Phase.304 『仲間 その1』
――――月曜日。
早朝に僕達は、椎名さんに一言告げてもとの世界へと戻った。因みに椎名さんも会社に出勤しなければならないので、同じだと言って笑っていた。
帰宅するとまずシャワーを浴びた。気持ちいい――
そう言えば、小早川が言っていた。スタートエリアの方で翔太さんや成田さん、それに団頃坂さんが風呂場を作っているって。
記憶を掘り起こしてみると、大きなタープが張られていて、ボードなどで目隠しされている場所はあった。そしてそこにいくつかのドラム缶が並んであったのを思い出す。
「ドラム缶風呂か……あんな場所で入ったら、きっと気持ちいいだろうな」
シャーーーーーー
シャワーを浴びながらも呟く。できれば小早川やカイ、和希とも一緒に入れる温泉みたいなものもできればきっと楽しい。だけどそんなの作るとなると、きっと物凄く大がかりになるだろう。
風呂場から出ると、身体を拭いて学生服に着替えた。
母さんが用意してくれた朝食を食べると、家を出て学校へ向かった。
「良継。今日はどうするの?」
「え? あ、うん。今日も……っていうか、暫くは、ずっと夜はいないよ」
「キャンプ?」
「うん。でも小早川君や有明君も一緒だし、他にも友達がいるから大丈夫だよ」
「でもお金、いるでしょ?」
「キャンプだから、食料品とかそういうものの方がありがたいかな」
そう言うと、母さんは微笑んでくれた。今の言葉で、完全にキャンプに行っているのだと確信を得たみたい。
僕らが入り浸っている場所は、『異世界』。この世界とは違う異世界なんだ。でもそれは、母さんには言えないし、キャンプというのもあながち完全に嘘をついてもいないと思った。
「そういう訳で帰宅したら、また直ぐに出ていくから。それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
学校に向かった。
ちょくちょく登校拒否をしていた僕が、こうして本来よりも早めに学校に行く事があるなんて……とても不思議だ。それもこれも『異世界』や椎名さん、そして小早川やカイのお陰。ミケさんにも対してもお礼を言い尽くせない。
学校近くの道で、小早川とカイと出くわす。互いに挨拶して、一緒に登校するとそれぞれ教室に入った。すると僕の事を待ってましたとばかりに、市原が待ち構えていた。隣には、池田と山尻もいる。
「おう」
「…………」
無言で着席すると、市原に机を蹴られた。その光景を見て笑っている、池田と山尻。
「シカトすんなよ、ボコボコにするぞ! おい、こら!」
「シ、シカトしてないよ」
「うるせー、てめー! そういや、ボコボコにしてやるって言ったよな。俺がそう言ったの、覚えているか?」
今度は胸倉を掴まれた。そして無理やり席から立たされると、市原は問答無用で腕を振りかぶってきた。僕は殴られると思って目を瞑った。笑い声。目を開くと市原は、僕の顔近くで拳を止めていた。
「バーーカ、この腰抜け野郎が」
「くっ……」
「なんだ、なんか文句あるのか? 解ってると思うが、これで終わりじゃねーからな。お前は俺に30万払わなきゃならねーし、ボコボコにしてやるって言ったしな」
「そ、そんな! 30万って……そんな事言ってない!! それに僕は、お金を払わない!!」
「ああーー、なんだって? まあいいや。それなら死んだ方がいいって思う位に虐めてやるから」
市原達に囲まれて、睨みつけられる。だけど僕はもう、嫌な事は嫌だって言うって決めたんだ。
池田が市原に囁いた。
「おい市原。もう少しでセンコウが来るぜ。こいつ、向こうに連れて行って、そこでシメあげようぜ。その方がゆっくりやれっだろ」
「おお、そうだな。そうしようぜ」
「や、やめて!」
市原達は僕の腕を掴んで引っ張った。抗えない。なんとか脱出してまた逃げえて、『異世界』に逃げ込めば……いや、駄目だ。市原達にも、もうバレている。こいつらも、転移できるんだから、僕が転移して逃げてもそこへ追ってくる。そう、この3人ももう転移者なんだ。
「や、やめてよ! やめて!!」
「うっせーな、こいよ!!」
「こっちこいや!!」
教室には、他にも生徒がいる。だけど市原達を怖がって、僕がやられているのを遠巻きに見ているだけ。誰も助けてはくれない。自分でなんとかしないと。
そう思った刹那、教室に誰かが勢いよく入ってきた。
「殿中!! 殿中でござるううう!!」
「我を召喚せし勇者よ、我が降臨したからには、もはや無法者達の好きにはさせん!!」
カイと小早川!! 思わず泣きそうになってしまった。もちろん、つらくてじゃなくて嬉しい涙。でも我慢。
「なんだ、お前ら!! 太っちょ二匹がなんのようだ!!」
「有明と小早川か。いいじゃねえか、こいつらも一緒に虐めてやろうぜ」
山尻が二人に腕を伸ばすと、なんとその手を小早川が振り払った。
「ワチョーーーー!! かかってこい、無法者共!! こうなったら、我の暗黒の力、解放させん!!」
「舐めやがって、こいつら、ぶっ殺してやる!!」
「ヒイイイ! や、やっぱり怖い!!」
「こうなったら全力で抵抗するでござるよ!! 良継殿!! これは正当なる防衛というものでござる!! 胸を張って戦うでござるよ!! 怖くなんてない、だって拙者ら3人合わされば最強でござるからして!!」
「う、うん!!」
山尻を押し飛ばし、僕は市原達から逃れて小早川とカイのもとへと移動する。でも逃げない。振り返って市原達と向かい合った。
「て、てんめーー!! 殺されたいのか!!」
「ど、どっちにしても僕の事を虐めるんでしょ。それなら抵抗する!」
「我もだ!!」
「3対3でござるして、こちらが降伏する理由はないでござる」
「我もそう思う!!」
市原のキレる音がした。
市原は、近くにあった誰かの机を思い切り蹴り飛ばすと、椅子を両手で掴んでそれで僕達を殴りつけようとした。でもそうしようとした瞬間、また教室にドカドカと何人もの生徒が入ってきた。
僕も市原も、その入ってきた生徒たちを見て固まってしまった。彼らの登場を、僕らも市原達も微塵も予想できなかったから。




