようぜ」
「け、懸賞金のかかった魔物の話?」
カイが僕の肩を肘でつついた。
「バウンティサービスでござるよ。皆、きっと懸賞金を狙っているのでござる」
この間、椎名さんが仕留めたコボルトのボスは1匹で50万の奴がいた。なるほど、皆お金が欲しいから……
「でも懸賞金で稼いでも、そのお金ってクランに入れないといけないよね。椎名さんが、僕らの会費もクランから払ってくれるって言っているし。それに討伐をするなら、事前に椎名さんに計画を話さないと……」
門田君が飛び跳ねる。
「そんなの解ってるッス! 要は、俺達それでバンバン金を稼いで、クランに恩返ししたいっていう事ッス」
門田君の言葉にカイが続けた。
「なるほど。それで、沢山懸賞金を稼いでクランに貢献すれば、そこから少しはご褒美がもらえるかもしれないので、それに期待しようっていう計画でござるね」
どう見ても、芯を突かれたという顔の門田君。どうやら、図星だったみたい。だけど椎名さんだったら、きっと門田君が思っているようにしてくれるはず。あの人はとてもしっかりしているし、物凄く優しい人だから。
「それじゃ、また休み時間になー」
「じゃーー」
暫くして先生が教室に入ってきた。だけど市原達は、授業を放り出したまま戻ってはこなかった。
――――昼休み。校舎の屋上。
僕達10人はそこに集まって、お昼ご飯を仲良く食べていた。
どう見てもオタクに見える僕ら3人と、同じくどう見たって不良に見える小田君達7人。傍から見たら、凄く変な組み合わせに思われるかもしれない。だけど今僕達は、同じクランメンバーで助け合う仲間でもある。
こういう関係になれたのも、椎名さんのお陰。そして付け加えるなら、『異世界』の力でもあると思っている。
『異世界』は、見渡す限り大自然が広がっていて様々な動物、そして魔物が徘徊している。危険な場所だって多くある。
そこでお互いに協力しているからこそ、信頼関係が生まれる仲にもなれたのだろうと思う。
門田君が僕の食べていたお弁当を、横から覗き込んできた。
「うまそーーッスねえ! これ、大谷の母ちゃんが作ってくれたんスか?」
「う、うん。母さんが作ってくれた」
「美味そうッスー。うちなんか、オニババッスよ。弁当も作ってくれないし、いつもパンッスよー。そのタコさんウインナー、めっちゃ美味そうッスよー」
「そ、そう。じゃあ、一つ食べる?」
「えええ!! いいんスかー!? それじゃ、あーーーん」
門田君は口を大きく開けて、僕に迫ってきた。それを見ていた小田君と陣内君は、大笑いした。
「キモイって、モンタ!!」
「おめーら、カップルかよ! あはははは」
笑われているけど、なんていうか嬉しい感じ。
気が付くと、僕だけでなく小早川もカイも、大笑いしていた。




