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Phase.03 『アプリ』



 本当に異世界からやってきたメイドのようだった。それ程、綺麗で整った顔立ち。俺はその顔を直視する事ができなかった。そう、ありていに言えば照れているのだ。


「こちらにおかけ下さい」

「は、はい、どうも」


 メイドさんは、一番近くの丸テーブルの椅子を指してそう言った。それに座ると、メイドさんが俺の目の前に座った。胸がドキドキと鼓動している。


「それでは、お客様。早速ですがご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 この店にいる他のニャンニャン言葉の従業員に、道端でもらったビラをテーブルに置いた。


「これを見てきたんですけど……」

「まあ、そうだったのですか。それでは、お客様は異世界への転移をご希望ですか?」

「て、転移するって異世界ですよね。もしかして、このビルの他の階にあったりするんですか?」


 そう聞くと、メイドさんはにこりと微笑んだ。


「いいえ。異世界は、異世界ですよ。この世界とは、別の世界の事です」


 なるほど……あくまでもそういうスタイルという事か。でも、メイドカフェだってちゃんと設定があって、メイドになりきって客を楽しませてくれる。そう思えば、別に不思議ではなかった。しかも秋葉原だし。


 まあ、ここまで来たら乗ってみる事にした。当たりでもハズレでもネタになりそうだしな。


「な、なるほど。そ、それじゃその異世界へちょっと行ってみたいです。それと……」


 こういうのは、先に聞いておいた方があとでびっくりしないで済むし、トラブルも回避できる。


「料金なんですが、先に聞いておいていいですか?」

「ええ、かしこまりました。それでは、お客様はどの程度、異世界でお過ごししたいと思っておられますか? どのような異世界へ行ってみたいとお考えですか?」


 それで、料金が決まるのか。


「えっと、それじゃ直ぐ行って直ぐ帰ってこれるような所がいいな。それと、テンプレートかもしれないけれど剣や魔法がある世界がいいな。魔物と戦いたい。ファンタジー世界だ。可能かな?」

「もちろんでございますお客様。それなら、丁度オススメしようとしていた異世界の条件にぴったりでございますよ」

「そ、そうか。それで料金なんだけど……」

「10万円になります」

「え……じゅ、10万……!?」


 10万だと⁉ それでハッキリと悟った。ここは、ぼったくりの店。


 普通なら、もうこれで店を飛び出してさよならする。だけど……だけど、このメイドさんがまるで本当に異世界から飛び出してきたような美人だったっていうのもあるけれど、なぜだがもう少し会話を続けたいと思った。


 だけど……


 だけど、奥の部屋から怖い人が出てきたら直ぐに、ダッシュで逃げようとそれだけは心に決めていた。普段ゲームばかりやっている俺だけど、足の速さは少し自信がある。


「げ、現金で10万円ですか?」

「はい。もしくは、無料でという事もできます」


 え? どういう事だ? 絶対にぼったくりの手口か何かと思う。


「まずは、お試しとして無料でお楽しみ頂いて、それでもしお気に召して頂けたら次回ご来店の時に代金を支払って頂いてもかまいません」

「え? それじゃ、試すだけ試してそれでもう辞めてしまってもいいって事ですか?」


 メイドさんはにこりと微笑むと、両手を俺の方へ差し出した。


「それじゃ、まずはお試しって事で。お客様のスマホを貸して頂いてもよろしいですか?」


 当然、データを抜き取られると思う。


「大丈夫です。お客様の目の前で行いますので」

「何を!?」

「アプリを入れさせて頂きます。それで異世界へ行って冒険する事ができます」


 言っている事がやっと理解できた。つまりこういう事だ。このお店は、メイドカフェのような作りにもなっているが、何かソシャゲを宣伝しているお店なのだ。それで、来店した客にお試しだと言って客のスマホにソシャゲをおとし、プレイしてもらって面白ければゲームを購入してもらう。


 ……それならまあいいか。ゲームは、好きだしお試しならそれでやめてしまってもいい訳だし。


 俺は、自分のスマホを取り出すと、ロックを解除してメイドさんに手渡した。


 すると、メイドさんはそのスマホを掌に乗せて何か呪文のようなものを呟いた。すると、スマホが一瞬光を放ち、輝いたように見える。


「はい、これで完了です。どうぞ」

「え? ど、どうぞってなにを……」


 自分のスマホを確認すると、画面には『アストリア』というロゴの入ったアプリが入っていた。画面をタッチして何処かのサイトからダウンロードするわけでもなく……いったい何をしたのだろうかと考える。


 だが、からくりが解らない。店に置いてある何かで遠隔操作で何かをしたのだろうか? しかし、それを聞いてもこのメイドさんは魔法ですとか答えそうなので、それを聞くのをやめた。


「それで……これからどうすればいいんでしょう?」


 メイドさんはにこりと笑った。


「これで、全て完了でございます。そのアプリ【アストリア】は、当店を出られました時から使用する事が可能です。起動すれば説明がでますので、それに従って選択して頂ければ異世界へ転移する事ができます」

「そ、そうなんだ。解りました、ありがとうございます」

「お試し期間中ですので、まずはご使用してみてください。それでは、良い旅を」


 俺はペコリと頭を下げると、店を出て真っ直ぐ駅に向かい電車に乗って、練馬にある自分の住んでいるアパートへと帰った。


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