Phase.299 『羊達の新たなエリア造り』(▼大谷 良継)
丸太小屋や井戸のある木々に囲まれた拓けたエリア、それがスタートエリア。そしてその北側にある川の流れるエリアが、川エリア。
スタートエリアの東には、今は草木が生い茂ってジャングルのようになってしまっているけれど、一昨日までは草原地帯が何処までもという位に広がっていた。
だからそこは、草原エリアと名付けられていた。そして更にその草原エリアの東には、他の転移者を受け入れてわ商売などをしているパブリックエリアがある。
あと……そうだった。スタートエリアと草原エリアの南には、一応有刺鉄線や一部バリケードを作って拠点とはしているけれど、まだぜんぜん調査もしていない未開拓地帯の南エリアがあった。
これが、今僕たちのいる拠点の全容。
そして更にまた新たなエリアが加わって、僕たちの拠点はもっと大きくなる。
そう、僕と小早川、そしてカイに和希。あとメリーと他27匹のストレイシープは、スタートエリアの西側に、新たなエリアを造ろうとしていた。もちろん、このクランのリーダーである椎名さんの了解は得ている。
しかもどう作るか一任されているので、なんだかもうワクワクが止まらない。これまで生きてきて、人に任される事もなかったし、あったとしても面倒ごとだったり……だから今は、物凄く楽しい。
とりあえず僕たち4人と、28匹のストレイシープは、まとまってスタートエリアの西側――外と内を区切っているバリケード前まで移動をした。
小早川が腕を組むと、その横にいる3匹のストレイシープが、小早川の真似をして偉そうに腕を組んだ。これは、可愛い。
「さて、どうするか。リーダーにエリア作りを一任すると言われたからには、我らの自由に作って良いという事であろうから、ここは思いきって我の帝国を作り上げるか!!」
「え? 帝国か。いいんじゃない」
即答すると、小早川は驚きを隠せないという表情をした。
「え? いいの?」
「いいんじゃないかな。ね、カイ。和希もそう思うよね」
「いいと思うでござるよ。ただ先に、メリー達が安心して住める場所を作り上げる事ができればでござるが。そしたら拙者も自分の城を築城するでござる」
「いいねー、それじゃ僕も! 僕も自分の為に、この『異世界』についての資料や、色々手に入れた貴重な物を保管しておける小屋を造りたいなー」
椎名さんは、メリー達の住む場所を造るのに、具体的な広さについて何も言っていなかった。つまり可能な範囲であれば、それも自由にできるという事。
「そ、そうか。それなら遠慮なく我の帝国を造ろうぞ!」
「でもその前に――」
「まずは、エリアを使えるようにしなければならんな」
「そうだね。それじゃ、早速始めようか」
そう言うと、全員が僕の方を向いた。え? あれ?
戸惑っていると、カイが僕の肩を叩いた。
「それじゃ早速、良継殿! 拙者らに指示を――」
「ぼ、僕が⁉」
頷くカイと和希。小早川も皆と同じ意見だった。
「そうだろう。何をきょどっておるのだ! 我の帝国を造り上げる策を、さっさと述べよ!! さあ!!」
えーーーー!! まいったな、いきなり述べよと言われても……でも、なんだか嬉しい。
「そ、それじゃあ、まずエリア作りから始めよう」
「どうやって?」
「それじゃ小早川君は、メリー達を連れて成田さんのもとへ行って有刺鉄線とそれを張る杭を、もらってきてくれるかな?」
適任だと思った。なぜなら、メリー達は小早川にも凄く懐いている。小早川も上手くコミュニケーションを取れているみたいだし。
「解った。我に任せい!」
「あ、あとそれとハンマーとかそういう、杭を打ち立てるのに使う道具とか、そういうのも一緒に持ってきてほしいな」
「うむ、よかろう。それでは、早速成田さんのもとへと行ってくる!」
「頼んだよ」
小早川はメリー達を連れて、成田さんを探しに行った。残ったのは、カイと和希。
「それで拙者達はその間、どうするでござるか?」
「うん、僕たちはとりあえず外に出て草を刈ろう。これだけ草が生えていると、先がどうなっているか解らないし」
和希が唸った。
「うーーん、そうだね。物凄い草の量だよ。木だっていっぱい生えているし……この先に何か潜んでいるかもしれないし、僕らだけでこの作業はちょっと危険じゃないかなー」
「拙者も不安がよぎるでござるよ。小早川氏とメリー達が戻ってきたら、全員で作業を進められるでござるが……リーダーも言っていたでござるが、やはりここは危険な魔物が現れてもいいように、誰か助っ人を頼むべきではござらんか」
「そうだね。解った、そうしよう。そう言えば、草刈りの鎌とか木を切る為の鋸とかそういう道具も必要だもんね」
3人でアハハハハと笑い合う。
「それじゃ、カイはここにいてくれる? 僕と和希で草刈りの為の道具と、誰か魔物が出てきても追い払ってくれそうな人を探して連れてくるよ」
「解ったでござる。それではここで、良継殿と小早川氏を待っているでござるよ」
「くれぐれも僕たちが戻るまでは、拠点の外へは出ないでね」
「まだ死にたくは、ないでござる。絶対に一人では出ないでござるよ」
カイを一人残して、僕は和希と一緒に草刈りなどの道具の調達と、拠点作りの際に魔物と遭遇しても追い払ってくれそうな人を探しに向かった。
とりあえず、思いつくのは翔太さんか鈴森さんかトモマサさんだけど……トモマサさんは、今日はもとの世界へ戻っていると言っていたので、やはり翔太さん達を探す事にした。




