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Phase.280 『4人の状態』



 不死宮さんの治療小屋、そこへ入ると中には、ゴブリンの巣で助けた人達が運び込まれていた。大谷君と小田もいる。


 そしてその二人を心配してか、治療している不死宮さんの他にも、有明君と小早川君もいた。


「リーダー!!」


 小早川君の声で、全員がこちらを振り返った。俺は、急に恥ずかしくなって「ど、どうも」と言って軽い会釈と片手をあげて挨拶を返した。そして、まず不死宮さんに声をかけた。


「どうかな?」

「そうね。結論から言えば、まあ大丈夫よ」

「あっちの4人も?」

「大丈夫。一人は片目を失っているけど、命に別状はないと思う。安静にしていれば、いずれ回復するわ」

「凄いな」

「そうね。でも椎名さん、あなたの英断と迅速な行動で4人共助かったのよ」

「いや、そうじゃなくて、不死宮さんが凄いなって」

「え? どうして?」

「皆の治療をしている。もしかして、もとの世界では医者とか看護師とか?」


 俺の質問に、有明君や小早川君も注目している。誰も、彼女にそれは聞いてはいないのだ。


 不死宮さんは、片手の甲を口に軽くそえると上品に笑った。


「違うわ。私は学生……医者じゃないわ」

「大学生?」

「高校生よ」

「そうなんだ。随分と、大人びて見えるから、社会人でなければ大学生かなって」


 正直な感想だった。不死宮さんは、独特な雰囲気を持っていて、知的な感じがする。大学生にも見えるし、そうでなかったら、大学院生。兎に角、知的で大人に見えるって事だ。


「それは誉め言葉として受け取ってもいいのかしらね」

「ああ、そうだよ」


 ここで言葉を切った。これ以上は、大谷君達も聞いているし、そんなつもりはないけれど、なんか口説いているとかではないけれど、そんな感じもしてなんとなく恥ずかしい。


「じゃあ、ありがとうって言っておくわ。治療は、エイドキットの他に、この世界の薬草を使用したわ。この世界の薬草は、本当に魔法のように強力。傷もふさがったし、心配はないと思う」


 小屋の中には、色々な容器や液体の入ったフラスコ、薬草の束に、不死宮さんが色々と書き記しているノートなどがどさりと置いてあった。それに自然と目がいったが、まずは気になっている4人と大谷君からだと思い、そちらを見た。


 4人の方へ行くと、皆意識はあった。俺の方を向いて注目をしている。そして起き上がろうとしようとしたので、慌てて止めた。


「いいから、いいから!! とりあえず、皆無事で良かった。今日はもう、ゆっくりと休んで」

「ありがとう……」

「助けてくれてありがとう……」

「なんてお礼を言えばいいか……」


 先に助けた檻に入れられていた男性2人と、女性1人。その3人が何度も頭を下げる。俺はもういいから、照れるからと言って頭を摩った。すると男性の1人が言った。


「僕の名前は、郡司由敏といいます。隣で横たわっているのは……」

「俺は青木。青木和則」

「私は、児玉亜里香です」


 自己紹介してくれた。これで、1人を除いて皆の名前が解った。


「俺の名前は、椎名幸廣。えっと……じゃあ、そっちで寝ている女の子は……」


 片目を失った女の子。助けた時、彼女は恐怖で震えていた。今も、毛布を被って震えている。今は、まだ話しかけない方がいいのかもしれない。そう思った所で、児玉さんが代わりに応えてくれた。


「その子は、田村愛ちゃんです」

「知り合いなんだ」

「知り合いっていうか、ゴブリンに捕まって閉じ込められた時に、近くにいたからその時に話をして……」

「そうなんだ。でも、大変だったね」


 郡司さんが再び俺に話かけてきた。


「あの……」

「はい」

「ここは、何処なのでしょうか?」

「ああ、ここ? ここは――」


 俺はもちろん田村さんにも聞こえる声で、この場所の事や俺達の事、クランの事などを説明した。もちろん、コボルト討伐の時に大谷君がいなくなって、その捜索からゴブリンの巣に至って、それで皆を見つけて助けた経緯など。


 4人や他のストレイシープを助けたいと言い出したのは、俺ではなくここにいる大谷君、そしてストレイシープのメリーだという事も告げた。


 それを聞いた3人は、同じく並んで横になっている大谷君に向かって、何度もお礼を言って頭を下げた。大谷君は凄く恥ずかしそうにして、照れていた。だけど物凄く嬉しそうだった。


 彼がここに来た時、彼を虐めていた市原達もここにやってきた。その時に彼から、市原達に虐められている事などを聞いた。そして自分は虐められっ子で、いつもビクビクして怯えていたって。自殺も考えたと――


 だけど本当の彼は、強かった。優しくて強い。そして信頼する事ができる男。


 市原達に虐められて絶望していたというけれど、それはまだ自分の本当の姿に気づいていなかっただけで、大谷君……有明君や小早川君もそうだけど、自分で思っているよりも遥かに強くて頼りになる人間なんだと思った。


 青木さんが言った。


「あの……椎名さん。お願いがあります」

「え? あ、はい。なんでしょうか?」

「俺達は、スマホもないし、もとの世界へは戻れません。どうか、ここに置いてはもらえないでしょうか?」


 4人とも、【喪失者(ロストパーソン)】であることは、既に理解している。だから当然、そのつもりだった。


「もちろん、いいですよ。でも条件がある」

「その条件とは?」

「ここにいるなら、俺達の仲間になる事。あとちゃんと、ここのルールに従う事。ルールは簡単、他の者と仲良くするとか、勝手に拠点の外へ出ないとか、そういうのだから」


 3人は、俺の提示したルールを聞くと安心した顔をして、「ありがとう」とか「お願いします」とか何度もまた言ってくれた。


 ふう。兎に角、皆無事で良かった。


 もし調子が良ければ、これからこのスタートエリアで焼肉パーティーをやるから、来てくれと言って小屋の外へ出た。


 さて、それじゃちょっと未玖の様子を見に行こうかな。未玖がいるのは、このスタートエリア。メリー達と一緒にいるはずだけど……


 辺り一面、まだそこらじゅうが伸びきった草で覆われているので、何処に未玖達がいるのか解らなかった。これは、まいったぞ。

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