Phase.290 『アルミラージ その1』
「おーい、ユキくーん」
「あれ、北上さんだ!」
北上さんも今日は、早起きをしていた。因みに大井さんは、まだ夢の中らしい。
ここだけの話。どちらかというと、大井さんの方が北上さんよりしっかりしているように見える。だけど大井さんは、朝とかかなり弱いみたいだ。まだ寝ているとかそういう事を聞くと、あの大井さんが……って、なんだかホっとしてしまう。
北上さんは、早速俺に今日の予定を聞いてきた。それでアルミラージを狩りに行く話をすると、ついてくると言い出した。
「ねえ、一緒に行ってもいいでしょ?」
「それはいいんだけど……」
「いいんだけど?」
長野さん、そして未玖もついてきたいと言っている事を伝えた。もちろん未玖が、拠点の外へ出る事や、狩りをするという事にも北上さんは驚いた。
「それじゃ、絶対行きたいー!! だって未玖ちゃんも行くんでしょ!! 私が行けば、未玖ちゃんも安心でしょ? 守るし!」
未玖に詰め寄る北上さん。明らかに気圧されている未玖は、ゆっくりと頷いた。北上さんの満面の笑み。まあ、いいか。北上さんが一緒に来てくれるなら、とても心強いし未玖を連れて行くならもしもの時は、北上さんに未玖を任せる事もできる。
「解った。それじゃ、北上さんも一緒に行こう」
「わーい、それじゃ狩りには弓がいるよね」
「ああ、一応ザックにタオルやナイフ、あと水とかも用意してきてくれ」
「りょーかいー」
草原エリアで待ち合わせる事にした。長野さんが、以前にそっちの方でアルミラージを目撃したからだった。
鉈とナイフは必須。そして剣と銃を装備して、色々と狩りに必要なものを用意してザックに詰め込み背負う。
皆との待ち合わせの、草原エリアに向かった。場所は、中央部分バリケードの手前。
途中、翔太に会ったので一緒に来るか聞いてみた。すると、翔太は行かないと言った。絶対来ると思ったのに……
それで何か予定があるのか聞くと、どうやら今日は大谷君達と共に、メリー達の住むエリアを作る手伝いをするらしい。鈴森やトモマサも一緒だろうとも聞いたら、そうではないらしい。
トモマサは、ちょっと用があるからと言ってもとの世界へ戻ってしまったらしく、鈴森も例の南エリアで色々となんかするらしい。鈴森の事だから、まあ放っておいてもいいだろうけど、南エリアはまだ未開拓エリアなので十分に気を付けて欲しい。
誰かの声がした。目をやると、こっちに向かってくる人影が見える。はっきりと解らないのは、まだ辺りに霧が発生しているから。
次第に姿が見えると、それが未玖だと解った。こっちへ駆けてくる。そして長野さん、北上さんと続けて現れた。
「それじゃ、行こうか」
「はい!」
「うむ」
「ほーーーっい!」
あれ、北上さんが一番テンションが高い。
「それじゃ、拠点の外へ出るけど……長野さん、アルミラージが生息していそうな場所へ先導してもらっていいですか?」
「よし、では儂についてきてくれ」
長野さんは鉈を手に持つと、辺りにびっちりと生えている草を払いながら前へと進んだ。せめて、霧が完全に晴れてから行動すればよかったかな。でもベテランの長野さんがいてくれれば、大丈夫だろう。
長野さん一人に働かせてはいけないと、隣に移動して一緒に鉈を振った。後ろから北上さんと未玖がついてくる。俺は振りかえって二人に言った。
「絶対俺達から離れないようにして、ついてきてくれ。何かあれば、直ぐに叫んで知らせて」
「は、はい。解りました」
「りょーかいでありまーす、隊長殿―!」
北上さんは敬礼のポーズをとってそう言ったあとに、未玖の方を向いてウインクした。なるほど、ようやく解った。なぜ北上さんがこんなにテンションが高いのか。
つまり未玖の事を思っての事なのだ。未玖は最初に出会った時、この『異世界』でたった一人で狂暴な魔物から逃げ続けていて、震えながらも生き続けていた。この世界の美しさも知っているけれど、同じ位に恐ろしさも知っている。それに、そもそもまだ幼い女の子だ。
拠点の外に出る恐ろしさや危険も、十分に知っている。だから、俺について行きたいとは言ったものの、内心は凄く緊張しているようだった。北上さんはそれに気づいて、未玖の緊張を和らげてあげようとしている。
やっぱり北上さんや大井さんもそうだけど、頼りになるし優しい人達だ。これはちょっと嫌味だけど、あのなんのやりがいもない会社に、こんな凄い二人がいるのが不思議でたまらない。
いや、俺と翔太が落ちこぼれだからこそ、会社でのやりがいを見つける事ができないのかもしれないけれど。
色々あれこれ考えながら鉈を振っていると、いつも間にか拠点から離れていた。長野さんの合図で、一旦立ち止まる。
「到着ですか?」
「ふーむ、この辺かのう。流石の儂もこれだけ草木が生えまくってしまった後じゃと、はっきりと今いる位置を把握できんの」
未玖も北上さんも周囲を見渡す。草草草。あれ? ふと、未玖がナイフしか身に着けていない事に気づく。
「な、長野さん!」
「なんじゃ?」
「あの、うっかりしていました。未玖がナイフしか、持ってきていなかったです」
大笑いする長野さん。
「はっはっはっは。確かにナイフ一本では、狂暴な魔物から身を守るのは心細い。それどころかアルミラージを見つけても、とても狩れんな。よし」
長野さんはザックをゴソゴソと漁ると、拳銃を取り出した。西部劇とかで見た事がありそうな、リボルバー銃。それを未玖に手渡す。戸惑う未玖。
「え? これ、でも銃ですよね!?」
「持っていなさい」
銃を怖がってなかなか受け取らない未玖。無理もない、銃というのは強力な武器で、引き金を引けば簡単に人の命も奪える。
「これはお守りだと思って。儂らは未玖ちゃんに何かあった場合、命をかけて全力で君を守る。でももし儂らがピンチ……椎名君や美幸君がピンチの時に、未玖ちゃんの助けが必要になるかもしれない」
長野さんがそういうと、未玖は銃を手に取った。
「使い方は、移動しながらに教えよう。それと言っておいてなんだが、銃弾は結構高価なものだから、何処かで狩り用の道具を作ろうか」
「解りました」
返事をすると、俺達はまた長野さんに従って移動を続けた。




