Phase.296 『アルミラージ その7』
この拠点は、俺から始まった。
そしてここまで作り上げられたのは、皆のお陰。その中でも一番、拠点をここまで大きくして安全にしてくれたのは、成田さんの力が最も大きいと思った。
いくつにも増えた小屋や、拠点を守るバリケード。その更に外側を囲む、有刺鉄線。そのほとんどの作業を成田さんが中心になってやってくれている。
だからこそ、そういう事に関しては絶大な期待感がある。今や成田さんの拠点作りや修理などは、俺達のクランになくてはならないものになっていた。
成田さんは、「ちょっと待ってて」と言って何処かへ駆けて行った。俺は、未玖達にもう行くと伝えると、長野さんと北上さんと揃って店を出て、その前で成田さんを待った。
すると成田さんは、何か長くて重そうな物を手に持ってきた。
「はあ、はあ、はあ! やあ、お待たせ!」
「成田さん、それはもしかして……」
「そうだよ、草刈り機。かっこいいだろー?」
「か、かっこいい!!」
そう言おうとしたら、先に北上さんが言った。両手を合わせて草刈り機を見つめて、目を爛々と輝かせている。女の子ってあまりこういう物に、興味をもたないと思っていたけれど、単なる偏見なのかそれとも北上さんがちょっと特殊なのか。でもこういう時に共感しあえるって、なんだか嬉しい。
長野さんも声をあげた。
「おおー、こいつはいい! まさか、こんなものを異世界へ持ち込むとはな」
「あっはっは。知っているかもしれないけれど、この草刈り機はたまに街中や公園、河川敷なんかでも見かける奴で、燃料はガソリンだ。もちろん、ガソリンも持ってきている。電気は使用しないから、電源もいらないしこれなら簡単に疲労もせず、短時間で草を除去できるという訳さ」
「成田さん!!」
「椎名さん!!」
唐突に、なぜか握手を交わす。同じクランで仲間でもあるけれど、成田さんとはまだそれほど絡んでもいない。いい人である事は間違いないと思っているけれど、まさかこれほどノリが良い人だったとは。
「それじゃ、早速草刈りをお願いしていいかな?」
「もちろん、任せてくれ。それじゃ、早速始めよう。アルミラージを狩る為の狩場を、何処に作るか決めてくれ」
俺は成田さんに対して頷くと、長野さんと北上さんに言った。
「それじゃ、リベンジと行こう」
「解った。それじゃ、行こうか」
「でもユキ君。草刈り機で草を刈るのは解ったけれど、私達も草刈りしない? マシンに及ばないのは解るけど、手伝えばその分は足しにはなるはずだし、それだけ作業も早く進められるし」
「そうだね。解った、それじゃそうしよう。でも草刈りは、俺と北上さんだけでいいかな」
長野さんが、俺を睨んだ。
「おいおい、儂はまだ若いぞい。特別扱いはせんでいいぞ。自分の家の庭の草くらい刈れるわい」
長野さんジョーク。それが嬉しかった。
長野さんは、最初出会った時に仲間になって欲しかった。でもひとところに縛られたくないみたいで、一度は出て行ってしまった。そして再開して、今はここに居てくれている。更に今、拠点のすぐ外の事を自分の家の庭と言ってくれた。
つまりは、長野さんももう俺達の歴とした仲間であり家族。そしてここが長野さんの住まいでもある訳だ。
「そうじゃないんです」
「そうじゃないとは? 老体に気遣ってくれたんじゃろ? でも儂もまだまだ負けはせんぞ。こう見えて一人でこの『異世界』を冒険してきたんじゃからな」
「そうじゃなくて、草刈りをする場所は拠点の外です。もしかしたら魔物が襲ってくるかもしれないし、誰かが見張っていないと」
本当の事だった。以前、佐竹さん達がこの拠点に訪れてくれて、色々と作業を手伝ってくれた時。あの時、森に木々を伐採しに行っていた時にもウルフの群れに襲われた。
この辺りには、ウルフにゴブリン。その他にも懸賞金のかかった魔物だって集まってきているという。だから経験値の高い長野さんに、見張りを頼みたかった。
「なるほど、そういう事じゃったか。それなら、了解した。しっかりと見張りをしよう。じゃが、それでも絶対はないし、こう植物が伸び放題では見通しも悪いからの。皆も自身で警戒をして、武器を必ず身に着けておく事じゃ」
「はい、解りました」
決まった。
早速、草原エリアに移動して、バリケードを潜る。アルミラージの狩り場へと歩き出す。
10分程歩いた所で、俺は声をあげた。
「ここがいい。ここに狩場を造ろう」
ブルンブルン……ブブブブブブ……
目的地に到着すると、成田さんは草刈り機を起動させた。機械の先端に取り付けられた丸鋸が勢いよく回転する。そして草を凄まじい勢いで刈っていく。解っていた事だけど、圧巻だった。これは早い。
「それじゃ、長野さん。見張りをお願いします。北上さん、一緒に草刈りを始めよう」
「はーーい、それじゃ頑張ろう!」
近くにあった大きな岩に、長野さんはよじ登った。そして周囲をキョロキョロと見回して警戒をする。その間にも成田さんは、物凄い勢いで草を刈って行く。
それにしても凄い。もとの世界でもあれを使っている人を何度か見かけた事はあるけれど、かっこいいなーって内心思っていた。また次回、何かで使わせてもらえないかな。
「ユキ君! ぼーーっとしてないで。どうしたの?」
「え? いや、別に。それじゃ、俺達は俺達で草を刈って行こう」
「うん!」
俺は北上さんと一緒に鎌を振り上げると、それを目の前の草に振った。
天気が良くて、陽の光がまぶしい。草の匂い。なんとなく、子供の頃に夏休みになると、両親と帰っていた田舎を思い出した。




