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Phase.286 『メリー達28匹』



 長野さんは、草原エリアにある自分のテントへ戻ると言った。だけど草原エリアは今、草木がかなり生い茂っていて見通しが悪く、草原とはとても言えないようなエリアになっていた。


 だから草刈りなど完了するまで、スタートエリアに居ればいいのではと言った。だけど長野さんは、大丈夫だと言って草原エリアの方へと移動していった。


 うーーん、まあ以前みたいに何処かへ旅立ってしまう訳でもないし、いいか。言っても同じ拠点内にはいる訳だし。


 クランで作ったルールの一つ。拠点内なら、基本的に何処へ行くのも自由である。


 まだろくに探索もしていない南エリアも、俺達の拠点内ではあるから、そこも含めていいのかどうかって判断すると悩み所だけど。


 でもその南エリアで、鈴森がテントを張りたいって言っていたので、いいんじゃないかと返事をしてしまってはいる。鈴森は、そういうのに慣れているみたいだし。


 スタートエリアに戻り、丸太小屋近くの大きな焚火――翔太達が集まっている方をちらりと見る。翔太の大声や、北上さんやうららの笑い声が聞こえてくる。


 まだまだ盛り上がっているなあ。


 そう言えば、大谷君達はどうしているのかな。ふとそう思って、見回り及び散歩がてらに拠点内を探して回った。すると彼らは、森路エリアの鬱蒼とした場所にいた。


 森路エリアは、木々が沢山生い茂っていた場所だから、植物が急成長するという驚くべき現象が起きてからは、まるでジャングルのようになってしまっていた。だけどそんな場所でも、彼らを見つける事はわりかし簡単だった。


 なぜなら、28匹ものモコモコした白い生物が1ヵ所に集まっていたから。


「あっ、リーダー!!」


 先に小早川君が気づいてくれた。大谷君もいる。足に結構な怪我を負ったが、こうして皆で楽しんでいる所を見ると大丈夫そうだな。


「椎名さん!!」

「クランリーダー!!」


 メエエ!!


 メエエエエ!!


「はいはい、ちょっと皆落ち着いて。それより、皆楽しんでいる?」


 草木が生い茂った鬱蒼とした場所。まるでジャングルのようになったその場所に、少し拓けた場所をつくってそこで焚火をしている。


 焚火は丁寧に石を積み上げて作られていて、立派なものに見えた。また竈になっているので、その上にそのまま網を乗せて、肉を並べて大谷君達も焼肉を楽しんでいた。


 おや、向こうにも竈がいくつかあって……上に乗せられているのは、野菜ばかり……っていう事はアレか。


 メリー達ストレイシープ用の食事。彼らは草食なのだろう。魔物って言っても、羊系の魔物だし。


 全員が立ち上がって俺に注目した。


「いいから、いいから。皆、楽にして! そんな畏まらないで! ほら、皆座って!」


 そう言って、大谷君と有明君の間に座った。3人に聞いてみた。


「どう? 大丈夫な感じ?」


 言葉はぜんぜん足りないけれど、これだけでなんの事なのか解る。そう、メリー達の事。小早川君が言った。


「その事であれば、我にお任せ下され! この28名のストレイシープを、見事に我が精鋭にしたててご覧にいれましょうぞ!!」


 メ?


 首を傾げるストレイシープ達。向こうにいる者達は、美味しそうに焼き野菜を頬張っている。確かにこうしてみると、可愛いな。女子達が、メリー達の事を可愛い可愛いと言って追い掛けまわしているのも頷ける。


「それでメリー達なんだけど、この拠点で俺達と住んでもいいって感じかな」

「はい、もう住むつもりみたいですよ」


 大谷君が即答した。


「そうなんだ。それなら良かった」


 今度は、有明君が言った。


「拙者もメリー達が仲間になってくれれば嬉しいでござるよ。何せ、メリー達は拙者達がこの『異世界(アストリア)』で初めて出会った、友好的な種族でござるから」


 うーーん、種族ではないんだよな。【鑑定】のスキルで調べた時に、ストレイシープって名前が表記されていて解ったんだけど、同時に魔物とも書いてあった。種族と言えば当然、エルフやドワーフ、獣人なんて思い浮かべるけれど……メリー達は魔物だ。


 だけどあえて突っ込まないでいた。メリーは魔物だけど、だからそれがどうしたって感じだからだ。友好的な者には違いないし、今では歴とした俺達のクランの仲間なのだから。


「そうだな、それじゃ暫くは、君達と未玖にメリー達の事は任せようかな」

「ええ? 僕もいるんだけどなー」


 何処からか声がした。立ち上がり、あちらこちら見渡すと、向こうの焚火の辺りに固まっているストレイシープ達の中から、明らかに人の手がニュっと出た。


「え? 和希?」

「僕もここにいたのにー!!」

「そんなモコモコの中に隠れていたら、解らないよ」

「だって、見てくださいよ! この『異世界(アストリア)』の魔物が今、こんなにも友好的な感じで僕の目の前にいるんですよ!! これは興味深いよ!!」


「え? だってこれまでにも、ゴブリンやらあの泥水に住んでいた化物魚――メガケラトドゥスだっけ? そういう魔物は結構見てきただろ?」


 和希は、立ち上がった。それでやっとモコモコの中にいる和希の姿を、しっかりと確認する事ができた。


「それはそうですけど、皆逃げたり襲ってきたりじゃないですか。メリー達は、とても友好的な魔物です。こんな魔物もいたなんて……正直、驚きを隠せないですよ」


 確かに俺も驚いているし、翔太や未玖だって驚いている。


「そうだ。メリー達が俺達とここで暮らすなら、ちゃんと住めるエリアが必要だな。なんせ28匹もいるし」


 和希は、唸りだした。大谷君がそれを見て答える。


「それなら、南エリアなんてどうですか? あそこは、まだ手付かずですよね」


 南エリア……あそこはまだ未開拓だし、線虫の魔物なんてのもいたし……正直あまり気が進まない。


 別に何処かいいところはないかと、考えてみた。

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