Phase.294 『アルミラージ その5』
やはり一撃がある魔物は危険だ。
っという事で、未玖を連れて行くのは、危険という事になった。
未玖は、少し寂しそうな顔をしたけれど、直ぐに頷いてくれた。目の前で、モンタとモージがアルミラージによって突き飛ばされたのを目の当たりにして、その危険さを解ってくれたんだと思う。
だけど俺は、アルミラージの角を手に入れる事を決して諦めていなかった。なんとかして、狩りたい。
未玖を狩りに連れていけないと決まると、未玖はパブリックエリアにある店の方へ向かった。そこには他の転移者達、つまりお客さん達がいて、今は三条さん達が対応してくれている。その助っ人に行くのだという。
俺はアルミラージを狩る為にどうすればいいか、作戦を練り直す事にした。長野さんと北上さんと一緒に、未玖について行き未玖や三条さんが働いてくれているお店に入って席に座った。ここなら、落ち着いて話ができる。
「いらっしゃいませ、リーダー」
「あっ、出羽さん。出羽さんもここで働いてくれているんだ?」
「ええ。私達【喪失者】は、もとの世界へは戻れないからこうやってお金を稼ぐしかないから。それにこの拠点やお店ももっと盛り立てていきたいし」
「ありがとう。出羽さんにもそう言ってもらえると、心強いよ」
店は大繁盛していた。だからなのか、出羽さん、三条さんの他になんと児玉さんもエプロンをして働いてくれている。笑顔と活気に包まれている。
児玉さんは、ゴブリンの巣で、ゴブリン共に捉えられて檻に入れられていた人達の一人。助けた後、俺達のクランの正式な仲間となった。
早速、未玖と児玉さんが向かい合い挨拶をしあっている。人見知りの未玖は、もじもじとしながらも頑張って、これからよろしくお願いしますと言った言葉を交わしている。
「長野さん、ユキ君。折角だし、私達も何か頼まない? 私さっきのアルミラージから逃げたりなんかで、喉が乾いちゃったし」
「おお、そうじゃな」
「そうだね。それじゃ……すいませーーんっ」
「は、はい!!」
早速、未玖が注文を取りに来てくれた。エプロン姿も見慣れてきたな。
「私、それじゃカフェオレもらえるかな?」
「は、はい! カフェオレですね! かしこまりました」
「じゃあ俺は、珈琲でお願いします」
「儂も珈琲を頼む。ミルクも砂糖もつけんでいいからのう。ブラックというやつじゃな」
「は、はい! ホットコーヒーが2つですね。少々お待ちください」
注文を聞いた未玖はぺこりと頭を下げて、タタタとキッチンへ駆けて行った。俺達は未玖の頑張っている姿を見て、微笑んだ。
「それで、どうするんじゃ? 狩りを続けるんじゃな?」
「はい、気持ちは変わりません。アルミラージの角は、この拠点に絶対必要なものです。でもこんなにアルミラージを狩る事が、大変だとは思わなかったですよ」
「そうじゃな。儂が以前仕留めた奴よりも、狂暴な感じもするし、周囲も草が生い茂っておる。これは、かなり大変かもしれんな」
「お待たせしました」
三条さんが、俺達が注文したものをトレンチに乗せてもってきてくれた。テーブルに置いてもらうと、お礼を言った。
北上さんは、大井さんや未玖と同じく三条さんとも凄く仲がいいみたいで、「また後でねっ」と言った。三条さんも頷いて応える。
「もっと人数を増やして、一気に狩るというのものう……絶対、犠牲者が出そうだしのう」
「そう言えば長野さん」
「なんじゃ」
「長野さんは、アルミラージを以前狩って、角を手に入れてあの粉末を作ったんですよね」
「そうじゃよ。椎名君に渡したアルミラージの角の粉末、その全てではないが確かに儂はアルミラージを狩って角を手に入れて粉末を作った」
北上さんが突っ込む。
「え? その全てではないが……っていうのは、どういう意味ですか?」
「三鷹にいったじゃろ? そして銃などの武器を売ってくれる九条を紹介した。覚えておるか?」
「そりゃ、覚えています」
「前に話したと思うが、九条はもとの世界をメインに商売をしておるが、儂の知り合いには、この『異世界』で銃など様々なものを売っている者がいるんじゃ。その者から購入したんじゃ」
確かに以前、長野さんはその人の事を話していた。だけどその人が、拠点として商売をしている場所は、ここから結構離れている場所で、距離もあるという。そこへ行くまでに危険な場所も多いだろうし、魔物だって徘徊しているに違いない。
だから商品の価格は高いけれど、安全に会って取引できるという三鷹の九条さんを紹介してもらって会ったんだった。
なるほど……この『異世界』で商売をしている長野さんの知り合い、その人からアルミラージの角も買ったんだ。
「じゃあ、因みになんですけど、その長野さんがアルミラージの角を買った人は、どうやってアルミラージの角を手に入れたんですかね? 売るほど、持っていたって事ですよね?」
「ああ、自分で狩ったと言っておったがのう」
「どうやって?」
「それは儂も気になったんじゃがな、企業秘密と言うて教えてはくれんかったわ」
ワハハと笑う長野さん。
言われてみればそりゃそうか。もしも簡単にアルミラージを狩る方法があったとしたら、人には教えない。それは価値のある事だし、狩り方を人に教えてしまったら角が売れなくなってしまうし……至極、当然のこと。
うーーん、じゃあどうやって狩ればいいものかどうか……
「あっ! 私、いい事思いついちゃったー!」
北上さんが大きな声で言った。




