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Phase.297 『アルミラージ その8』



 ――――狩場が完成した。


 直径20メートル以上はある拓けた場所。ここに獲物を追い込めば、狩りもしやすいはず。


「それじゃ、頑張って」

「え? 成田さん、一緒に狩りはしないんだ?」

「ああ、だって兎って言ったって、狂暴な奴なんだろ? 僕もそりゃ勇敢に戦えるようにはなりたいけれど、そうなるのは今じゃないと思ってね。それにこれから、拠点内に生えまくっている草木を除去して回らないといけないしね。このままじゃ、知らない間に危険な魔物がバリケードを越えて侵入してきても、気づかないだろ」

「確かにそうだな。解った、それじゃまた後で」


 成田さんは草刈り機を持って、拠点へと戻って行った。その後ろ姿を3人で見送ると、長野さんが見張りに使っていた大きな岩から飛び降りようとしたので、声を上げて止めた。


「長野さん、そこから降りないでください!!」

「え? どうした、何か問題か?」

「いえ、ここで獲物を狩るのに、その場所はいいなと思って。俺と北上さんで、アルミラージを見つけてここへ誘きよせるんで、長野さんはそこから獲物を狙ってください!」

「なるほど。でも儂の散弾銃(ショットガン)は散弾式で、遠距離には向いてはいないからの。かといって、銃の腕もあまり自信がある方ではないし。それなら美幸ちゃんの方が、適任じゃないかね」


 北上さんの方を振り向くと、彼女はにこりと笑った。


「私はどっちでもいいよー」

「自信はある?」

「愚問だね。ユキ君、知っているでしょ、私の弓の腕は」

「あはは、確かにそうだった。愚問だった。じゃあ、北上さんに任せるよ。ここにアルミラージをおびき出すのは、俺と長野さんでやろう。いいですよね、長野さん?」


 長野さんは頷いて、了解のサインである親指を立てた。


 大きな岩の方に北上さんが向かっていくと、北上さんの腕を長野さんが掴んで上へと引っ張り上げる。そして岩の上に北上さんが昇り切ると、長野さんは下に降りて俺の方へと歩いてきた。


 俺は再び北上さんに声をかけた。


「それじゃ、ここにいてスタンバイしていてくれ。それと一応、できるだけ身を潜めてもらっていた方がいいかも」

「りょーかい! ユキ君と長野さんも、くれぐれも気を付けてね」

「解った、ありがとう」


 長野さんと二人で、草が生え渡る中に入り込む。手には鉈。少し、自分が緊張しているのが解る。


「長野さん、このまま進んでもいいですか?」

「ああ、いいだろう。じゃが、くれぐれも気を付けるんじゃ。モンタ君達がどうなったか思い出して、しっかりと警戒して進むんじゃ」

「解りました」

「本当に何か起きたのか解らんが、びっくりする程草木が生い茂っているのでな。とりあえず、緊急時以外は銃は使わずに行こう」

「そうですね、バンバン撃ちまくっていたら、とんでもない散財になってしまいますしね」

「それと、あまり拠点……というか、狩場からは離れんでおこう。儂らは、奴らをまず狩場まで誘いこまなければならんからな。それに今いるこの場所も、既にアルミラージのテリトリーになっておる」

「長野さんには、なぜそれが解るんですか?」


 俺の質問を聞いた長野さんは、少し笑って手に持っている鉈で近くの草を掻き分けた。そして地面に見える土のようなものを俺に見せた。


「これはもしかして?」

「通常の兎のは、もっとこう小さくてやや楕円だったりする、コロっとしたもんなんじゃがな。アルミラージのフンもそういうのはあるんじゃが、こういう土くれみたいなのもするんじゃ」


 アルミラージのフン。フンがあるっていう事は、ここにアルミラージが生息しているという事。まさか、こんな拠点に近い場所にあったなんて……


 今まで気づかなかったか、もしくは知らない間にここへ移動してきたのか。それは解らないけれど、確かにもう少し歩けばモンタとモージが襲われたさっきの場所。


「剣を抜いた方がいいですか?」

「いや、鉈のままでいい。この草の茂っている場所では不利じゃ。戦わんようにして、襲われたら狩場まで一気に走った方がいいじゃろ。そしてそこへ誘い込めたら、剣を抜いて狩ればええ」

「解りました」

「じゃが、くれぐれもアルミラージを相手にする時は、奴らのサイドへ回り込んでからじゃ。正面からだと、たちまちあの鋭い角を突き付けてられて、ロケットのように飛んでくるからの」


 モンタは太腿を刺されてあんなに出血していたし、モージも跳ね飛ばされたみたいになっていた。あんなのをもしも、腹とかに命中してしまったら……死ぬかもしれない。


  だからしっかりと、長野さんの言ってくれた事を心の中で復唱して務める事にした。


「来るぞ、椎名君!!」


 ガサガサガサ……


 目の前の草が大きく揺れた。


「どうする、椎名君! 早速じゃが、逃げた方がいいと思うが……」

「ええ、逃げましょう!! このまま逃げて、狩場に誘い込みましょう!」


 ガサガサーーッ!!


 大きな草の音。何かがこっちに向かってきている音。


 俺達はその音に気付くとすぐさま回れ右して、もと来た道を駆けた。


 ガサガサガサガサーーー!!


 物凄い勢いで何かがかけてくる。振り返る暇もない。


「長野さん!! 1匹じゃないですよーーーー!!」

「とりあえず、逃げるんじゃ!! このまま逃げてあの狩場まで誘い込み、仕留めるんじゃ!!」

「北上さーーーーん!! 獲物だあああああ!!」


 もう直ぐ、狩場まで戻れる。そこで息をひそめて待っている北上さんにも知らせる事ができるように、大声で叫んだ。


 草の茂みを突っ切って拓けた場所に出た。


 とりあえず、狩場まで無事に戻ってこられた。だけど、そう思ったのは束の間。右脹脛に痛みが走った。

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