Phase.282 『宴 その1』
うで時計を見ると、19時を回っていた。だけど、気持ちに余裕がある。それはまだ今日が土曜日だからだ。
スタートエリアを見渡すと、ここが一番草刈りもされていて、辺りが見渡せるようになっていた。まあ、それでもあちらこちらに草は残っているけど。
丸太小屋の前、デッキに腰をかけて――今日も色々あったなーと思い返して暫く黄昏ていると、なんだか無性に食欲を掻き立てられるいい匂いがしてきた。肉の焼けるにおいだ。
誰かの笑い声。周囲には、小屋の他にテントやタープ、アウトドア用のテーブルや椅子が設置されていて、何ヵ所も焚火が作られていた。
「おおーーーい!! ユキ――!!」
元気のいい声。翔太だな。
「おおーーーい!! ユキ―――!! こっちこいよ!! こっちこっちーー!!」
ふう、やれやれ。
デッキから立ち上がると、翔太がいる場所へと向かう。先ほど見たように、周囲にはいくつもの焚火が見えてそのそれぞれで、皆楽しくやっている。
なるほど。特に仲の良い者達で固まって、肉や野菜を焼いたりしているのか。そりゃ、盛り上がる。
翔太のいる場所に辿り着く前に、早速声をかけられた。
「椎名さん!」
「リーダー!」
「お、おう。皆、やってるかねー」
モンタ、十河、茂山、陣内、蟻群、小田。なるほど、仲良し不良グループで集まっているのか。焚火の前にキャンプ用のリクライニングチェアに設置して、それに座っている小田に目を向ける。
「おいおいおい、もう大丈夫なのか?」
「う、うっす。もう、大丈夫です。いてて……」
確か、グリーンスネークに巻き付かれて締め上げられて、アバラが折れているとかじゃなかったのか。
「ほらみろ、もう少し安静にしていた方がいいんじゃないのか」
「もう大丈夫ッスよ。それに今日は焼肉パーティーッスよ。とても寝てなんていられないし……自分の場合、沢山食った方が直りが早いんスよ」
「そんなバカな……でも、本人が大丈夫って言うなら、まあいいか。でもアレだぞ。もとの世界へ戻ったりもするなら、お前たちは煙草も酒も駄目だからな」
『う、うーーっす!』
「俺達の仲間であるなら、ちゃんとルールは守ってくれよ。絶対にだ」
『う、うーーーっす!』
うーーん、大丈夫かー。
「それはそうと、皆もうあちこちで焼肉パーティーを始めているみたいだけど、その肉とかってどうしたんだ? 野菜は、ここで育てた奴だろ?」
モンタが代表して答える。
「うッス! 全部がこの世界のって訳じゃないッスけどね。未玖ちゃん達が畑からとって食べてもいいって言ったから、畑からもらった奴もあるッス! 他の肉とかは、成田さんと志乃さんがもとの世界へ戻って買ってきてくれて」
「そうなんだ」
そうだったんだ。でもこんな皆の分、大量の肉を買って、随分とお金がかかったんじゃないのかな。それなら俺達も出さないと駄目だ。もしくは、店のあがりやコボルト討伐の懸賞金――あのお金はクランの為のものだから、あそこから出して負担すればいい。
「ユキー――!! 何してんだよ、さっさとこっちこーーーい!! はよ来ーい!!」
また翔太の大きな声。
「皆は今日はこの後、帰るのか?」
「いえ! 学校は一応行こうかなって話してたんすけど、明日は日曜ですしね。帰るのは、月曜の朝でいいかなって全員思っています」
十河がそう言った。
「そうか、じゃあ明日も一緒だな。皆、今日は頑張ってくれたけど、明日もまたやる事沢山あるから、明日の朝まではゆっくりしてくれ。小田もあまり、無理しないように」
『うーーーッス!』
市原の仲間だった頃は、同じように憎たらしく思えた7人。だけど今は、なんか弟みたいで可愛い。いや、でも俺もう31歳だから息子? いや、そんなことはない。歳の離れた弟って言ってもいけるんじゃ……
「おいーー!! ユキ――!! はよ、来いって!!」
うるさいなー。ああ、もう行くから。
モンタ達に「じゃあ、また後で」と言うと、翔太のいる方へと歩き出した。すると、また別の場所から声をかけられる。
「椎名さん! こっちこっち!」
「松倉君! あれ!? それに不死宮さんも……あれ!」
松倉君と不死宮さん。更にそこには、ゴブリンの巣から助け出した、4人がいて焚火を囲っていた。えっと、青木さんに郡司さんに児玉さん。あと、田村さんか。
4人は俺の顔を見るなり、頭を下げた。
「いいって、いいって! 楽にして! それより、皆ももう大丈夫なのか?」
松倉君と不死宮さんに言った。すると二人は頷く。本当に大丈夫か? 4人を見ると、手には肉の乗ったお皿。お箸を手に持ち、あれ……缶ビールまで飲んでいる。
松倉君が笑った。
「あっはっはっは! やっぱり、お酒に肉。これが一番怪我を治す万能薬でしょ! っね、鬼灯ちゃん!」
「ええ、そうね。4人とも衰弱というか、少し脱水症状がみられたけれど、怪我は擦り傷程度だし大丈夫なんじゃないかしら。むしろ、栄養のあるものをしっかり食べて、笑ったり精神的にも癒した方がよっぽどいいと思うわ」
不死宮さんは、あえて田村さんの失った右目の事は言わなかった。彼女を見ると、眼帯をしている。不死宮さんは、そういう配慮もできる人なのだと改めて思った。
郡司さんが立ち上がると、青木さんと児玉さんも同じように立ち上がり俺の方を向いた。
「いいよ、いいよ。座って楽にして」
「椎名さんには、本当にお世話になりました」
「あはは、別にそんな事……郡司さん達も俺と立場が逆なら、とうぜん助けてくれただろ?」
「それはまあ……でも椎名さん達は、僕らの命の恩人です。あのままあそこにいたら、ゴブリン共に死ぬよりもつらい目に……しかもここに置いてもらって」
児玉さんに手を握られる。あまり女性に対して俺も抵抗力が少ないので、ビクっとしてしまった。
「助けてくれてありがとう。私達、なんでもします」
「な、なんでもって……それならあれかな。郡司さん達は、スマホを失ってしまって、もとの世界へは帰れない。だから良ければ俺達の仲間になって、この拠点を一緒に盛り立ててくれないか」
「そ、それは、行き場のない僕らにしては、願ったりだけど……」
「俺達は、『異世界』へやってきてから、まだ何もこの世界の事をしらない。異世界人にも会ったことがないし、拠点の周辺ですらよく知らなかった。だからこれから色々と、協力して欲しい」
4人は大きく頷いてくれた。そして、何度もありがとうと言ってくれた。
伝えてはいるけれど、4人を助けるきっかけになったのは、大谷君とメリーだ。それに助けに行ったのは、俺だけじゃない。翔太や小貫さん、トモマサに堅吾、鈴森に長野さんだって4人を救ったんだ。
松倉君と不死宮さん、そして新しく仲間になった4人と会話を続けていると、まーーた翔太の大きな俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
だから今行くって言っているのにー!!




