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Phase.284 『あの時の川』



 頼りになる仲間達と焚火を囲んで、焼肉や酒を楽しむ。女子達に甘えようとして、嫌がれる翔太。それを見て爆笑する皆。


 夜になると、想像以上に寒くなる。だけどこうして気の合う仲間達と、笑って食事して焚火を囲んだりしている拠点の中は、暖かく感じた。


 立ち上がると、翔太が気づいて声をかけてきた。


「お? どしたどしたー! もう酔っ払ったのか、ユキー。今日は宴だぞ、パーティーはまだまだこれからだぞー! なあ、孫いっちゃん!」

「よるな、鬱陶しい奴め」

「なんだよー。そんなら、小貫さんに同意を求めよう」

「あはは……」


 小貫さんも困った顔をしている。だけど、同時に楽しんでもいる。俺は翔太に言った。


「便所だよ」

「え? 大きいの?」

「小さい方だよ。いちいちそんなん聞くなよ」

「まあーー、奥さん聞きました! 小さい方ですってよ。しかもいちいちそんなん聞くなって、おめーは乙女かっつーーの! ギャハハハ」


 こ、こいつ……


 でも翔太の言葉に、未玖や北上さんや大井さん、皆笑っている。そういう楽しさの肥しになっているのなら、まあいいかな。


「あれーー、ほんとにおトイレなんだ?」

「そうだよ。それじゃ、行ってくる」


 うららにそう言って、俺は一人トイレが設置してある場所に向かった。


 そう言えば成田さんと松倉君、以前言っていたトイレも完成させていた。以前は丸太小屋のトイレしかなかったけれど、今は各エリアに男女別で複数ある。しかもちゃんとペットボトルに、汚物の浄化用にアルミラージの粉末も常備して。


 見た目も立派なものだ。小屋になっていて、天井や壁もあるから雨風が強い時でも、十分に安心してトイレを使用する事ができる。


 トイレに着くと、早速中へ入って用を足した。浄化をしておこうと、トイレにあるアルミラージの粉末の入ったペットボトルを持つと……量がかなり減っている事に気づいた。


「ふーむ。だいぶ減っているな。他のトイレもそうだろうか。でもあれから仲間も増えたし……そりゃ減るか」


 アルミラージの角の粉末は、汚物などを浄化する強い力がある。他にも、作物を急速成長させる効果もあって畑などにも使用している。この世界では、かなり重要なアイテム。それが減ってきていた。


 まあ、色々と使っているのだから減るのは当たり前だし、いつかは無くなってしまうもの。だとすれば、新たに補充をしなければならない。


「ふーーむ。どうしたものか」


 トイレを出て夜空を見上げる。沢山の星々と、二つある月。


「やっぱり、アルミラージを狩らなくてはいけないんだろーなあ。もしくは、誰かから入手する方法か」


 考えながらトボトボと歩き始めると、なんとなく川エリアの方へ歩いてしまっていた。ここもかなり草木が増えて、えらい事になってしまっているけれど、川の近くまで行くと水が流れる音がするので誘導してくれる。


 昨日まではこんなに生え広がっていなかった草を掻き分け、川に出る。そしてきょろきょろと見回すと、人影を一つ見つけた。誰だ?


 煙草の煙。近づいてみると、長野さんだった。実に美味しそうに喫煙している。


「長野さん!」

「おおっ、椎名君か。どうしたんだ? 宴はまだ続いているのじゃろ?」

「色々考え事をしていたら、こっちまで歩いてきていて」

「はっは。考え事か。まあ、拠点の中であればそれなりに安全じゃろうし、最近成田君達が更に拠点を囲っているバリケードを強化して、有刺鉄線も張り直したりしているみたいじゃからのう」

「みたいですね」

「まあ、立ち話もなんじゃ。こっちへ来て座りなさい」


 長野さんはそう言って、目の前の大きな石を叩いた。俺はそちらに歩いていくと、その石に座って長野さんと向かい合った。


「今は皆、スタートエリアかパブリックエリアに集まっているせいか、ここは余計に寒く感じられるなあ」

「はい。でも、空気が澄んでいて……この綺麗な夜空と、川のせせらぎには癒されます」

「確かにそうじゃな。ほい、これ」

「え?」


 長野さんは、傍に置いてあった自分のザックに手を突っ込むと、ハイボールと表記されている缶を二つ取り出すと、一缶こっちへ投げた。俺はそれをキャッチすると、「頂きます」と言って蓋を開けて飲んだ。


「ぷはーー、美味いのう」

「美味しいですね」


 長野さんと二人で、暫しこの場所で酒を楽しむ。いや、この『異世界(アストリア)』の自然を、楽しんでいるのかもしれない。


「そう言えば、アレですね」

「アレとは、なんじゃ?」

「長野さんと初めて会った場所は、ここでしたね」


 長野さんは「おお!」という驚いた顔をすると、酒を一口飲んで煙草を吸って吐き出した。


「あの時は、椎名君……未玖ちゃん……儂の3人だけじゃったな」

「そうです」

「危うく、君に殺される所じゃったかもれん」

「それを言うなら、それはこちらのセリフですよ。だって、長野さんは散弾銃(ショットガン)を持っていましたから」


 二人で笑う。こういう時間は好きだ。


「そう言えば、アルミラージの角の粉末なんですけど……量がかなり減ってきてきていて」

「ほう。確かにアルミラージの角は、便利じゃからな。よくも使うし、量もいるか。まあ、入手できんこともないが……」


 例の、銃を売ってくれる人かなと思った。九条さんとは別の人で、この『異世界(アストリア)』にいて、この世界で商売をしている人。この拠点からは少し距離のある場所にいるって前に聞いた。


「しかし、それだと高くつくからなー。あれなら、直接アルミラージを狩りに行くというのもいいかもしれんな」

「え? そんな事できるんですか?」

「儂がやったアルミラージの角の粉末、それは全部儂がアルミラージを狩って、自分で粉末にしたものなんじゃよ。つまり、可能じゃ」


 だが……って続くと思った。だってアルミラージは、魔物で角のある奴だ。きっと危険性もあるに違いない。


 だけど狩りをするという事については、とても興味をそそられた。

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