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Phase.283 『宴 その2』



 翔太のいる場所に行くと、そこには他に鈴森や未玖、北上さんに大井さん、小貫さんと長野さんまで集まっていた。


「あれ? トモマサはいないのか?」

「トモマサ? ああ、トモマサはあっちあっち!」


 翔太の指した先に見える焚火。その周りには、トモマサの他に最上さんや出羽さん、団頃坂さんがいて、周囲には無数の酒瓶が転がっていた。なるほど。あそこは、のんだくれの集まりだな。


「他の皆もいるんだよな」

「とうぜん。皆、思い思いの場所で、楽しんでるぜ。ユキーが今日は宴だって言っていたからな」

「そうなんだ。そういえば、パブリックエリアは大丈夫なのか?」

「パブリックエリア?」


 現在俺達の拠点には、パブリックエリアなるものがある。草原エリアの東側にある場所で、他の転移者がそこでキャンプを張っている。確か、今は何十人もいるはずだけど……


 その質問については、大井さんが答えてくれた。


「パブリックエリアは、心配ないわ。今あそこには、確かに他の転移者がいてキャンプしているけれど、堅吾君がいてくれているから」


 そうなんだ、堅吾が……


「でもなんか悪いな。後で堅吾と交代しに行ってやろう」

「それなら大丈夫。私が後で交代に行くって言ってあるし」


 長野さんも言った。


「儂ももう少し楽しんだら、そっちの方へ行くから大丈夫じゃ」

「そうなんですか。あれ……そういえばメリー達は何処? メリー達の姿が見えないけれど」


 そういうと、皆なぜか笑った。メリー達の面倒を見ていたのは、未玖だし。でも未玖は今、ここにいる。あれ? じゃあ、いったい何処へ行ったんだ?


 未玖は立ち上がり、俺の前に来ると服を軽く引っ張った。


「メリー達は、大丈夫ですよ。今は皆、良継君達と一緒に宴を楽しんでいますよ」

「ええ!! って事は大谷君も、治療小屋から抜け出したんだ。皆、もう大丈夫なのかー」

「秋秀君やカイ君、和希君も一緒だったから大丈夫ですよ、きっと」

「和希も一緒なのかー」


 スタートエリアを見渡すも、そんなモコモコした連中はいない。スタートエリア自体がとても広いし、今は辺りも陽が完全に落ちて真っ暗だ。だから何処かにいるのかもしれないけれど、まったく見えない。


 俺がメリー達の事をかなり心配しているのが伝わったのか、北上さんが笑った。


「あはははー、大丈夫だよユキ君。この拠点内には絶対いる訳だしね。多分、何処かこのエリアの隅の方か森路エリア、もしくは草原エリアにいると思うよ」

「それならいいんだけど」


 心配しすぎかな。


 明日は拠点内の、この異常に成長して増殖した草木をどうにかしよう。そうすれば、辺りの見通しももっと良くなるし、もう少し安全に思えるはず。


 いずれにしてもこうも辺り一面、草がボーボーに生え渡っていると、拠点内に何かが侵入してきても気づかないし、解らないからな。早いうちになんとかしないと。


「ゆきひろさん、座ってください」

「ユキーー、こーーい!! こっち来て座れ!! ほら、肉も酒もあるんだからよ!!」


 未玖と翔太にせかされて、焚火の前に座る。ふう、当たり前だけど火の前は暖かいなー。


「それじゃ、ユキーも加わったし、もう一度乾杯しようぜ、カンパーーーイ!!」


 翔太が立ち上がってそういうと、北上さんと大井さんがノリノリでそれに答えた。俺は、少し照れつつも「カンパーイ」と言って酒の入ったコップを掲げると、長野さんと小貫さんと鈴森も同じように合わせてくれた。


「それじゃ、肉をとってあげるね」

「ちょい待ち、美幸ちゃん! こういうのは、自分で取る方がより美味しいって思うんだよ!」

「そんなことないよ。女の子にとってもらった方が、美味しいよね!」

「それはまあ、そうだけど……それじゃ、美幸ちゃんは、俺のんとってくれよ。俺はユキーのん、とるからよ!」

「えーーー!!」

「なんだよ、それ、えーーーってーー。俺にも優しくしてくれよーん」


 翔太と北上さんのやり取りを楽しみながら、未玖がとってくれた肉をタレにつけて口へ放り込んだ。こ、これは美味い!! めちゃくちゃ美味い!!


 やっぱ、こうアウトドアで食べる焼肉っていうのも最高だと思える要因の一つなんだろうけど……成田さん、かなり奮発したな。牛だし……これを買ってきてくれた成田さんには、お礼を言って、ちゃんと立て替えてくれているお金を渡さないといけない。


「おおーー、楽しんでいるねー」


 噂をすれば、成田さんだった。手には、ハイボールの入った缶。もしかして、色々と飲み歩いている?


 翔太は俺にしたように、焚火の前の空いている所をポンポンと叩くと、成田さんに言った。


「さあ、こっち!! 成田さん、ここ空いてるから、こっち来て座りなされ!! 美女もここには集まっているぞ!」

「おお、確かにそうだな。それじゃ、僕もちょっとお邪魔しようかな」


 成田さんが座ろうとした所で、三条さんとうららも混じってきた。二人は未玖の両サイドに座ると、未玖と何か話した。すると未玖が立ちあがって何処かに行ってしまった。


 しかし未玖は暫くすると、ザックを持って戻ってくる。そしてそのザックを開けると、なんとも可愛らしい兎が顔を出した。おお、これが未玖の言っていた兎。


「きゃーーー、可愛い!! 触ってもいい?」

「はい、大丈夫ですよ」

「うららも! うららも触りたい!」


 女子三人で盛り上がる。すると、そこに北上さんと大井さんも混じり始めた。そんな女の子たちを、なんとも言えない目で酒を飲みながら見ている翔太。きっと、アレだろうなー。兎になりたいとか、絶対思っているんだろうな。


 まあ、ここは普通ではありえない異世界なんだし、諦めなければそれは実現するかもしれないけれど。


 長野さんは、そんな楽しげに騒いでいる皆を、なんとも言えないような優しい眼差しで見ていた。でも暫くして、急に立ち上がると向こうに歩いて行ってしまった。きっと煙草を吸いに行ったのだろうと思った。

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