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Phase.293 『アルミラージ その4』



 ガサガサガサ……


 周囲の草が、音を立てて揺れた。ピリッとした殺気のようなものを感じる。


「ゆ、ゆきひろさん……」

「気をつけろ、未玖。周囲にさっきのアルミラージがいる。それに1匹じゃないぞ。複数に囲まれている」

「は、はい!」


 兎というのは、逃げるイメージしかない。草食だし、狩られる方の動物。だけど今、俺達に襲い掛かってきているのは、兎の方でしかも複数できている。まるで、狼などが狩りをするように……


 長野さんが、周囲に向けてそれぞれ3発、散弾銃(ショットガン)を発砲した。仕留める為ではなく、威嚇射撃。


「椎名君! 今のうちに、門田君のもとへ!!」


 未玖の事が気になったが、長野さんと北上さんがついていてくれる。なら、大丈夫だ。


 ガサガサと草場に入って行って、モンタを探す。手探り。まるで、草が生い茂る中を泳いでいるような、そんな感覚に襲われる。


「し、椎名さん……」


 微かな声!! モンタの声だった。


「し、し、椎名さん!! 助けて!!」

「どこだ、モンタ? ここか⁉」


 ガサガサガサ……


 草を掻き分けると、そこにモンタはいた。だがモンタの顔、両手と太腿は鮮血で染まっていた。


「モンタ!!」

「い、いてええッスよ、リーダー。た、助けてください」


 ガサガサガサッ


 草の音――モンタの直ぐ横の草場から1匹のアルミラージが顔を出した。危ない!! 俺は迷うことなく、腰に差していた銃を手に取りアルミラージに向けて発砲した。


 ダンダンッ!!


 2発続けて撃ったが、弾は命中せず。危険を感じたのかアルミラージは、モンタを襲う事をやめ、一旦草の中へと潜る。俺はその隙をついて倒れているモンタの後ろへと周り、抱き上げるようにして思い切り掴むと引きずった。モンタの悲鳴。


「いだだだだ!!」

「我慢しろ、我慢!! 今、助けてやるから!! 長野さん、モージ!! 手伝ってくれ!!」


 2人がこちらに駆けてくる。そして一緒にモンタを掴むと、そのまままた引きずった。モンタの悲鳴。だけどここでじっとしている方が、危険だ。だから少し辛抱してくれよ。


「長野さん、一度出直そう!! 北上さん、未玖、先に拠点へ駆けてくれ!!」


 頷く、2人。全員で一気に駆ける。


 アルミラージが生息しているエリアを無我夢中で駆け抜ける。その間も後方から、アルミラージが追ってきている気がした。その間、俺達は生きた心地がしなかった。


 考えてみれば、俺達はアルミラージを狩りにきたはずだったのに、いつも間にか俺達が狩られる立場になっていた。


「ユキ君!! バリケードがある!! 早く!!」


 北上さんの声に振り向くと、北上さんと未玖が拠点内へと入るのが見えた。よ、よし! 続けて俺達も拠点内に滑り込むように入る。


 怪我をしているモージに、血だらけのモンタ。大騒ぎしている俺達を見つけて、近くにいた成田さんと松倉君がやってきた。


「ど、どうしたんだ? 椎名さん! 何事だ?」

「皆でアルミラージを狩りに行ったら、逆に狩られかけて。モンタが大怪我をした。急いで、不死宮さんの治療小屋へ連れていきたいんだけど」


 モンタは、太ももをアルミラージに角で突きさされて出血していた。血の量からいっても、もしかしたら動脈を傷つけられたのかもしれない。ただ、腕や顔にはただ血がついているだけで怪我は負ってはいなかった。


「解った、それじゃ僕が連れていこう。松倉君、手伝って。あと、他に怪我している者は?」


 成田さんの質問に、俺達はモージの方を振り返った。モージは顔を左右に振った。


「お、俺のは大丈夫ッス。かすり傷ッスからね。でもモンタの事、心配なんで一緒について行くッスよ」

「解った。それじゃ、モージ、成田さん、松倉君。モンタを頼む」


 3人はモンタを連れて、モンタの怪我の治療の為にスタートエリアの方へと向かった。


 俺は銃を手に持つと、長野さんと北上さん、それに未玖と4人で暫くバリケードの外を睨んでいた。拠点の外に、アルミラージが迫ってきていたからだ。


 拠点の外、先ほど俺達が逃げてきた方をじっと15分程見つめ続けて、その後そのままその場に座り込んだ。未玖と北上さんも同じように座り込み、長野さんは煙草を取り出して咥えると火を点けた。


「ユキ君、どうする?」

「……アルミラージが、あんなに危険だとは思わなかった。魔物だという事は、しっかり理解していたつもりだったけど」

「ああ……でもアルミラージの角は、必要だよね」


 アルミラージの角は、欲しい。でもこれは、思っていたよりもかなり危険な相手だ。長野さんの方を振り返った。長野さんは、煙草を一服している。


「長野さんは、よくアルミラージを狩る事ができましたね。こんなに危険だったなんて……」

「儂も驚いとる。以前狩った時は、ここまで狂暴ではなかったようじゃしの。もしかしたら、たまたまそういう個体に遭遇しただけなのかもしれんが、どちらにしてももっと見渡しのいい場所で狩りをした。これだけ草が生えまくっていれば、どう考えても魔物に有利じゃからな」


 アルミラージは、草場の中からあのロケットのような勢いで、俺達の太腿などを狙って角を突き立ててくる。長野さんが言うように、見渡しのいい平原や荒野などならもっと狩りやすいのかもしれないけれど……


 北上さんが心配そうな顔で言った。


「どうする、諦める?」

「いや、アルミラージの角はやっぱり欲しい。トイレで汚物の浄化に使用している粉末は、もうなくてはならない物になってしまったし……ただ、アルミラージが予想よりも大きく危険な魔物だという事は解ったから、これからちょっとどうするか、考えてみようと思う」


 さて、どうしようか。考えるとは言ったものの、どう考えるんだ?


 どちらにしても、俺達に反撃してきたアルミラージが、ここへこのまま入ってくるという事も考えられるから、もう少しここで様子を見ていた方がいいだろう。


 その間、アルミラージをどうやって狩ればいいか攻略方法を考えよう。





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