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Phase.289 『早くなる俺の朝』



 尾形さんは、ケラケラと笑い煙草を吹かした。


「偉そうに言ったがよ、白状すると実は拠点は昨日作ったばかりなんだ」


 尾形さんが、他の仲間達とこの拠点から北にある川の近くに、拠点を作ったのだという事は解った。だが一日で拠点なんて作ることができるのだろうか。もし場所だけ決めたとしても、その場所だって今は、草木が生い茂って密林みたいになってしまっているんじゃないだろうか。とうぜん疑問に思い、聞いてみた。


「この椎名さんの拠点にお邪魔してから、俺達もこの世界に拠点を作りたくなっちまったんだよ。真似したって言われりゃそれまでなんだがよ、帰る場所があるっていいよな。でも俺だって、以前からこういう場所を作りてーなんていうのは、考えてたんだぜ」

「別にそれはいいと思うけど」

「いいのか? 椎名さんが話が解る男で良かった」

「真似も何も、それは自由だから。だけど、昨日その場所を見つけて、拠点にしたって事は……」

「そう、椎名さんがコボルト討伐やゴブリン討伐でせわしなくしていた時かな。どういう訳か、周辺の草木が増えまくっていて、こんな日に原因も解らずに冒険ってのも危険かと思ったんだがな。ここに留まっているチームもいた訳だが、俺達は思い切って外へ出た訳よ。そして川まで行ってみたらなんとな」

「拠点にできる場所を見つけた……でも、そこも草木が生い茂っていただろうし、拠点を作る為の資材だって運ばないといけないし、バリケードを作るのだって、とても一日じゃ無理なんじゃ……」


 それか必要最小限に小さい拠点。それなら一日でできる。有刺鉄線かロープを張っただけとも考えられるけど……だが違うようだ。尾形さんは、首を左右に振って笑う。


「違うんだ?」

「ああ、聞いたら驚くぞ。実はな、川の近くに廃村を見つけたんだ」

「え? 廃村!?」


 そんなものがあったんだ……でも長野さんか佐竹さんも、異世界人が作ったと思われる廃村とか宮殿のようなもの、そして戦場跡を見つけたと言っていた。


「椎名さんは、こんな立派な拠点を立てているし、まさか俺達から横取りなんてこたあしないと思うから、話したけどな。丁度、ここから真北だよ。大きな川もあって、水にも困らないしな。そこを俺達の拠点とすると決めた。因みにそこではないが、女神像も見つけている」

「ええ、女神像まで!!」


 俺達は、女神像を利用してもとの世界へ転移して戻ることができる。未玖や佐竹さん、長野さんや北上さん。大谷君もそうだけど、他の人達の話から、この『異世界(アストリア)』には複数の女神像がある事も知っている。だけど、こんな近くにもう一体あったんだ。


「まあ、そんな感じで、その廃村にこれから行って、俺達のクラン『魔人の拳』の拠点とする。いいよな? 認めてくれるよな。ご近所さんだもんな」

「ああ、もちろんだ。何かあったら言ってくれ」

「おー、ありがとう。それじゃ、俺らはこれからそこへ移る。ここの使用料は、既に支払い済みだから」


 頷いて、解ったと手を軽くあげた。そのまま見送ろうとしたが、一つ気になる事があった。


「尾形さん、そう言えば気になっている事が?」

「なんだ?」

「その尾形さんの拠点には、市原や山尻や池田も行く感じなのかな?」

「そりゃあ当然だろ。あいつらはもう、俺の仲間だからな。何か問題か?」

「いや、ちょっと気になって。ありがとう」


 別れると、尾形さんは早速仲間達に声をかけて集めると、ここの拠点を出て行った。その中には、さっき名を出した市原達もいて、去り際に俺の方を睨んだ。


 あいつらを仲間にした覚えはないし、あの時も言う事もきかず、勝手な事ばかりしていた奴らだ。だがあいつは、俺の事をきっと敵として見ている。大谷君達を助けた事や、あいつの仲間……モンタ達をこちらに引き込んだからだ。例え、そんなつもりじゃないと言っても、結果はそうなのだから言い訳はしない。


 だが心配と言えば心配だ。尾形さんが……


 こんなことを言っちゃなんだが、市原達は性根が腐っている。尾形さん達が上手く奴らをコントロールできれば、もしくはいい奴に会心させてやることができればと思うけど……まあいいか。そんな事まで、気を回していられない。


 ここは『異世界(アストリア)』。俺の知らない事だし、俺は俺の仲間の心配しかしないし、できないんだから。


 ビイイィィーーーーッ


 ジッパーの音。振り向くと、俺のテントから未玖が顔を出した。まだ少し寝ぼけている。続けて未玖の抱いている兎も顔を出したが、外が寒いせいか直ぐに引っ込んだ。


「ゆきひろさん……おはようございます」

「おっ、起きたか未玖。おはよう。でもまだ早いから寝てていいぞ」


 寝てていいと言ったのに、未玖はゴソゴソと動いて上着を着ると、テントの外へ出てきた。


「きょ、今日は日曜日ですよね」

「え? あ、うん」

「それじゃ、ゆきひろさんは、今日はずっとこの拠点にいますか?」

「うーーん、実はね――」


 長野さんと、アルミラージを狩りに行ってみようと思っている事を話した。後は、この拠点内の整備。


 まだジャングルみたいになってしまっている場所だらけで、このままじゃ住みにくいし危険だ。だから早く拠点内とその周辺だけでも、草刈りなどして見渡しやすいようにしておかなければいけないという事を説明した。


「あの……今日は、わたし……ゆきひろさんと一緒に行動してもいいですか?」

「え? それはいいけど、アルミラージ狩りは危ないよ」


 悲しい顔をする未玖。え? アルミラージ狩りにも連れて行けと……拠点の内側にいても、魔物がそこら中にいるこの世界では、100%安全とは言えない。


 なのに、未玖は更に危険な拠点の外へ出たい……正確には、俺と長野さんの狩りについてきたいと言った。

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