Phase.295 『アルミラージ その6』
俺と長野さんは、何か思いついた北上さんに注目した。
「いい事というのは?」
「うん、ごめん。いい事っていうのとはちょっと違うんだけど、アルミラージを狩る為にはどうすればいいかっていう……それに気づいたっていうか」
長野さんは、腕を組んだ。
「ふむ。それでは、美幸ちゃんが気づいたっていう話を聞こうか?」
「はい。アルミラージを狩る方法なんですけど、やっぱり見通しのよくて広い場所でないと難しいと思うんです」
「それはまあ、確かに。しかしのお、草がこれほど生えていては、どうする事もできんしのお」
長野さんは、ああは言ってもそれでも最初は、狩りをする事はできるだろうとふんでいた。だけど思惑が外れた。なぜなら、俺達を襲ったアルミラージは、以前に長野さんが狩ったものよりも、狂暴だったらしいからだ。
モンタとモージがやられたのは、その事と俺達の経験不足が招いた結果だと思っていいだろう。でも実際にアルミラージの凶暴さや、どんなふうに攻撃を仕掛けてくるのかを実際に体験した事により、対策など考える事ができるようになった。
今度はちゃんと作戦を立てて挑む。
北上さんは、話を続けた。
「だからまず、準備をしようかなって思って」
『準備?』
長野さんと、セリフが重なってしまった。
「今、この拠点の周囲……内側もそうだけど、草が大量に生い茂っています。そこで拠点の外側、草原エリアの方とかいいと思うんだけど、そのあたりの草を一気に刈って拓けた場所を作る。それで、そこへアルミラージを誘い込んでから狩る。これなら、私も弓で仕留められる自信があるし……単純だけど、拓けた場所は拠点の直ぐ近くに作ればいいし。結局、あのアルミラージって魔物は普通の兎よりも大きいって言っても、一回りくらいだし、ちゃんと姿が見えていればそれ程脅威でもない感じが私はするんだよね」
確かに……確かに北上さんにそう言われればそう思えてくる。例えば周囲が拓けた場所で、見通しがいいとする。
そこにアルミラージがいて、向かい合って俺が立っている。俺の手には銃。銃の使用は、弾代が高額で使いたくないってだけで、それがなければアルミラージ相手に負ける気はしない……と思う。
長野さんは、自分の髭をいじくりながらも頷いた。
「確かにそうじゃな。草がこう生い茂っておらず、見通しが良ければ散弾銃でいちころなのは確かじゃ。じゃが儂の持っている散弾銃の散弾は命中率はいいが、飛び散って当たる。肉が駄目になるかもしれんからな」
肉? 俺は、気になっていたことを聞いた。
「それはそうと、長野さん。アルミラージの肉って食べられるんですか?」
「ああ、食べられるぞい。しかも美味い。個人的には、アルミラージの肉はスープなどにして食べると、より一層美味い気がするんじゃがな。無事に獲れたら試してみるとええ」
「そうなんですか。角が必要なので、どちらにしても狩ろうとは思っていましたが、角だけの為に……っていうのもなんだかなあって思っていたんで」
「はっはっは。そういうのであれば、アルミラージの毛も良質じゃぞ。角、肉、毛皮は利用できるじゃろ」
なるほど、なんだか俄然やる気が出てきた。
なんとしても、アルミラージを狩りたい。俺は北上さんに言った。
「それじゃ、早速草刈りからやり始めようか」
「うん、やろう! でもあれだよね。円形でも正方形でもいいけど、縦横20メートル位の広さはあった方がいいよね。あまり狭いと、アルミラージを追い詰めてもまた草場に逃げ込んじゃうだろうし」
「逆に、草場からのあのロケットみたいな、角の突進があるかもしれないしね」
だけど、直径20メートル位か……鎌や鉈を持ち出して、今から作業しても半日位かかるだろうか……でもまだ今日は午前中だし、やる前から諦めるのも嫌だ。
そんな俺の考えに気づいたのか、長野さんが手を叩く。
「そうじゃ! 他の者、手の空いている者にも手伝ってもらおう。そうすれば、直ぐにアルミラージの狩場はできあがるぞい」
アルミラージの狩場。なんとなく、興奮するいい呼び名だと思った。
「よし、それじゃ早速始めよう。まずは、翔太や鈴森から声をかけてみようかな。あの二人なら、2つ返事だろうし」
「でもトモマサは、駄目だよ」
「え? どうして?」
「トモマサは今日は『異世界』にはいない。なんかもとの世界でやる事があるから、戻ってくるのは明日だって言ってた」
「そうなんだ。まあ、俺や北上さんだって元の世界じゃ会社員だしね。用事があるのは、解る」
そういや、トモマサは現役プロレスラーだっていうのを思い出した。っていう事は、もしかして今日は、大事な試合があるとか? どちらにしても、本人に聞いてみないと解らない事なので、あれこれと考えるのをやめた。
「それじゃ、長野さん、北上さん。アルミラージの狩場作りを始めよう!!」
『おおーーーーっ』
二人が揃って声をあげると、後ろから誰かが俺の肩を叩いた。振り向くと、そこには成田さんが立っていた。
「あれ? 成田さん! いつからここに?」
「お疲れ様ー。3人共気づいてない……っていうか、このお店結構、今混んでいるから気づかれていなかったけど、実は隣でご飯食べていたんだよ。それでちょっと聞こえちゃったんだけどさ、面白そうだから僕にも協力させてくれないかな?」
「それはもちろんいいけど……協力っていうのは、どっちの?」
「もちろん、狩場の方だよ。要は、草を刈ればいいんだよね。それなら、実はいいものがあるんだよ」
「い、いいもの!?」
「昨日からの、この異常事態。この辺りは何処も、一晩でジャングルみたいになってしまったからね。これじゃ、いつ拠点内に魔物が忍び込んできても解らないから、ちょっと草刈りをしようと思って、もとの世界へ戻っていいものを調達してきたんだよ」
成田さんは、かけている眼鏡をクイっと持ち上げると自信満々にそう言った。
いいものって、いったいなんだろう。




